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178)抗炎症食が健康寿命を延ばす

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術178

ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。


【炎症が起こると炎症性サイトカインが産生される】

炎症とは、体が感染や外傷、化学物質、免疫反応などによって損傷を受けた際に、体内で発生する防御反応のことです。損傷を修復し、感染を防ぎ、回復を促進するための生体反応です。
 
炎症は急性と慢性の2つに分けられます。
急性炎症は軽い切り傷、風邪、急性の咽頭炎など、外傷や細菌感染や急性の化学物質の暴露などで起こります。初期の免疫応答として、赤み、腫れ、熱、痛みが伴います。体の防御機構が迅速に反応し、損傷を修復しようとします。通常は数日から数週間で収束します。
 
慢性炎症は長期的な刺激や、持続的な免疫系の異常(例: 自己免疫疾患、慢性の感染、持続的な化学物質の暴露)で起こります。炎症が持続することで、組織の変性や線維化が進行し、さまざまな慢性疾患(動脈硬化、がんなど)を引き起こす可能性があります。
 
急性炎症は通常、体の防御反応として有益ですが、慢性炎症は老化や発がんを促進し、さまざまな健康問題を引き起こす可能性があります。


図:病原体や外傷や化学物質(毒物)などの炎症性刺激(①)によって、病変部にマクロファージや好中球やリンパ球などの炎症細胞や免疫細胞が集まる(②)。炎症細胞や免疫細胞は炎症性サイトカイン(③)を産生して、さらに炎症細胞や免疫細胞を集積させ、炎症反応や免疫応答が起こる(④)。炎症の急性症状として発熱、発赤、腫脹、疼痛、機能障害が起こる(⑤)。これらの炎症反応によって病原体が排除され、組織が修復されると(⑥)、炎症は収束して治癒する(⑦)。しかし、炎症が慢性化して持続すると、組織・臓器の機能が障害され、老化や発がんが促進される(⑧)。


細菌やウイルスなどの病原菌や、体にとって害になる異物の侵入に対して、体は免疫細胞によってこれらを排除するシステムを持っています。
 
これらの病原菌や異物は、まずマクロファージや樹状細胞に取り込まれて分解され、その抗原となる部分がマクロファージや樹状細胞の表面に移動してきます。これを抗原提示といい、マクロファージや樹状細胞を抗原提示細胞と言います。
 
抗原提示細胞の表面に提示された抗原はTリンパ球によってよって認識され、その抗原を排除するために他のリンパ球を活性化します。活性化されたリンパ球には、病原菌や異物を直接殺す働きをするキラーT細胞や、B細胞からの抗体の産生を指令するヘルパーT細胞などがあります。これらのリンパ球の働きによって、病原菌や異物は処理され排除されます。


図:細菌やウイルスなどの病原菌に対して、好中球やマクロファージやナチュラルキラー(NK)細胞が排除する。抗原による感作の必要のない第一次防衛機構が「自然免疫」となる(①)。病原菌の抗原が樹状細胞に取り込まれ(②)、抗原を貪食した樹状細胞はリンパ節に移動して抗原の情報をT細胞やB細胞に渡して活性化し(③)、病原菌に対する抗原特異的な免疫応答によって病原菌を排除する(④)。この抗原特異的な免疫応答が「獲得免疫」となる(⑤)。


このような免疫細胞が活性化される過程で、抗原提示細胞(マクロファージや樹状細胞)やリンパ球(T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞)などは、サイトカインというタンパク質を産生して、お互いを制御したり活性化するための伝達物質として使っています。
 
サイトカインというのは、細胞の増殖、分化、細胞死などの情報を伝達し、免疫や炎症や創傷治癒など様々な生理機能の調節を担うタンパク質です。
 
サイトカインはタンパク質で、リンパ球や炎症細胞などから分泌されます。サイトカインは細胞表面の膜上にある受容体に結合することによって、受容体に特有の細胞内シグナル伝達の引き金となり、極めて低濃度で生理活性を示します。
 
白血球が分泌し免疫系の調節を行なうインターロイキン、ウイルス増殖阻止や細胞増殖抑制の働きをもつインターフェロン、様々な種類の細胞増殖因子など数百種類のサイトカインが知られています。炎症反応に関与するものを炎症性サイトカインと呼んでいます。
 
体内に病原菌が侵入すると、マクロファージなどの炎症細胞からインターロイキン-1(IL-1)やインターロイキン-6(IL-6)や腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)といった炎症性サイトカインが分泌され、感染部位に他の免疫細胞や炎症細胞を集め、炎症反応や免疫応答を開始します。


