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Yes-Noの後悔
1980年11月にオフコースの8thアルバム『We are』が発売された時、僕は中学の最終学年だった。
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もう冬が近づいてくる頃、最終学年の生徒たちは学内イベントで体育館に集められていた。体育館には音楽が流れていて、その中にオフコースの『Yes-No』も含まれていた。
隣で体育座りをしていた同級生女子が、その歌詞を引いて「男の子って『君を抱いていいの』なんて考えるものなの?」と尋ねてきた。
その時は適切な答えは思いつかなかったし、その意味深な質問の意図を考えることもなかった。当時の僕は深刻な片想いの相手から振られたばかりで、それどころではなかったのだ。
まあ中学生のことで、なんとなく僕らはそのまま卒業して別々の高校に進学した。
僕は進学した高校でも剣道部に入り、当時の掟に従い強制的に坊主頭にさせられた。
毎朝と放課後、休日もなく練習をする部活だった。
その日も剣道場で練習をしていると先輩女子マネさんが「ねえ、ちょっとお客さん来てるわよ、女の子」と教えてくれた。
そんなことが許される雰囲気の部活ではないのだ。
それでも、僕はきっとあの子だ、と予感していた。
だから周囲の非難に満ちた視線を一身に浴びながら慌てて練習を抜け、道場の入り口に向かった。
予感はあたっていた。
件の(元)同級生女子がセーラー服に身を包んで立っていた。「坊主になったって聞いて、見にきちゃった」と、またしても返答に困るコメントに、今度ははっきりと心が震えるのを感じた。
それでもすぐに練習に戻らなければ何をされるかわからない。簡単な挨拶と近況の交換をして、その場を離れた。
その時、彼女の表情を窺う成熟は、まだ僕には訪れていなかった。
その人とは、それっきりになってしまった。
後から思えば、すべきことはたくさんあったように思う。この頃のオフコースの音楽を聴くと、そんな後悔で切なくなる。
ただでさえ切ない音楽なのにね。