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187)かぜ(風邪)に対する漢方治療の考え方

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術187

ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。


【かぜの漢方治療は体の自然治癒力を利用する】

最近、インフルエンザが流行しています。インフルエンザに対してはインフルエンザウイルスの増殖を阻止する薬(抗インフルエンザ薬)がいくつかあります。しかし、患者数の増加に薬の製造が追いつかず、治療薬が入手できないという問題が起こっているというニュースが流れています。
 
普通のかぜ(風邪)に対しては、かぜウイルスに対する治療薬はないので、通常は熱や頭痛に対する鎮痛解熱剤、咳を抑える鎮咳剤、鼻水を止める抗ヒスタミン剤など、症状を緩和させる対症療法を行ないます。

しかし、熱や咳などは感染したウイルスを体内から排除するための合目的的な反応であり、自然治癒力の一つです。漢方治療では、体の治癒力を高めて病気を治すことを基本としているので、これらの症状を直接抑えるという発想はありません。
 
病気に対する体の抵抗力を漢方医学では「正気(せいき)」といい、それに対して病気の原因を「邪気(じゃき)」といいます。自然治癒力を高めるというのは正気を充実させることであり、かぜの漢方治療においてもこの原則は変わりません。かぜ(風邪)は風邪(ふうじゃ)という邪気の一種が引き起こすと考えるからです。
 
漢方では、生体機能を担っている基本的な構成成分として、気(き)・血(けつ)・水(すい)の3つの要素を考えています。


気は人体のすべての生理機能を動かす生命エネルギーであり、血・水は体を構成する要素です。血は血液に相当し、水は体液やリンパ液など体内の水分であり、気のエネルギーが原動力になって体の中を循環しています。
 
気・血・水をあわせたものを「正気(せいき)」といいます。正気は、自然治癒力を働かせる原動力と物質的基礎であり、病気の原因となる「邪気(じゃき)」と対抗する人体の抵抗力や生命力を示す概念です。


正常な人体では、気(生命エネルギー)と血・水(体を構成する要素)が、いずれも過不足なく、しかも滞りなく生体を循環することによって、生命現象が正常に営まれます。
 
気・血・水の量のバランスがよく、循環が良好であると、体の新陳代謝・生体防御力・恒常性維持機能が十分に働いて、体の自然治癒力が高まります。
 
つまり、漢方医学では、体の抵抗力や自然治癒力を高めるためには、気・血・水の量のバランスを良くし、循環を良好な状態にすることが必要条件と考えています(図)。


図:体の抵抗力(正気)は気・血・水の3つの働きによって生み出される(①)。気は生命のエネルギーであり、自然治癒力の物質的基礎である血・水を動かす原動力となる(②)。気血水が過不足なくバランスがとれて循環が良好な状態(正気の充実)では栄養物質の供給や老廃物の排出が良好になり(③)、新陳代謝や生体防御力や恒常性維持機能が良くなり(④)、自然治癒力(=生命力)が十分に働いて病気の原因(邪気)に抵抗することができる(⑤)。その結果、病気を予防し、治療することができる(⑥)。




【漢方薬は感染症に対する抵抗力を総合的に高める】

漢方には、気血水の量や巡りを正常化させるための生薬が多数用意されており、それらを組み合わせて抵抗力を高めることができます。
 
漢方薬には、栄養の消化吸収をよくするもの、血液の循環をよくするもの、組織の新陳代謝を改善するものなど、いろいろとあります。それらは、長い年月をかけ、多くの漢方医が臨床を重ねることにより見つけ出してきたものです。
 
風邪に罹ったときには、「栄養を十分とって、熱い粥を啜ったり、布団をかぶって体を温かくする」という昔ながらの療養方法はまさに正気を充実させるための知恵です。正気(=抵抗力や治癒力)を助けながら症状を和らげ病気を治していくための補助手段として、いくつもの民間療法があります。
 
かぜの初期で体の治癒力が十分あれば熱いショウガ(生姜)の汁を啜って、体を温かくして寝ていれば自然と汗をかいて翌朝には熱が下がってすっきりとなり、かぜも2−3日で治ってしまうものです。
 
熱いうちに生姜湯を飲んで、すぐに布団にくるまって寝ると、間もなく体がぽかぽかとして汗が出てきます。これはショウガの香りのもとになっているジンギベロールやシトラールなどの精油成分と、辛味のもととなっているショウガオールやジンゲロールなどの成分が体の芯から温めて発汗を促し、体にたまっている熱を鎮めるためです。
 
ショウガを乾燥させたものはショウキョウ(生姜)という生薬で多くの漢方薬に配合されています。生姜は食品ではショウガと読み生薬ではショウキョウと読みます。
 
汗を出やすくするためにクズ(葛)やネギなどの力を借りることも経験医療の中では伝えられています。クズの根を乾燥した生薬は葛根(かっこん)といい発汗作用や解熱作用があり、かぜの初期症状の頭痛、肩や首すじの凝りを和らげたり、痛め止めの働きもあります。


市販のクズ粉でつくるクズ湯も、滋養があり体を温めるのでカゼのひきはじめや回復期に効果があります。ネギの白い部分は漢方では葱白(そうはく)といい、体を温め発汗を促す作用があります。ネギの白い部分を刻んで生姜湯に入れると発汗作用は増強され初期のかぜにはこれだけでも十分な効果があります。
 
かぜウイルス(邪気)の種類や強さも多様であり、患者の体力(正気)も様々です。そこで症状の強さや体の抵抗力の度合いに応じて薬草を組み合わせて、より合理的にカゼを治療していく方法を考えたのが漢方薬です。