図:病原体の感染や外傷などの炎症刺激によってマクロファージやリンパ球から炎症性サイトカイン(IL-1, IL-6, TNF-α)が産生され、炎症反応や免疫応答が開始され、病原体の排除や組織の修復が起こる。




【加齢とともに炎症性サイトカインの血中濃度が高くなっている】

加齢による体の老化の進行により、細胞のダメージが蓄積し、ダメージ関連分子パターン(damage-associated molecular patterns: DAMPs)を体内から除去する内因性メカニズムが低下します。

ダメージ関連分子パターン(DAMPs)というのは、細胞傷害に伴って放出される細胞内分子で、組織の炎症を引き起こします。このDAMPsの処理能力が低下すると慢性炎症が持続します。
 
生体は「自己にない分子パターンを認識する」というメカニズムで細菌やウイルスや真菌などの病原体を認識して免疫を発動させます。これを「病原体関連分子パターン(pathogen-associated molecular patterns: PAMPs)」と言います。
 
また、細胞傷害に伴って放出される細胞内分子を「危険シグナル」として認識して炎症反応を発動させます。これをダメージ関連分子パターン(DAMPs)と総称しています。これらは、周囲の組織や細胞に危険を知らせるアラームのような役割を担っています。
 
壊死した細胞、細胞外に漏出したATP、高血糖、セラミド、アミロイド、尿酸結晶、コレステロール結晶など様々なDAMPsが加齢とともに増加します。これらのDMAPsは、マクロファージなどの組織に常在する自然免疫に関与する細胞によって認識され、慢性の炎症を引き起こし、これが加齢や加齢関連疾患の原因の一つになっています。


図:細胞ダメージに伴って漏出したATPや、コレステロール結晶や尿酸結晶や高血糖やβアミロイドなどの自己由来成分はダメージ関連分子パターン(damage-associated molecular patterns: DAMPs)となって、マクロファージなどの組織に存在する炎症細胞を活性化し、IL-1βやIL-6やTNF-αなどの炎症性サイトカインの産生を高め、慢性炎症を引き起こす、慢性炎症は老化を促進し、2型糖尿病や認知症や動脈硬化性疾患など様々な加齢関連疾患の発症と進展を促進する。がんの発生も促進する。





【慢性炎症が体の老化を促進し、寿命を短縮する】

加齢は様々な慢性疾患の発症の最大のリスク要因になっています。加齢とともに、関節炎、2型糖尿病、心血管疾患、腎臓病、アルツハイマー病、パーキンソン病、黄斑変性、フレイル(虚弱)、サルコペニア(筋肉減少症)、呼吸器疾患、ある種のがんなど様々な慢性疾患の発症頻度が高まってきます。


このような加齢関連疾患の発症に慢性炎症が関わっていることは広く認識されています。慢性炎症は体の老化促進し、加齢関連疾患の発症を促進し、悪化させます。このように、慢性炎症と加齢関連疾患との間には強い関連があり、悪循環を形成しています。
 
慢性炎症を引き起こしている原因を除去することによって、老化や加齢関連の慢性疾患の発症や進展を遅延させることができると考えられています。


図:慢性炎症は老化や様々な加齢関連の慢性疾患の発症を引き起こしている。(参考:Prev Med. 2012 May; 54(Suppl): S29–S37.)


通常、急性炎症は数日で収束します。しかし、何らかの原因によって炎症が数ヶ月あるいは数年間続く場合があります。この慢性炎症は、自己免疫疾患、糖尿病、動脈硬化、変形性関節症など様々な原因で起こります。
 
慢性炎症は体内で活性酸素の産生を増やし、がんや生活習慣病の発生を促進し、さらに老化スピードを加速し、寿命を短縮することガ多くの研究で明らかになっています。


図:体内に慢性炎症が存在すると、活性酸素の産生がふえ、酸化ストレスが亢進して、生活習慣病やがん(癌)の発症を増やし、老化を促進し、寿命を短縮する。


体内の炎症の指標として血液中の白血球数があります。白血球は炎症反応で動員され、血液中に増えます。血液中の白血球数とがん死亡リスクが正の相関を示すことが複数の疫学研究で報告されています。以下のような報告があります。

WBC count and the risk of cancer mortality in a national sample of U.S. adults: results from the Second National Health and Nutrition Examination Survey mortality study.(米国成人の全国サンプルにおける白血球数とがん死亡リスク:第2回国民健康栄養調査死亡率調査の結果)Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2004 Jun;13(6):1052-6.

