トム・ヨーク(Thom Yorke)来日公演で聴きたい1曲 レディオヘッドからザ・スマイルまで与良健吾が全キャリアより選曲
タワーレコードの音楽ガイドメディアMikikiから依頼がないので勝手に選曲しました。
Radiohead “High & Dry”
by 与良健吾
1995年の冬のある日、翌年には妻となる恋人と入った難波の喫茶店。スピーカーから流れる美しい曲に耳を奪われた。
(実際には大阪弁で会話しています)
「いい曲ね。」「そうだね。一体誰の曲なんだろう。」
2人でホットコーヒーから上がる湯気を見つめながら聴き入った。
その美しい曲は「クリープ」がヒットしたUKロックバンドRadioheadがリリースした新曲High & Dry。
プロデュースを担当したジョン・レッキーの功績はThe Bendsという素晴らしいギターロックアルバムを制作した」という当然の功績以外に2つあると思う。
まず1つは、トム・ヨークにジェフ・バックリィのライブを観に行くように進言したこと。
幽玄なジェフの歌声はトムに大きな影響を与えたらしく、その後、停滞していたアルバム制作が1〜2テイクで完了したという。
どこか掴みどころがなく漂うようなトムの歌声はこの時期に得たものであり、ベンズ以降のレディオヘッドの音楽を表現する最大の武器となっている。
そしてもう1つは、この美しい曲をレディオヘッドの楽曲として発表したこと。
トムが大学時代に書き、当時在籍したバンドのレパートリーだったHigh & Dry、1993年にレディオヘッドとして録音に取り組んだものの、発表されずデモテープに埋もれたままとなっていた。
これをジョン・レッキーが発見し、再度録音するように指示するが、バンドはこれを拒否。仕方なく1993年バージョンをリミックスしてリリースする形に。
しかし、これはリードトラックとして、ベンズの発売の少し前にシングルとして発表され、レディオヘッドの代表曲の一つとなった。
困ったことにHigh & Dry、1998年の福岡公演以降一度も演奏されていない(setlist.fm調べ)。再度の録音を拒否したぐらいだからよっぽど好きではないんだろう。筆者も2001年に一度だけレディオヘッドの公演に行ったが聴けなかった。
先日、妻と夕食のおでんをいただきながら録画済のMTV「トム・ヨーク特集」を観た。
妻はベンズ以降のレディオヘッドを知らない。いや、厳密に言うとクリープとHigh & Dry以外の曲を知らない、というかあまりレディオヘッドに興味がない。
「いい曲ね。」High & Dryを聴きながらあの日と同じように妻は呟いた。
しかし以降辛辣なコメントが続く。
Idioteque「パソコン1つ買うたったらこれや」
I Might Be Wrong「うわー暗い、暗いわー」
There There「ホラービデオやん」
悲しい気持ちになり、おでんから上がる湯気を見つめながら熱燗をひっかけた。
それはさておきトム・ヨーク来日。レディオヘッド、スマイル、ソロから幅広く披露しているようだ。
今年始まったソロツアーのセットリストはAパターン、Bパターンとほぼ固定しつつあるが、ここでトムヨークにお願いしたいことが一つある。
レディオヘッドがHigh & Dryを披露しなくなったのは先述のとおり1998年の福岡公演。トムヨークは11月18日に福岡サンパレスで公演を行う。
High & Dryを止めてしまったこの地で、もう一度High & Dryを始めてみませんか。そして最終日の京都、この美しい曲を平安神宮まで響かせてみませんか。