IVY
「蔦が絡まる」
と、カノンは言った。
・
深夜1時半、池袋はメトロポリタン口を出てすぐのラブホテル街に、ホテル・愛美(アイビ)はある。午前0時を過ぎ、フリータイムへ突入したせいか、若いカップルの熱気が両隣の壁から伝わってくる、そんな安宿だ。
そしてカノンのいる部屋もまた、その熱気を帯びた部屋だった。
(どうして私、こんな夢を見たんだろう)
「蔦?」
と、聞き返した男の手にはコニカミノルタ。
「うん。今、なんか見えたの。」
シャッターを切る音が響く。
「赤茶のね、壁に、緑の蔦が絡まってて。壁にはね、真っ白なヒビが入ってるの。遠くから見ると、そのヒビはなんでもないヒビなんだけど。」
またもシャッター。
「夢の中でね、あたし、その壁だったの」
「え、夢みてたの、今この瞬間に?」
男、一旦カメラを置く。
この人、こう言う時はカメラを置くんだ。とカノンは驚いた。
「カノン、寝てたの。」
「うん」
「よくこんな状態で。」
「そ、そうだよね……」
またもシャッター。
(集中しなきゃ…)
男はシャッターを切るたびに体温が上がっていく。
その男の一部が確かに自分の中にあることを感じながらも、カノンはまた赤茶の壁になっていた。
緑の蔦が絡みついている。日差しを受けその命を張り巡らせている。透けた葉脈の影を確かに感じながら、私はただ乾いている。太陽が熱い。ヒビが入る。真っ白な亀裂がーーー。
うっ、と言うと男は倒れた。そして記念にもう一枚。
この人、こんな時にもカメラを離さないんだ。とカノンは驚いた。
そしてふと、男の筋肉のついていない真っ平らな胸にあるホクロを見つけ、(この人、こんなところにホクロ、あった?)、と首を傾げた。
続く