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「プロ治験プレイヤー」ときいて想像するプレイヤーの所属はどこだろう?

「ボーっとしているだけでお金がもらえる」医薬品の被験者として生計を立てる“プロ治験プレイヤー”を私たちは批判できるのか?

https://times.abema.tv/news-article/8645895?mobileapp=1&__twitter_impression=true

治験がこういうふうにネタにされるなんてなかなか知名度あげてきたよね。

たとえばプロのプレイヤーとしてスポーツ選手を思い描いたとき、彼らがその競技のルールを熟知しているだろうことは想像に難くない。
では、母体となる団体やスポンサーなどお金を出す側のこと、球場や具体的な運営サイドの事情、グッズ販売や収益化の取り組みなどどこまで理解し納得して活動しているのだろう。
わたしには想像もできないけれど、プロのプレイヤーっていうのはそういうものだとおもう。
つまり、それで生活してはいるし傍目からはその道に精通しているようにみえるけれど、必ずしもその全てを掌握しているとは言い切れないひと。

治験にはわりと多くの登場人物が設定されている。

冒頭の記事にある彼のような被験者は治験にたくさんいる登場人物のひとりでとても大切な役割を担っている。
ある意味で治験の主役かもしれない。

でも、なんど治験に参加しようとも被験者の立場から治験の全てを知り尽くすことは困難におもえる。
なぜなら、治験には他にも登場人物がいるから。そしてそれらは必ずしも直接的に関わらないから。

たとえば、治験依頼者。
これは文字通り治験を依頼するひと。薬の候補となる化合物が薬になるためにはたくさんの情報が必要で、それらを過不足なく集めるために、医療機関と協働して治験を主導するひと。
治験依頼者をから業務の委託されて支援する開発業務受託機関:CRO(Contract Research Organization)なんていう役割もある。

たとえば、治験実施医療機関。
これも文字通り治験を実施する医療機関。治験の多くは医療行為を必要とする。被験者の安全性に最大限に注意をむけ、被験者の権利を守るための治験における舞台。
治験担当医師は治験実施医療機関で被験者の診療にあたる。
その疾患に精通していてかつ治験のルールを熟知している限られた医師は被験者と二人三脚で治験に取組む。
でも治験にはとてもたくさんの決まり事があって医療機関だけでスムーズに治験を実施するのは難しいことがあるから治験施設支援機関:SMO(Site Management Organization)という治験実施医療機関から委託を受けて、医療機関の治験業務を支援する機関もある。

被験者は治験実施医療機関で治験スタッフに接する機会は多いだろうけど、治験依頼者やCROのスタッフ接することは基本的にない。

被験者は治験に参加するにあたっての選択基準・除外基準、治験に使用される薬の副作用や有害事象の情報を知ることはできるけど、治験依頼者の視点で治験をみることはできないひとがほとんどだろう。

そんなベテラン被験者が「プロ治験プレイヤー」を名乗ること、これ如何に。

立場が違えばみえる世界は違う。
自然なことだとおもう。

被験者だけではない。
治験依頼者やCROは治験実施医療機関やSMOの視点で治験を語ることはできないし、もちろん逆もまた然りだ。
治験依頼者とCRO、治験実施医療機関とSMOはそれぞれ互いに寄り添っているとおもいたいが、おそらく必ずしもそうではなくて、たとえば同じ場所で同じ空を眺めても出てくる表現は異なるだろうことは想像に難くない。

複雑に絡み合ったいろいろな事情が立場によってみえる視野を狭めたり角度を変えたりするのは、なにも治験に限ったことではない。

冒頭の記事にもどる。
被験者の言葉をそのまま記事にしているのかもしれないけれど、やはり治験について語るなら治験依頼者や実施医療機関にも話を聞くべきだろう。
正しくない、とはいわないが、何も知らないひとが読んだらやはり誤解するような表現であることは疑いようがない。

記者が治験に精通している必要はないけれど記者は記事を書くプロだから、そういう多角的な視点をもって記事を書いてほしい。
この記事に限ったことではないけれどね。

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