シカゴカブスの行きつく先とは
お疲れ様です、イサシキです。
交渉が難航していた新CBAも期限内に全然まとまらず、ついにMLBがロックアウトすることになりました。
ということで、今回はCBA失効までに起きたシカゴカブス(以下CHC)の選手補強や来年以降のシーズン展開を考えていこうと思います。
ここまでの主な選手補強
①Wade Miley(CIN→CHC:LHP)
オフシーズンが始まった最初の段階で獲得したのは、今季ノーヒッターを達成したベテラン技巧派左腕のMileyでした。
Mileyは今季28試合に先発して163IPを消化、12勝7敗ERA3.37と安定感のある投球を披露。持ち前の低めにボールを集めて打たせて取るピッチングでGB%が49.4%と打球管理も優秀でした。勝負期の9月の失速さえなければ…(もともと9月の成績が酷い)というところもありますが、とにかく計算できる先発が欲しかったCHCにとってはもはや神のような存在とも言えるでしょう。
また獲得経緯も素晴らしかったですね。Mileyを獲得したのはなんとウェーバーからで、ペイロール削減を目論んでいたCINがMileyのトレード交渉に失敗したため、2022年シーズンの|$10Ⅿ《約11.2億円》の契約を|バイアウト《$1.5Ⅿ(約1.7億円)》する資金まで削減させてウェーバー公示をしたところでCHCがクレームをしたという形になります(モデルケースは2020年オフのBrad Hand)。プロスペクトを放出するなどのデメリット1つなしに獲得できた点が、再建中のCHCにとっては100点満点に近いムーブだったのではないでしょうか。もちろん、同地区のライバル球団から主力級の選手を引き抜いた点もGoodです。
Mileyは来季2~3番手の先発ローテーションの一員としてソリッドな活躍が期待されます。契約は単年$10Ⅿ(CINの契約引き継ぎ)のため、成績が良ければチーム的にも◎で、チーム成績が悪ければ夏場のTDLでプロスペクトとの引き換えが可能。個人成績が悪化してしまってもそのままFAになるという点で、非常に運用しやすい選手だと言えます。
②Harold Ramirez(CLE→CHC:OF)
Miley獲得から約2週間後、CHCはCLEからOFのHarold Ramirezを金銭トレードで獲得しました。
俊足強打が持ち味のOFで、打球の質は一級品。K%も15.5%と今の大味なカブス打線にはありがたい存在とも言える選手でしょう。その一方で、Chase Rateでも示されているようストライク・ボールの見境なくスイングするので、四球を選ぶ確率が非常に低く、選球眼に大きな課題を持った選手であることも言えると思います。またHardhit%が46.9%に対してBarrel%が6.3%と、なかなか打球が上がらずに単打が多くなるという印象も受けます。
守備も微妙で、RngRやDRSも軒並みマイナス指標。今年の6月には左中間の打球を止めようとしてスライディングしながらの捕球を試みますが、肝心の打球を明らかに蹴っ飛ばしてしまうという珍プレーもありました(勿論本人は真剣にプレーしていると思います…)。トータル的な守備力向上も今後の課題と言えそうですね。
とはいえCHCの外野陣であれば多くのチャンスが巡ってくることになると思います。非常に光るものを持っているだけに、いくつかの弱点を補ってレギュラークラスの選手になることを楽しみにしています。なお2022シーズンの年俸はPre-Arbのため、TC(チームコントロール)となります。
③Yan Gomes(OAK→CHC:C)
Ramirez獲得からしばらく音沙汰のなかったCHC。他球団は次々と大物FA選手との契約やトレードを決めている、尚且つCHCはMatz争奪戦に敗れ、特に誰を狙うという情報もトレードもなく「本当何やってんだよ…」という負の感情が筆者を包んでいましたが、ロックアウト前日にOAKからFAとなっていたCのYan Gomesを、2年総額|$13Ⅿ《AAV$6.5Ⅿ(約7.3億円)》+|2024シーズンクラブオプション《$6Ⅿ(約6.7億円)》の契約で獲得しました。
GomesはMLB初のブラジル出身のプレーヤー。2013年のWBC予選ではチームを初の本選出場へと導いた原動力の1人にもなりました(本選はシーズン専念のため出場辞退)。
