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オーブンからの小麦の匂い

 近所に少し有名なパン屋さんがある。老夫婦でやっているパン屋で、みんなあの店の名前を覚えていないから「あのアンパンマンパンが売っているお店」と言っている。絵本に題材にもなったことがあるお店らしい。そんな老舗のいかにも昔ながらの日本のパン屋。

そこのおじさんは鼻高々に言う。

「パンが好きすぎて、夫婦でパンをめぐる世界旅行をしたんだよ。フランスはやっぱり美味しかったな〜けど意外にもスイスがおいしかったよ、仕事が丁寧だった。イタリアはね、パン、不味かったね。」

 きっと外資系の変なホテルの朝食のパンのことを言っているのかもしれない。このお店をやりながらの世界1周旅行はきっと弾丸ツアーだろう。(いつも忙しそうでそんなに休んでいない。そういえば1周とも言ってなかったかも)そんなパンしか食べられなかったであろうこの夫婦を、その時私は大変気の毒に思った。

 そのあと、子供を見て「旦那さんはどこの国の方?」とおじさんは聞いてきたので、イタリア人です、と答えると、おじさんは明らかにしまったと言う顔をして

「イタリアはね、おかずがすごい美味しいからいいんだよね」

と乾いた笑みと共に一言。私はこのフォローパターンを何度聞いたことか。

 日本人はイタリアのパンはあまり美味しくないと言う人が多い。私も昔はフランスのパンの方が美味しいと思っていた。しかしそれは、かつて日本に入ってきたパンがフランス系のパンが主流だったからその味が刷り込まれているにすぎないと思う。(日本はイタリア系パン屋さんがほとんどない。ケーキ屋さんもない。気づけばほとんどがフランス系パティスリー。イタリアではケーキ屋さんをPasticceriaパスティッチェリアと言う。)またバターが多めの味に私たちは慣れすぎてしまっている。

 勿体ぶって言ってもいいのだけれど、結局、イタリアのパンは美味しいんです。粉の味が楽しめる、そんなパンです。塩なしだから美味しいんです。

 私は最近セモリナ粉半分、軟質小麦粉(Farina00)半分でパンを作っている。それはアルタムーラのパンを食べてから。アルタムーラとはプーリア州の町なのだが、ここのはイタリアで唯一DOP(保護指定原産表示)を認められたパンである。このパンは日本でそんなに美味しいって認められるのは難しいかもしれない。素朴な実直なパンとでも言おうか。けどイタリアでイタリアのパンを食べ始めていると、だんだんと粉の味を噛み締めることを大事にし始めて、それでこのアルタムーラのパンを食べれば「うまい!」ってなるはず。セモリナ粉を入れてパンを作るのはやはりパスタと同様、南イタリアの特徴。

 日本のパン屋さんは「強力粉を使わないのはパンとは言わない」と言う人も多いけど、イタリアのパンは強力粉を使わない。基本的に日本のパンみたいにもちもちふわふわしていなくて、硬くて乾燥している、フワッと膨らんだパンというよりかは、膨らむけど平ためのパンが多い。色々と違うから、日本と違うからって美味しくないとか、排除しないで、平たくみてほしい。

 今日は酵母の話がしたかった。イーストで作ってもおいしいのだが、イタリアのパンを目指しているとやはりイーストだと何か違う。ヨーロッパ系の人はビール酵母と言う名のイーストを使うことが多いけど、日本で買えるイーストはあの味とは少し違う。

 イーストは発酵力が強く好ましい香りを出せる単一種を純正培養したもの。なので発酵がとても安定的で比較的簡単に短時間でパンを膨らませることができる。これは大量生産をするようなお店向きだと思う。

 一方天然酵母は複数の野生の酵母を培養して作ったもの。やはり手作りなので、もし果実、穀物1種で作ったとしてもその周辺に浮遊(?)する何らかの微生菌が複数混じって培養される。扱いが難しいし、発酵する時間もかかるが、その代わりに旨味の元になる有機酸を育成することができると言われる。そのため味わいが複雑で奥深い、独特な”Unico”の味のパンが出来上がる。

 私はこの天然酵母でパンを作ることを愛している。天然酵母で作ったパンは気泡を見るとわかるが、何だか中で伸び伸びと膨らんでいる。(ただ酵母が元気ないなーと言う感じの時はイーストも少し3gぐらい混ぜて発酵させる。)かつてヨーグルトで作ったり、リンゴ、ぶとうなどなど天然酵母を季節によって作り分けることを楽しんでいた時期もあったが、パンに酵母菌の特徴が出過ぎてしまい粉の味を楽しむことができず、現在の粉酵母におさまった。粉で作る酵母はイタリアでは結構メジャーだが、日本ではあまり聞かないかもしれない。(パン屋さんはよくライ麦で酵母を作っていたりする)私はこの自慢の粉酵母を友人に分け与えることもあるのだが、今回は分けてもらえなくても家で作れるよう、ここに酵母のレシピを記載する。


※レシピ Ricetta

粉から作る天然酵母の作り方

<材料> Ingredienti

❶薄力粉もしくはFarina00 200g 水100cc  蜂蜜 小さじ1

(もしくは地粉も面白い。中力粉でタンパク質高めでFarina00に近い)

❷薄力粉もしくはFarina00 200g 水100cc

<作り方>

1. ❶をしっかりこねて混ぜる。ラップして室温3−4時間おく。

2.密閉容器に移して冷蔵庫へ

3. 48時間後、膨らんでいるので、200g取り出し、❷を加えこねる。また密閉容器に入れる。(あまりは捨て)

4. 48時間後、3をする。これを2回繰り返す。

5. 24時間ごとに3をする。これを7回繰り返す。

6. 1週間ごとに3をする。これを2−3回繰り返す。

7.  1ヶ月後に愛する酵母が完成!

→パンに使う時は1/3取って、残りは育成用に残す。育成の際は粉を80g、水40g足してこねて、密閉容器のゴムを外して冷蔵保存。(呼吸をさせるためゴムを外す)

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パンの焼き方はこちらをご覧ください。↓


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