182)ドコサヘキサエン酸(DHA)は筋肉量を増やす
体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術182
ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。
【加齢と共に筋肉量が減っていく】
加齢によって筋肉量が減少し、筋力低下や身体機能が低下することをサルコペニアと言います。サルコペニア(Sarcopenia)はギリシャ語で筋肉を意味する「サルコ(sarco)」と喪失を意味する「ペニア(penia)」を合わせた造語です。主に加齢により全身の筋肉量と筋力が自然低下し、身体能力が低下した状態と定義されています。
一般に、人の筋肉量は20歳代をピークにして加齢とともに徐々に減少していく傾向があり、60歳を超えるとその減少率は加速します。
体重に占める骨格筋の量の平均は20歳代で40〜45%程度ですが、40歳代で30〜35%、70歳代で25%程度になります。体重60kgの人が、20歳代で25kgの筋肉量が70歳代で15kgになるイメージです。50年間で筋肉量が40%減少する計算です。一般的に30歳代以降は1年間に0.5%から1%くらいの割合で筋肉量は加齢とともに減少すると言われています。(下図)
サルコペニアは、筋力の低下、骨格筋量の全般的な減少、身体能力の低下を特徴とします。筋肉量が減ると、歩く速度が低下し、転びやすくなります。その結果、歩くときに杖を使うようになります。さらに筋肉量が低下すると自力で歩行できなくなり、車椅子が必要になります。さらに筋力が低下すると寝たきりになります。(下図)
筋力の低下の度合いは個人差があります。若い頃から運動をして筋肉を鍛えている人は90歳を超えても自分で歩くことができます。一方、日頃から運動していないと、70歳代から杖や車椅子が必要になります。筋力が低下すると転びやすくなり、骨折して寝たきりになることもあります。サルコペニアの進行は、高齢者の生活の質の低下、転倒、入院、死亡のリスク増加と関連しています。
【魚油はサルコペニアを予防する】
サルコペニアの予防は、日頃の運動(有酸素運動+レジスタンス運動)とタンパク質の多い食事が有効です。薬物で治療が可能であれば良いのですが、現時点でサルコペニアの予防や治療に有効な薬は知られていません。魚油にサルコペニアを予防する効果が指摘されています。 以下のような報告があります。
高齢者のサルコペニア関連のパフォーマンスに対するオメガ3脂肪酸の潜在的な影響を評価するために、2018年7月までの文献のメタ解析を行った結果を報告しています。
メタ解析(メタアナリシス)とは、複数の独立した研究結果を統計的に統合し、全体的な傾向や効果を評価する方法です。一つの研究だけに依存せず、複数のデータを用いることでサンプルサイズが増えるため、効果の有無をより高い精度で検出でき、結果の信頼性が向上します。
メタ解析の結果、1日2g以上のオメガ3脂肪酸のサプリメントの補充が、筋肉量を増やし、歩行速度を速める効果が認められました。長期間摂取するほど、この効果は高くなりました。
つまり、1日2g以上のオメガ3脂肪酸を長期間補給すると、筋肉量と歩行速度が向上することが示されました。
【オメガ3脂肪酸の補給は高齢者の筋肉タンパク質合成率を高める】
筋肉(骨格筋)の主な機能は運動や身体活動を可能とすることですが、さらに、骨格筋量を維持できている人は病気になりにくく、長生きする傾向があることも明らかになってきています。
それは、骨格筋からマイオカインというホルモン様のタンパク質が産生され、このマイトカインはがんを含め多くの病気を予防する効果が明らかになっています。つまり、骨格筋量の維持は運動や身体活動だけでなく、私たちが病気を予防し、健康的な日常生活を送る上で極めて重要です。
加齢や運動不足は筋肉タンパク質の合成を低下させます。
タンパク質を消化・吸収する消化管の働きは加齢とともに低下し、高齢者は理想的なタンパク質摂取量 (1~1.5 g/kg/日) を達成できなくなります。
加齢は、血液中のアミノ酸をタンパク質として捕捉する能力が低下し、タンパク質合成能も低下します。
インスリンは筋肉タンパク質分解を抑制し、筋肉合成を促進しますが、加齢とともにインスリンの分泌能や筋肉のインスリンに対する感受性が低下します。その結果、筋肉量が減少していきます。
動物性(ホエイプロテインなど)および植物性タンパク質、ロイシン、クレアチンなどの栄養補助食品戦略は、サルコペニアに関連する結果を改善する上で重要な役割を果たすことが示されています。
50歳を過ぎると、年間約1%~2%の筋肉量が失われると言われています。加齢に伴う筋肉量および筋力の減少は、筋肉内脂肪の蓄積、筋肉の萎縮、衛星細胞の増殖および分化能力の低下などによって引き起こされます。
骨格筋は筋線維が束をなした構造をとっています。筋線維は単核の筋芽細胞が融合することで形成された多核の細長い細胞で、収縮により力を生み出すことができます。
筋線維それ自体は分裂能を持たないため、傷害を負うと細胞を再生することができませんが、筋線維の再生を担う幹細胞を備えています。それが、筋線維の周囲に存在する筋衛星細胞と呼ばれる細胞で、筋線維が壊れると爆発的に増え、分化・融合して筋線維を再生します。(下図)
このような骨格筋の再生能力は加齢と共に低下します。高齢者における筋再生の遅れは、要介護や寝たきりを引き起こす要因となります。つまり、加齢による筋肉量の減少は、公衆衛生上の大きな懸念事項です。
