ハラノムシ「針聞書」で昔の人が伝える症状の擬虫化
「腹の虫がおさまらない」、「腹の虫の居所が悪い」、「腹の虫が承知しない」という慣用句や、「疳の虫」、「塞ぎの虫」、「虫封じの祈祷」などは現在も使われている表現である。昔は人間の身体の中には虫がいて、それらの行いが感情や体調に影響していると考えて表現してきた。果たして我々のお腹の中にはどんな虫がいると考えられていたのだろうか。
九州国立博物館には、「針聞書(はりききがき)」という古い書物が収蔵されている。江戸時代以降の医学書として活用されたこの書物は、約460年ほど前に戦国時代の大阪で書かれたと言われている。虫の図63点、五積、六聚など病気を起こすと考えられた想像上の虫とその虫の特徴や治療法が記載されている。
2007年、鍼灸師の長野仁氏と歴史学者の東昇氏が古い書物をわかりやすくまとめた「戦国時代のハラノムシ『針聞書』のゆかいな病魔たち」を出版した。きもかわいいハラノムシを眺めながら、昔の人達が解釈した症状とその特徴をぜひ一読してほしい。
針聞書にも登場する「疳の虫」には昔から知られる鍼治療があり、特に関西地方で「疳の虫のはり」として親しまれている。疳の虫とは、子供が興奮して夜泣きやかんしゃくなどを起こすことの俗称であり、医学的な用語ではない。昔は、体の中にいる「疳の虫」が悪さをして、赤ちゃんを泣かせてしまうと考えられており、夜泣きや癇癪(かんしゃく)がひどい子供に対して「疳の虫が騒ぐ」と表現していた。医学的には「神経性素因」「環境」「栄養の不適当」が原因といわれている。
鍼治療では、おなか側のツボと背中側のツボに小児針と呼ばれる皮膚を撫でるタイプの接触鍼を用いて行われる。また、家庭でのセルフケアとしてスプーンの背やドライヤーなどを用いることを指導することもある。悩んでいる方は近くの鍼灸師に相談してみたらどうだろうか。