この研究では、1976年から1980年までの30〜74歳の7,674人の第2回国民健康栄養調査(NHANES II)の参加者を対象に、1992年12月31日までの死亡率の追跡調査を行なっています。
 
年齢、性別、人種を調整した後、白血球数の上昇と総がん死亡率のリスクの上昇との間に関連性が観察されました。白血球数が上位4分の1の群と下位4分の1の群のがん死亡の相対リスクは2.23(95%信頼区間:1.53-3.23)でした。
 
喫煙、身体活動、肥満度指数、アルコール摂取量、教育、ヘマトクリット値、および糖尿病を調整した後でも、白血球数と総がん死亡率との関連は有意のままでした。白血球数が上位4分の1の群と下位4分の1の群のがん死亡の相対リスクは1.66(95%信頼区間:1.08-2.56)でした。


これは米国の疫学研究ですが、以下の論文はオーストラリアからの報告です。

Association between circulating white blood cell count and cancer mortality: a population-based cohort study.(循環白血球数とがん死亡率との関連:人口ベースのコホート研究)Arch Intern Med. 2006 Jan 23;166(2):188-94.

オーストラリアのシドニーの西にあるブルーマウンテン地域での登録時(1992年1月1日から1994年12月31日)でがんのない49歳から84歳の3189人の人口ベースのコホート研究です。主要評価項目は、2001年12月31日時点での全てのがんによる死亡率です。   
 
その結果、循環白血球数が高いほど、すべてのがんによる死亡率が高いことが示されました。
 
年齢、性別、教育、BMI、ヘマトクリットレベル、アルコール消費量、身体的不活動、喫煙、毎週のアスピリン使用、糖尿病または空腹時高血糖状態、および空腹時血糖値を調整した比例ハザードモデルでは、すべてのがんの死亡率の相対リスクは、循環白血球数が上位4分の1の群(白血球数が7400細胞/ μL以上)と下位4分の1の群(白血球数が5300細胞/ μL以下)を比較した死亡率のハザード比は1.73(95%信頼区間:1.18-2.55)でした。

つまり、循環白血球数が高いほど、その後のがん死亡率が高いということです。循環白血球数は体内での炎症反応のレベルの指標と考えられるので、炎症ががん死亡率を高めることを意味しています。



【食事の内容が体内の慢性炎症状態に影響する】

免疫応答や炎症反応は感染症などに対する体の防御システムとして重要ですが、慢性的な軽度の炎症が老化を促進しています。

この体内の慢性炎症の状態は、食事の内容によって影響を受けることが明らかになっています。つまり、体内の炎症性サイトカインを増やすような食事成分や、逆に炎症を抑制するような食事成分が知られており、炎症を抑制する食事が老化を抑制し、寿命を延ばすことも明らかになっています。
 
例えば、体内の慢性炎症はうつ症状やうつ病のリスクを高めます。慢性炎症を軽減する食事がうつ症状の軽減に役立つことが知られています。

魚を多く食べるとうつ病を発症するリスクが低下することが報告されています。これは魚油に多く含まれるドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)の抗炎症作用による効果だと考えられています。

また、野菜や水溶性食物繊維の摂取量が多いとうつ病のリスクが低下することが報告されています。これは野菜に含まれるフラボノイドや水溶性食物繊維が抗炎症作用を有するからだと考えられています。
 
このように、食事成分の中には炎症を抑制するものと、炎症を促進するものがあることが明らかになっています。

食事が体内の炎症レベルに与える影響を評価するための指標として食事性炎症指数(Dietary Inflammatory Index:DII)があります。
食事性炎症指数DII(Dietary Inflammatory Index)は、食事が炎症状態に与える影響を多くの文献に基づき総合的に評価するための指標で、2011年から2012年にかけてサウスカロライナ大学(米国)のShivappaらにより研究開発されました。そこでは、2010年12月までに発行された約6,500件の論文をスクリーニングしたうち、適格な1,943件から特定した45種類の栄養素や食品の摂取量について、炎症促進性あるいは抗炎症性をスコア化しています。
 
対象としている生体内の炎症性バイオマーカーは、IL-1β、IL-4、IL-6、IL-10、TNF-α、CRPの6種類です。これらが増加するものを(+1)、減少するものを(-1)、影響がないものは(0、ゼロ)として採点しています。
 
