over drive

そのスピードじゃないと見えない景色ってのが、あんだよね。

2008.02 中古屋でライブを撮るためだけのレンズと、一番安いデジ一眼のボディーを買う。

行って帰ってこれるならどこまでも行った。ボロボロに病んでいた頃の名残で、ろくに食べていなかったし、一時間毎に目が覚めるからどんなに遅く帰って来ても朝6時からの仕事にはちゃんと行けた。

2009.06 見えない、と、頻繁にコンタクトレンズを変えているうちに左目が白内障と診断される。手術前の検査の為にコンタクトレンズの使用を中止。ついでに右目黄斑に先天性と思われる浮腫があることが発覚。酒も煙草も今すぐ止めなさいと言われる。

それでも撮っていた。不摂生の極み、煙草の煙、薄暗い中での強い光。しんどいとか無理してるとかいう感覚はなかった。出来ることをやっている、ただそれだけだった。

2009.08.24 朝起きたら、目が見えない。

右目、網膜剥離。左目は白内障でもとから見えていない(既に手術日は決まっていた)。右目の先天性のなにかよくわかんないそれは確たる治療法がないので爆弾として右目に埋まったまま、それなりのお金と月日を費やして失明は免れた。その間に写真の依頼はゼロになったし、とても写真を撮れる感じじゃなかった。なんの実績もないわたしはアーティストとギャラリーとその周辺の世界からあっさり抹殺された。

「待ってる」と言って、唯一、バンドとその周辺の人達がカンパをくれたけれど、いつかまたどうにかしてフィルムで風景写真を撮る処まではいけたとして、ライブハウスに行くことも、ましてやライブを撮ることなんてもう出来ないと、そうわたしは信じていた。

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