「攻撃型捕手」という評価をされるように、シーズン20本塁打を記録したシーズンもあるほどのパンチ力に加え、高い捕手能力を兼ね備えたベテラン選手です。近年は絶賛されていたフレーミング指標の落ち込みが気になるところではありますが、34歳でこれだけ一線級の活躍を続けていることは非常に素晴らしいと思います。
GomesがCHCで求められる役割は、今のところ第二捕手かと思います。ただこの補強がアナウンスされたと同時に、私もそうでしたが、これまで不動の正捕手を務めてきたWilson Contrerasがトレードされてしまうのではないかという不安がよぎりました。
仮に今後Contrerasがトレードされるようなことがあれば、このGomesが正捕手になります。トレードされなくともその役割は前述の通りはっきりしており、Contrerasを休ませる場合の捕手としての機能を果たしてくれると思います。またこれだけの打撃能力を有しているので、現在導入が検討されているDHが実現すれば、そこでの起用もあり得ると思います。
元々今冬のFA市場はびっくりするほどの捕手不作で、Gomesが捕手のトップエージェントという評価を受けていました。最初はPITに獲得報道が上がり、その数時間後に正捕手だった今季NLゴールドグラバー、Jacob StallingsがMIAにトレードされたため、誰もがGomesで穴埋めをするものだと思っていたところ、蓋を開けてみれば一切名前が出てきていなかったCHCが横取りしてしまったという意表を突かれた展開になりました(PITはその後、CLEからFAとなっていたRoberto Perezを獲得しました)。
余談ですが、以前私が手抜きで書いたnoteにも「バックアップ捕手がいないとまずいのでGomesいいよね」なんて書いていたら本当にCHCに来ました。理にかなっている補強じゃないのかなあと思っていたので、非常にうれしいです。(該当記事は↓からご覧ください)
(カブス考察シリーズ第2弾)結局今オフは補強するの?しないの?|イサシキ#MLB|note
④Marcus Stroman(NYM→CHC:RHP)
ついに大物FA選手の入団が実現しました。CHCはNYMからFAとなっていたスターターMarcus Stromanを3年総額$71M(1~2年目:$25M、3年目:$21Mでオプトアウト付き、オプションインセンティブMax|$2Ⅿ《約2.2億円》)で獲得しました。
StromanもMiley同様安定感のある投球が持ち味の投手。170㎝と小柄な体ながら、投球の約65%を占めているツーシームとスライダーに加え、スプリット系の沈むボールとカットボールを織り交ぜて低めに集める投球スタイルで多くのグラウンダーを積み重ねる投手です。そして過去4回の規定投球回到達、打球管理の優秀さが伺えて、尚且つMLBを代表する守備の名手としても有名。今後も大きな怪我等がない限り、CHCではエース級の働きをしてくれる選手と言っても差し支えないでしょう。
Stromanは今シーズン終了前からシカゴの街とCHCに対して非常に好印象を抱く発言をしており、移籍候補の1つとして捉えられていました。ビジネスライクなアメリカ社会において、自身の発言と行動が最後まで一貫している選手は珍しく、私自身もまさか本当にStromanが再建途中のシカゴに来るとは思ってもいませんでした。ありがたやありがたや(^^)。
紛れもないスター選手の獲得になります。来季はこのStromanに加え、チームのエースであるKyle Hendricksと先程紹介したMileyで先発三本柱を形成することになります。まだまだ安定感に欠けるチームですが、WrigleyでStromanが投げている姿を想像するだけでも来季の楽しみができたので、期待して待ちたいと思います。
⑤Clint Frazier(NYY→CHC:OF)
そのStroman獲得から遡ること数時間前、CHCは11月中旬にNYYからDFAとなってリリースされていたClint Frazierを獲得しました。
Frazierは評価の高いRaw Powerに加え、昨シーズンALゴールドグラブ賞ファイナリストにノミネートされるほどの守備を誇る将来有望視されていた選手です。