オメガ3脂肪酸の補給は高齢者の筋肉タンパク質合成率を高めることが報告されています。
魚油に多く含まれるオメガ 3 (n-3) 脂肪酸は動物のタンパク質同化を刺激するため、サルコペニアの治療に有効である可能性が指摘されています。しかし、オメガ 3 脂肪酸がヒトのタンパク質代謝に及ぼす影響は不明です。
この研究は、高齢者の筋肉タンパク質合成速度に対するオメガ 3 脂肪酸補給の効果を評価することを目的に行われました。
健康な高齢者 16 名をランダムに割り当て、オメガ 3 脂肪酸またはトウモロコシ油を 8 週間摂取しました。筋肉タンパク質の合成速度や同化(物質合成)シグナル伝達経路の活性状態を評価しました。
その結果、トウモロコシ油の補給は、筋肉タンパク質合成速度および筋肉内の同化(物質合成)のシグナル伝達系の活性化の程度に影響を与えませんでした。
一方、オメガ3脂肪酸の補給は、高アミノ酸+高インスリン血症の状態における筋肉タンパク質合成速度の上昇を増強し、筋肉内の同化(物質合成)のシグナル伝達系の活性を亢進しました。
以上の結果から、オメガ3脂肪酸は高齢者の筋肉タンパク質合成を刺激し、サルコペニアの予防と治療に有効である可能性が示唆されました。
【ドコサヘキサエン酸は微細藻類が産生している】
上記の解説では、魚油やオメガ 3 (n-3) 脂肪酸が骨格筋の合成を促進し、筋肉量を増やすことを示しました。この効果は、魚油に多く含まれるドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)によるものと考えられています。特に、ドコサヘキサエン酸(DHA)が最も重要と考えられています。
魚に含まれるドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)は魚の体内で合成されているのではありません。DHAとEPAを作っているのは微細藻類です。
プランクトンが微細藻類を食べ、小型魚がプランクトンを食べ、大型魚が小型魚を食べるという食物連鎖によって、サバやサンマやカツオやマグロなどの魚油にEPAやDHAが蓄積しています。人間はこれらの魚を食べることによってEPAやDHAを摂取しています。(下図)
ドコサヘキサエン酸(DHA)がいつ地球上に出現したかについては、明確な年代を特定することは困難です。DHAは主に海洋の生物、特に藻類や一部のプランクトンによって合成される脂肪酸です。寒冷な環境で生活する生物にとっては細胞膜の流動性を高めるために必要な生体成分だと考えられています。
地球上での藻類の出現はかなり古く、約20億年以上前の古代にさかのぼります。DHAは寒冷な環境での細胞膜の流動性を維持するのに適した脂肪酸です。このため、寒冷な海洋環境に生息する藻類はDHAを産生するようになったと考えられています。さらに、DHAはエネルギー貯蔵の形態としても機能します。藻類は成長条件が不利なときにエネルギー源としてDHAを利用することができます。
このように、藻類がDHAを生成するメリットは多岐に渡り、必然的に海洋中の微細藻類がDHAを生成するようになりました。
【培養した微細藻類由来DHAが注目されている】
魚のメチル水銀やマイクロプラスチックなど海洋汚染に由来する有害物質の魚への蓄積の問題は、魚食を安易に推奨できないレベルまで深刻になっています。
そこで、海洋でDHAとEPAを作っている微細藻類を培養して、培養した微細藻類からDHAとEPAを取り出せば、汚染物質がフリーのDHA/EPAを製造できます。(下図)
健康増進の目的ではDHAを1日1グラムから3グラムの摂取が推奨されています。がん治療には1日3から5グラムのDHAの摂取が有効であることが多くの研究で示されています。通常の魚油の場合、DHA含有量は10%から20%程度です。1日3グラムのDHAを摂取するには15gから30gの魚油の摂取が必要になります。
微細藻類の中でもDHA含有量が極めて多いシゾキトリウム(Schizochytrium sp.)をタンク培養して製造した微細藻類由来オイルが欧米や中国などでは魚油に代わって使われています。閉鎖環境での培養のため、汚染の心配がありません。しかも、植物由来なので、菜食主義者(ベジタリアン、ヴィーガン)も摂取できます。
英国脳栄養化学研究所の教授マイケル・クロフォード博士は「日本人の子どもが欧米人の子どもと比較して知能指数が高いのは、日本人が昔から魚を多く食べてきた食習慣によると考えられる」と1989年に発表して話題となりました。
DHAの摂取を増やす目的で魚を多く食べることは、脳機能の発達促進や健康増進や多くの病気の予防に役立ちます。しかし一方、海洋汚染の進行によって、メチル水銀など有害物質が魚に蓄積し、魚の多食の危険性も指摘されています。少なくとも、妊婦と乳児や子どもは魚の摂取を制限するように国(厚労省)は言っています。
乳児のミルクにDHAを添加した製品が推奨されています。しかし、ミルクより母乳の方が多くのメリットがあります。母親が汚染のない微細藻類由来のDHAサプリメントを多く摂取して母乳のDHA濃度を増やして子どもを育てれば、その子どもの知能指数を上げることが可能になります。子どもの知能を高める方法としてエビデンスが十分にあると思います。
微細藻類由来ドコサヘキサエン酸についてはこちらのサイトで紹介しています。