患者Sさん

夏に担当したSさん(仮名)
まだ70代前半でしたが認知症が進んでかなり物忘れが酷くなっていました。
それでも一応一人でアパートに住めていまして、毎日朝弟さんが朝ごはんと薬のお世話に通っていました。
弟さんがコンロと電子レンジを使えないように鍵をかけていました。以前何かを燃やしてしまったことがあったみたいです。
食事も毎日無料の宅配ミールを利用されてまして、自分で料理をする必要もありません。
Sさんは私との会話とか毎日宅配ミールを運んで来る担当者の顔をすぐに忘れてしまっていましたが、不思議と私のことだけは覚えてくれているのです。どうやら私の長い髪で覚えているようでした。彼女自身もびっくりしていましたが、私の髪はそれだけインパクトがあったみたいです。
彼女は薄毛に悩んでいて、たまにかつらを付けていました。私が行くたびに私の髪を凄く羨ましがってくれたのを覚えています。
そんな彼女でしたが、毎回の訪問の度に私に話てくれる昔の思い出がありました。
お父様がその町ではやり手の弁護士さんで、とても裕福な暮らしをしていたこと
そして毎週末、著名人、権力者たちが集まるレストランで食事をしたこと
店内には大きな赤い階段があって、食事をしながら華やかに着飾った人々がその階段を降りてくるのを見たこと
毎週末が煌びやかなパーティーの様だった、映画の中の世界の様だったと目をキラキラさせて話してくれるのです。


私も頭の中でその美しい情景をイメージしてみました。
毎回同じ話でしたが、本当に聞くのが大好きでした。
しかしながら、お父様が早くに亡くなり彼女の生活も一転します。


その後いずれ結婚され二人の娘さんに恵まれてますが、長女はある日朝起こしに行ったらすでに亡くなっていたとのこと


辛かったわね


と言うと認知症のお陰でその悲しさは忘れてしまって、なぜ亡くなったのかも覚えてないと言いました。
いつも私の訪問を本当に喜んでくれて色々お話してくれたSさん
またいつか会える日が来ます様に