このスコアと個人の摂取量を掛け合わせて算出した値が、正なら炎症を促進する食事、逆に負なら炎症を抑制する食事と評価をします。

高いDIIスコアは、炎症を促進する可能性が高い食事を示し、低いDIIスコアは、炎症を抑制する可能性がある食事を示します。
高いDIIスコアは、慢性炎症や関連する健康問題(例:心血管疾患、糖尿病、がん)のリスクを高める可能性があります。逆に、低いDIIスコアの食事は、炎症を抑える効果があるとされています。
 
以下のような食品が食事性炎症指数(DIIスコア)を高める傾向があります:
 
1.  加工食品:加工肉(例:ソーセージ、ベーコン)、ファストフ       ード、スナック菓子など。

2.  高糖分の食品:砂糖が多く含まれる飲料(例:ソフトドリンク、エナジードリンク)、スイーツ、デザート、市販の焼き菓子など。キャンディー、ゼリー、シロップなど砂糖を多く含む食品。
炭酸飲料やスポーツドリンクなどの砂糖入り飲料。

3.  高脂肪食品:特に飽和脂肪酸を多く含む食品(例:バター、ラード、トランス脂肪を含むマーガリン)。フライドポテト、フライドチキン、ドーナツなどの揚げ物
油脂には健康に良い油脂と悪い油脂があることを知ることが重要です。バター、ラード、赤身肉などに含まれる飽和脂肪酸が早死リスクを上昇させることが、多くの研究で明らかになっています。その一方で、ω3系不飽和脂肪酸やオリーブオイルは多く摂取するほど健康作用が高まります。

4.  精製穀物:白パン、白米、白いパスタなど、精製されて栄養素が取り除かれた穀物製品。

5.  高塩分食品:塩分が多い食品(例:インスタント食品、塩辛いスナック、加工された食品など)。

6.  赤肉と加工肉:ステーキやハンバーグなどの赤身の肉。
 

これらの食品は、体内での炎症を引き起こす可能性があり、その結果、慢性疾患のリスクを高めることがあるとされています。
 

炎症を抑えるためには、抗炎症作用がある食品を多く摂取することが推奨されます。食事性炎症指数(DIIスコア)が低い食品は、体内の炎症を抑える可能性があるとされています。具体的には、以下のような食品がDIIスコアを低める傾向があります:
 
1.  果物:特にベリー類(ブルーベリー、ストロベリー)、リンゴ、オレンジ、キウイなどは抗酸化物質とビタミンCが豊富で、炎症を抑える作用があります。

2.  野菜:特に緑葉野菜(ほうれん草、ケール、ブロッコリー)、トマト、ピーマンなど。これらはビタミン、ミネラル、抗酸化物質が豊富で、炎症を軽減する助けになります。ブロッコリーなどのアブラナ科野菜の摂取が、全身の慢性炎症と死亡率の低下に関連していたことが、米国・サウスフロリダ大学の研究で報告されています。

3.  全粒穀物:玄米、全粒パン、オートミールなど。精製されていないため、繊維や栄養素が多く含まれており、炎症を抑える効果があります。

4.  ナッツと種子:アーモンド、くるみ、チアシード、フラックスシード(亜麻仁)など。これらは良質な脂肪、抗炎症作用のある成分が含まれています。

5.  脂肪の多い魚:サーモン、マグロ、サバなどの魚は、オメガ-3脂肪酸が豊富で、炎症を抑える効果があります。

6.  豆類とキノコ類:豆類は食物繊維と植物性タンパク質が豊富で、炎症を抑える助けになります。豆類とキノコ類に含まれるポリアミンに慢性炎症を抑える働きがある可能性が示唆されています。

7.  ハーブとスパイス:ターメリック(クルクミン)、ジンジャー(生姜)、シナモンなど。これらは抗炎症作用を持つ成分が含まれています。

8.  健康的な脂肪:オリーブオイルやアボカドなど、オレイン酸を含む食品。これらは炎症を抑えるのに役立ちます。
 

これらの食品は、抗炎症作用のある栄養素や成分を多く含んでおり、体内の炎症を軽減するのに役立つとされています。健康的な食事を心がけることで、炎症を抑え、全体的な健康を改善することができます。
 
以上から、抗炎症食は、野菜や果物、ナッツ、豆類、全粒粉の穀物、オメガ3系多価不飽和脂肪酸(脂の多い魚)、オレイン酸(オリーブオイル、アボカド)が多く、赤身肉、加工肉、揚げ物、スナック菓子など高糖分の食品、精製穀物の少ない食事といえます。
このような食事が、老化の進行を抑え、寿命を延ばします。その逆のものを多く食べれば、老化が速く進行し、寿命が短くなります。

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