2018年STにてフェンスに頭部を打ち付けるプレーで脳震盪を起こして以来その後遺症に苦しみ、年々試合出場は増やしたものの、今シーズンは不振に陥り、8月には眩暈などの症状で予定されていたAAでの試合出場を取りやめるなど、健康面に不安を抱えている選手でもあります。
シーズンを通じて活躍することが現状では難しいと思うので、考えられる選択肢としてはRFでのプラトーンといったところでしょうか。CHCのRFにはHeywardがいますが、今シーズンの不振ぶりを考えれば他選手にも十分チャンスが巡ってくると思います。前述のRamirez然りですが、数多い候補がいる中での競争となるため、自らがその地位を確約させる働きが求められることになると思います。
これだけの才能を有していながら怪我に悩まされる野球人生を過ごしてきていることを考えると少々いたたまれない気持ちにもなりますが、CHCは戦力になるという打算をして獲得しているわけなので、まずは健康面としっかり向き合いながらという形になるでしょう。
契約は単年$1.5Ⅿ+インセンティブ$1Ⅿとなっています。またスーパー2取得者でもあるため、現状2024シーズンまで保有可能となっています。
今後ありそうな補強ポジション
Ⅰ:奪三振型の先発投手
Stroman、Mileyの補強によって、CHCの先発ローテは以下のような布陣になることが予想されます。
見ていただくとわかるようにゲームメークに優れた投手が多い一方、奪三振を多く奪えるゲームチェンジャー的存在の投手がいないことがわかります。
CHC編成責任者のHoyer氏も「パワーアームを探していく」とシーズン終了時の記者会見で述べていたため、もう1人先発投手を探しに行く可能性はあると思います。
そこに多くの資金をかけるかどうかはわかりませんが、もしMLBで実績がある投手を獲得することができれば、さらなる投手陣の強化につながることは間違いありません。
考えられる候補としてはCWSからFAになっているCarlos RodónやSEAからオプションを破棄してFAを選択した菊池雄星らが該当するかと思いますが、この2選手は他球団からも非常に評価されている選手で契約も高騰する見込みがあるため、個人的にはBrad Peacock(前BOS)のように経験値豊富な投手を安く連れてくるのが現実的な選択肢ではないかと予想しています。
Ⅱ:センターラインを守れるIF
今夏のTDLで不動のショートJavier Báez(現DET)をNYMに放出して以降レギュラーを欠くCHC。来季はこちらもKimbrelのトレードで獲得したNick Madrigalが怪我から復帰することに伴い、元プロスペクトのNico Hoernerがショートへとコンバートされることが既定事項となっています。
しかしこのHoernerも重度のケガ体質で、まだ安定してシーズンを戦い抜けるほどの安定感はありません。既にUTのBoteが左肩の手術により開幕絶望となる状況を考えると、やはりバックアップの選手が必要になります。現状ではおそらく今シーズンショートとして堅実な守備を誇ったSergio Alcantaraが第一候補になりますが、さすがにこのスラッシュラインでプラトーン起用は厳しいものがあると思うので、可能であればもう1人セカンドもしくはショートを守れてそれなりに打てる選手がいれば、打線に厚みを持たせたままオーダーに柔軟性が出てくると思っています。
候補は非常に限られてくると思いますが、市場に残っている選手であればBOSからFAとなっているJose Iglesias、アウトライト関係で見れば前DETのNico Goodrumあたりは候補になってもおかしくないと思います。
Ⅲ:勝ちパターンを任せられるRP
比較的リリーフ陣に関しては粒ぞろいですが、それでも心許ないことに変わりはありません。来シーズンクローザー予想の出ているRowan Wickも故障明けなのでそこまで無理をさせることはできず、今年CHC戦を観る度に登板していた印象しかないCodi Heuerも通年での活躍を果たして勝利の方程式に入ってくるかはまだ未知数。絶対的な存在がいないのは仕方なくとも、ある程度勝ちパターンとして起用できるリリーフは必要かと思います。
候補はたくさん市場に残っているので省きますが、できれば前ATLのRichard Rodriguezクラスの選手が獲得できれば厚みが出るかなあということで欲望を丸出しにしておきます。
目指すは「サプライズコンテンダー」か?
