2023年のアルバムオブザイヤー その2
2023年のアルバムオブザイヤー、その1はストーンズだけで力尽き、しばらく放置していましたが、さっさとまとめないと永久に放置してしまいそうなので、休日を利用して記事にしました。今回は2回目、2位から8位までをまとめました。
2. タオルケットは穏やかな / カネコアヤノ
「怖い夢」と「鈴の音」という2つのワードがそれぞれ違う楽曲で使用されているこの作品。インタビューなどを読んでいないのでどんな意図が込められているのか不明だが、この2つのワードが大きく印象に残っている。
「こんな日に限って」の「鈴の音」からは、ある不吉で悲しい事象を想像してしまう。
「窓際に飾った プレゼントの猫 こんな日に限って 綺麗に見える」「金色に光る 完璧な海 生きているうちに 良かった見れて」「私が揺れると 鈴の音が鳴る 悲しみを消すための 傷が絶えない」という歌詞。
「鈴」は「プレゼントの猫」に付いているのか「私」自身に付いているのか。
でも、そんな不安な気持ちは次の曲「タオルケットは穏やかな」で「鈴の音」が打ち消してくれる。安心する存在として鳴る「鈴」が「怖い夢」を遠ざけてくれる。
そして迎えたフジロック2023。「こんな日に限って」の鬼気迫るパフォーマンスは、泣かせるどころか私を放心状態にし、棒立ちにさせた。続くラストナンバー「わたしたちへ」の長い長い轟音アウトロは「怖い夢」を完全に飲み込み、洗い流して行った。
カネコアヤノは強かった。
3. This Stupid World /Yo La Tengo
アカウント名をヨラ・ケンゴにしているのに選ばないわけにはいかないヨ・ラ・テンゴの17作目。ヨラはアンダーグラウンドなのにアットホームなところが好きなのだ。
不穏なワンコードループに歪んだギターが絡んでくるアルバムオープナーSinatra Drive Breakdownからして相変わらず最高である。
続くFalloutは初期の傑作Sugarcubeを彷彿とさせるが、上滑りしそうな疾走感は安定した重力を伴う走り方に変化しており、キャリアを重ねた「今」だからこそ出せる音になっていた。
この2曲に限らず、彼ららしいアンダーグラウンドでインディーな響きを持つナンバーはどれも珠玉の出来。過去の名作に並ぶような傑作を、初めて彼らのライブを観る年に聴くことができたのは喜びだった。
4.the record / boygenius
今年のグラミー授賞式直前、突然グループ活動停止が発表された。とても残念なことである。去年の末頃まではフジロックかサマソニに来るんじゃないかと真剣に思っていたのだから。
USインディー女子三本の矢ボーイジーニアスは、誰かに折られることなく自ら解体したが、三人の手首に刻まれたお揃いの歯のタトゥーが示すように、それぞれの道を歩んでも、その「絆」は消えることはないと思っている。
いつの日か再び集い、素晴らしいハーモニーを聞かせてくれることを切に願う。
素晴らしいアルバムを残してくれてありがとう。
5.The Land Is Inhospitable and So Are We / Mitski
どこかラナ・デル・レイに似てる。
去年、街の古着屋でこのアルバムがかかっていたが、途中まで「ラナのどのアルバムだろう?」と思って聴いていた。気づいたのはかなり後になってから。
ラナの作品に特徴的なダークな響きが、ミツキのそれにはない。どこか穏やかな気持ちになるのだ。根本的な部分で暗くないと思う。
ラストナンバーのどこか日本の情緒を感じるところも琴線に触れるのだろうか、聴いていてとても安心する作品になっている。
6.家の外 / OGRE YOU ASSHOLE
ライブアレンジに定評があるオウガ。たこ焼き屋に集うフジロッカーにオススメされ、去年の春スタジオ盤「新しい人」とライブ盤「workshop 3」でオウガを初体験。
どちらにも収録されている「朝」を聴き比べるとそれは明白、11分の長尺なのに長さを感じさせず、延々と反復するグルーヴが何とも心地良く陶酔してしまうのだ。
