バトンタッチが夢だった
望んでいたのは、「わたしが必要じゃなくなる未来」。端的に言うならそういうことになる。
3年程前に「左目にも変性がある」と言われた。視力検査で片目を塞がれるたびに、右目で見る検査表の格子はぐにゃぐにゃ歪み、左目で見ると四角はきれいな四角だった。だから、「左目はなんともない」と信じていた。最初からあったのがたまたま見つかったのか、そうじゃないのかは、わからない。それでも視界が歪んでいない以上、「まだ大丈夫」。なんとなくそういうことにして撮り続けてきた。
おそらく生まれつき網膜が弱い上に、その網膜の上にあるのは人工レンズなのだ。光によるダメージを食らいやすいのは薄々感じていた。左目は少しずつ歪み始めた。そして、とうとう視力検査表の格子は「どっちの目で見ても同じように歪んで見える」ようになった。
ライブを撮るのはもう辞めようと思う。
それでもこれは、割と希望のある話と、四谷Outbreak!というライブハウスへのラブレターだから、安心して最後まで読んで欲しい。
コロナ禍で配信に踏み切るライブハウスの中でも、四谷Outbreak!はかなり早い段階から配信に振り切っていた。映像のクオリティーの高さも群を抜いている。そしてなにより、画面から伝わるのは、溢れんばかりの「愛」だ。Outbreak!の配信を、そしてそれをスクショしてSNSにアップするファンを見た時に、わたしの中で何かがぷつりと切れた。「ああ、もう、わたしは撮らなくてもいい」。そう思った。
右目を眼帯で塞いだ上にサングラスをして左目で無理矢理ファインダーを覗いたあの日、なんでそうまでしてまたライブを撮ろうとしたのか、それに答えるうまい言葉が、やっとわかった。…わたしは、せかいを憎みたくなかった。そして、わたしにそれを見せられるのはわたしだけだった。だからライブを撮ってきた。商業的な写真が撮れるわけでもない。わたしの写真には、もう、愛しかなかった。
そんな、圧倒的な愛が、画面から届くのだ。見たかった「せかい」が、ここにある。そして、「バンドとライブハウスが一緒になってコンテンツを作り、それを売る」というフェーズに突入しようとしている。きちんと経費を掛けてバンドがプロのカメラマンを雇うようになるまでの繋ぎになれればいいと思っていたわたしにとって、プロに「バトンタッチ」するのは、ライブを撮り始めた当初からの夢でもあった。そんな未来が、すぐそこに来ている。だったら、もう、身を引きたい。
きみらには、ライブハウスとチームになって、きちんとしたクオリティーのものを作って、売っていく、そういうフェーズに行ってほしい。どのライブハウスでも、それはきみらが決めたらいい。
帽子にサングラスにマスクっていう顔面でライブハウスに行くのもビジュアル的にどうかと思うので、当分はライブハウスにも行けそうにないけど、写真は辞めないし、写真展もやる方向でいるし、その先の計画もあるから、またどっかで。
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