⑴Hoyer氏が会見で示した意志
シーズン終了後の記者会見でHoyer氏が語っていたのは、「FA市場の勝者になることではない」という意志でした。そしてペイロールに柔軟性があることを認めた上で、次のように語っています。
とあるチームをナチュラルにディスっているようにも聞こえるのはさておき、大型補強をせずとも今シーズンMLB最高勝率を誇ったSFGとAL最高勝率のTBのチームビルディングを再現したいという意志を感じ取ることができました。特にSFGはMLBの中でもお金持ち球団の部類に入ることが、さらにCHCのフロント陣に火をつけた可能性はあると思います。
⑵1つの注目点となる「2023年オフシーズン」
ⅰ:HeywardがFA、Hendricksのエクステンションも微妙
今オフの補強によって来季のペイロールが$108Mまで増加したCHC。今のところはまだペイロールに余裕があるといっても良いと思いますが、来年と再来年のシーズンオフにかけて多くの選手がArbitrationを迎えます。その一方で残り2年で$49Mの契約があるJason HeywardがFAとなり、同じく残り2年の契約で$28Mを残すHendricksも(※)VestingOption行使の可能性がなくなったため、このままいけばHeywardと同じ2023年オフにFAとなります。
「Professor」の愛称で親しまれるHendricksは、抜群の制球力を武器に毎年安定感のある投球を披露していましたが、今シーズンは非常にムラが激しく、被安打(200)、被本塁打(31)はそれぞれ自己ワーストどころかリーグワーストを記録(被本塁打はリーグワースト2位)するほど打ち込まれてしまったシーズンとなりました。
Hendricksも来年で33歳。残り2年でバウンスバックが望めないとなると、バイアウトでFAになる可能性が非常に高くなります。それまでに若手の先発陣の台頭が見込めることが最も良いと思いますが、仮に育成失敗となると…といった部分は想定しておかなければなりません。
ⅱ:他のナ・リーグ中地区の球団の状況
再びCHCがコンテンドすると言っても、同地区の他球団がとんでもなく強い状態であれば仕方ありません。ここからはナ・リーグ中地区の球団の今後を簡単に紹介し、CHCのコンテンドはいつになるのかを予想していきます。
(※各球団は全て筆者のイメージが混ざっております)
現状の戦力であれば、MIL・STL>CIN>CHC>PITの関係性が成り立つかと思います。おそらく来シーズンは大きくこの序列が崩れると思わないので、CHCが再びコンテンドするのであれば、HeywardがFAとなる2024シーズンくらいになると思います。
それまではおそらく「サプライズコンテンダー」として、前半戦の成績が良ければワンチャンポストシーズン進出を狙おうという方針で進めていくと予想します。そこまでの間にトッププロスペクトのDavis(OF)やアリゾナフォールリーグ(以後AFL)でMVPを受賞したVelazquez(OF)、同じくAFLで好投したKilian(RHP)の昇格を待つといった形になりそうです。
蚊帳の外どころかダークホースだった件
今シーズンCHCは大規模なチーム解体を行っており、数年でコンテンドできるチームになるかどうかは少々不明な部分もありました。大方のメディアではHoyer氏の会見で語られたことを基に、CHCが今オフ積極的な補強はあっても市場の目玉と評されている選手には手を出さないとの見方が強まっていたため、はっきり言って今オフ注目に値しない球団だと私自身は感じていました。
確かにMiley獲得以降のCHCは全くと言っていいほどFA選手の獲得に噂が立たず、ロックアウトによって新たに決まる新CBAを見据えて資金を温存しているのではないかとも考えていました。ただそれは他球団がロックアウトを恐れて早めに選手との契約を結んでいる市場の流れに逆らうことになるため、ペイロールに柔軟性が生まれた現状でも補強をしないのはただ単に球団が、あるいはオーナーのRicketts氏が補強資金をケチっているのではないかという不信感を募らせる期間があったことは間違いありません。
それでもロックアウトのわずか数日前でFA市場でも注目を浴びていたStromanとの契約を短期間でまとめたり、OFを競争させるために多くのレギュラー候補を他球団から獲得してくるなど、確かに「賢い」と感じる補強は多かったように思います。
さらには大物FA選手の1人、Calros Correa獲得の有力候補とも目されていて、もし本当に獲得することができれば今オフのダークホース的存在をさらに強めることになります。
上記のように、既にDETへと移籍が決定した元CHCのBaezにシカゴのことを聞いているというニュースも出ていることから、CHCがCorreaに接触していることはほぼ間違いないとみて良いと思います。獲得するかどうかは別として。
ということでロックアウトの影響は長く続きそうですが、それが明けたときにCHCがどんな動きを見せるか注目していきたいと思います。
今回は以上となります。最後までお読みいただきありがとうございました。
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