6月にサブスク配信されたEP、タイトル曲「家の外」のプロローグはその名も「待ち時間」。これが効く。繰り返される電子音の中、アナログ楽器が徐々に絡み、高めていくグルーヴ。そして始まる「家の外」。スタジオ作にもかかわらずライブの高揚感と陶酔感を余すことなく表現していて最高である。これをライブで聴いたら凄いだろうな。
「ヨラさん、朝霧のオウガめっちゃよかったですよ。」そりゃそうだろう。これをライブで聴かされた日にゃ陶酔感で放心状態になる。待ち時間は長いほうがいい。(※先日、朝霧JAMでのライブ映像が配信されたので張っておきます。)
7.Mid Air / Romy
ロミーの曲はダンサブルでロマンティック。踊れると同時にどこか「青春」のようなものを感じる。
1997年、0歳の息子を膝に乗せ、テレビから流れる第1回フジロックのニュースを観た。伝わってくる過酷な状況から、これは長続きしないと思うと同時に「こんな場所に俺が行けるわけないわ」と思った。
ところが、フジロックは新潟県苗場スキー場に開催場所を変え、今もずっと続いている。
生活環境が完全に変わってしまった年に日本最大のロックのお祭りが始まったわけで、二人の子どもが就職した今も、フジロックは一歩踏み出すにはハードルが高すぎるというか、ある意味自分とは全く関係ない世界で行われているものの象徴となっていた。
54歳となった去年、妻の理解と周囲のフジロッカーの助けにより初めて参加することになったフジロック。
2日目の深夜、息子と音楽活動で縁があったルーキーを観た後、急いでロミーのステージへ。オアシスから見える赤い屋根から聴こえてきたのはEnjoy Your Life。
「人生を楽しみなさい」とロミーは歌う。はじめて経験するフジロック、何かを始めるのに遅いということはなかった。54歳のオッサンは青春していた。
8.This Is Why / Paramore
パラモア、一本調子なエモパンク時代は好きになれなかった。全部同じに聴こえるし。(失礼)
変化が現れたのは4枚目のアルバムParamore。大ヒットしたAin't It Funはポップでファンキー、ほんのりゴスペル風味もあるという、それまでのパラモアからは考えられない大変革。
続くAfter Laughterもバラエティに富んだダンサブルなロックでとてもいい感じ。パラモア、本当に良くなった。
そして、新作のリードトラックとして発表されたThis Is Why。思わず息を呑んだ。これがあのパラモアか。
ダンサブルには違いないが、ポップというよりはシャープなポストパンク寄りのサウンド。尖ってる、文句なしにカッコいい。そのThis Is Whyをオープニングに配置したアルバムが本作。
畳み掛けるように入ってくる性急な2曲目The News。マジでカッコ良いな、新しいパラモア。どっちかといえばニガテだったのに今では大好物になってしまった。ポストパンクとインディー精神に溢れた新作を引っ提げて早くフェス来日してくれよパラモア。
去年末、バンドの公式SNSを突然閉鎖し、予定していたフェス出演を次々キャンセル。所属レーベルのアトランティックとの契約切れで活動停止も心配されたパラモアだったが、メジャーから独立しインディーバンドとしてこれからも活動をしていくようだ。
今年に入り、パラモアはポストパンクの伝説トーキング・ヘッズのトリビュートに参加、元気に素晴らしいカバーを聴かせてくれた。
不安定な状態ですぐにライブ活動は難しいと思うが、1日も早くステージに戻ってきてほしい。
おわりに
最近、面白いタグが流行っています。
#この世で最もいい曲100選
100曲選んでSpotifyのプレイリストを作って公開するというもの。早速やってみよう。まずは日本の歌謡史上に燦然と輝く名曲「喝采」から検索…ないやん、ちあきなおみのオリジナルが。
それにニール・ヤングとジョニ・ミッチェルもないんだったなSpotifyには。
まあ、ぼちぼち選んでいくことにしようと思います。