図:漢方薬は複数の生薬を組み合わせて作る(①)。これらの生薬には様々な成分が含まれており、生体機能に多様な作用を発揮する。リンパ球やマクロファージなどの免疫細胞を活性化して病原菌を免疫システムで排除する(②)。胃や小腸などの消化管の働きを良くして栄養状態を良くし(③)、血液循環や諸臓器の働きを良くして免疫力が高まる状態を作り(④)、さらに気管支や消化管の粘膜バリヤーを強化して病原菌に対する粘膜の防御力を高める(⑤)。生薬には抗菌作用や抗ウイルス作用を持った成分も含まれている(⑥)。このような作用によって、漢方薬は感染症に対する抵抗力を総合的に高める。




【症状に応じて漢方処方を使い分ける】

現在の漢方薬は、約1800年前の後漢の名医、張仲景(ちょうちゅうけい)によって記された古典「傷寒論(しょうかんろん)」の考え方が基本になっています。この本は今日でいう腸チフスやインフルエンザやカゼなど急性熱性疾患の病状の変化とその治療法則をまとめたもので、体の治癒力を補いながら病気を治療していく臨床経験に基づいて体系化されたという強みがあります。
 
かぜの治療に使う漢方薬の代表に桂枝湯(けいしとう)と葛根湯(かっこんとう)と麻黄湯(まおうとう)があります。この3つの漢方薬の成り立ちと使い方を説明しながらかぜを治す漢方のやり方を説明します。


桂枝湯は、桂皮(けいひ)(ニッキ、シナモンの類)、芍薬(しゃくやく)(しゃくやくの根)、生姜(しょうきょう)(ひねしょうが)、大棗(たいそう)(なつめの実)、それに甘味料にも利用されている甘草(かんぞう)(ウラルカンゾウなどの根)という5つの生薬から構成されています。

体力を補いながら、体の血行を促進して体を温め、穏やかに発汗させてカゼを自然と治していく効果があります。その多くが食品であることからもわかるように胃腸の虚弱な人や正気の不足した人にも適しているのです。
 
桂皮(けいひ)は血管拡張作用があり弱い発汗作用があります。生姜(しょうきょう)は体を温め、桂皮の発汗作用を増強し、芍薬(しゃくやく)と大棗(たいそう)は発汗が過度になるのを防ぎ、体液を補う効果があります。甘草(かんぞう)は諸薬を調和させる作用があり、他薬の作用(この場合は発汗作用)が過度になるのを抑制します。

このように桂枝湯は、正気の消耗を防止し体液を保護して、体の治癒力を利用してかぜを治す薬なのです。「傷寒論」には、「服用後しばらくしてから熱い粥をすすり、ふとんをかけ、薬効を助けなさい。全身に汗がにじむ程度がよく、だらだらと流れるほど発汗させてはならない」などと、丁寧な注釈がついており、かぜを自然に治す知恵の集積といっても過言ではありません。
 
葛根湯(かっこんとう)は桂枝湯に葛根(かっこん)と麻黄(まおう)を加えた構成です。麻黄には交感神経を興奮させるエフェドリンが含まれていて、熱産生を高めるほかに、発汗作用・気管支拡張作用・鎮咳作用・抗炎症作用・抗アレルギーなどの作用があります。桂皮の血管拡張作用は麻黄の発汗作用を促進し、葛根には発汗作用や筋肉の緊張を和らげる効果があります。
 
葛根湯は風邪の引き始めで発熱と寒け、後頭部から項部のこりがあるような場合で、まだ汗が出ていない状態に使います。このような状態の時に葛根湯を服用して体を温かくして寝ると、気持ち良く汗が出て熱もゆっくりと自然に下がり、風邪が治っていくのです。


体力があって、高熱や悪寒や関節痛などの症状が強く、汗も出にくいときには、効果を緩和させる葛根・芍薬・大棗・生姜を除き、麻黄・桂皮・甘草・杏仁の4つの生薬からなる麻黄湯が適します。杏仁には鎮咳作用もあります。一般に、構成生薬が少ないほど作用は峻烈になり、多いと緩和になります。麻黄と桂皮の組み合わせの発汗作用を最大限に引きだすために、発汗の行き過ぎを抑える芍薬や大棗などを除いた解釈できます。


表:桂枝湯・葛根湯・麻黄湯の構成生薬の違い。


かぜに罹っても、多くの場合はほっておいても自然に治ります。これは体に備わっている免疫力などの自然治癒力が働いているからです。

漢方治療で体力や症状の違いによって使う薬を変えるのは、偏った体の状態を正常な方向に向けながら、体の治癒力が効果的に働くように考えているからです。かぜに罹った人の体力を考慮しながら、体の自然治癒力を最大限に生かすような治療薬を作り出している点に漢方薬の特徴があるのです。
 
漢方治療は普通のかぜ(風邪)だけでなく、インフルエンザや新型コロナウイルス感染症(COVID-19)にも有効です。麻黄湯がインフルエンザや新型コロナウイルス感染症(COVID-19)にも有効という報告もあります。様々な呼吸器感染症に漢方治療は役立ちます。(下図)


図:かぜやインフルエンザや新型コロナウイルス感染症(COVID-19)はウイルス(①)が肺に炎症を起こして発症する(②)。漢方治療(③)は体力と抵抗力を高めると同時に、咳や発熱などの症状の緩和にも有効(④)。さらに漢方薬の成分には抗ウイルス活性を持つものも見つかっている(⑤)。様々な呼吸器感染症に漢方治療が役立つ。

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