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163)柑橘類の皮を食べると寿命が延びる?

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術163

ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。


【長寿遺伝子が存在する】

寿命のある程度の部分は遺伝的に決められています。長寿の家系があるのは確かです。例えば、100歳以上まで生存した人(百寿者)の子孫と、比較的若く亡くなった人の子孫を比較すると、「百寿者の子孫の方が平均寿命が長い」という研究結果が報告されています。
 
哺乳類の寿命を延ばすことが実験的に証明されている遺伝子が幾つか報告されています。これらの長寿遺伝子を欠損させるとマウスの寿命が短くなります。逆に、長寿遺伝子を過剰発現させると、マウスの寿命を延長しました。
 
これらの遺伝子の中で、老化を遅らせる作用が際立っている遺伝子としてCISD2があります。CISD2 発現レベルが高いと、自然な老化を遅らせて長寿を促進できるだけでなく、加齢に関連する病気の発症と進行を遅らせることができることが明らかになっています。



【CISD2は鉄硫黄タンパク質】

CISD2はCDGSH 鉄硫黄ドメイン2(CDGSH iron-sulfur domain 2)の略です。CISD2は鉄硫黄(Fe-S)クラスターを有する鉄硫黄タンパク質です。
呼吸や光合成で代表される生体エネルギー産生のプロセスでは、異なる酸化還元パートナーの間で電子伝達が必要になります。鉄硫黄(Fe-S)クラスターを有する鉄硫黄タンパク質は、生体内において電子伝達系などの酸化還元反応に関与しています。
 
Fe-Sタンパク質は、細菌から高等動植物までほぼ全ての生物に存在し、ミトコンドリアの呼吸鎖や葉緑体における光合成電子伝達系などにおいて電子伝達中心として機能しています。
 
2個の鉄と2個の硫黄または4個の鉄と4個の硫黄原子がクラスターを形成し,それがタンパク質のシステイン残基を介する配位結合しています。
鉄硫黄クラスターは、鉄(Fe)と硫黄(S)の原子から構成される無機化合物群であり、特に酵素の活性部位や電子伝達システムに存在し、生物の代謝とエネルギー生成に必須です。
鉄硫黄クラスターの構造は多様で、単純な2鉄-2硫黄(2Fe-2S)クラスターや4鉄-4硫黄(4Fe-4S)クラスターから、より複雑な形態まで存在します。これらのクラスターは、電子を一つの分子から別の分子へと移動させる能力を持ち、この機能によって細胞内の酸化還元反応が助けられます。光合成や呼吸鎖における電子伝達鎖は、鉄硫黄クラスターを含む複数のタンパク質によって構成されており、これによりエネルギーが効率的に生成されます。また、鉄硫黄クラスターは、DNA修復や転写の調節など、他の多くの細胞機能にも関与しています。(下図)


図:鉄-硫黄クラスターとは鉄(Fe)原子および硫黄(S)原子から構成される酸化還元中心のことで、タンパク質質内のシステイン残基の側鎖であるSH基に鉄原子が配位する構造を持ち、[2Fe-2S]型、[3Fe-3S]型、[4Fe-4S]型が存在する。様々な電子伝達体として機能している.
 
 

生理学的には、CISD2 はミトコンドリア機能、小胞体の完全性、細胞内 Ca2+恒常性、および酸化還元状態の維持に関与しています。
CISD2は小胞体、ミトコンドリア、ミトコンドリア関連小胞体膜に存在します。ミトコンドリア関連小胞体膜(mitochondria-associated ER membrane:MAM)は小胞体とミトコンドリアの近接した領域で、様々なタンパク質が局在しており、小胞体–ミトコンドリア間のCa2+輸送やエネルギー産生,脂質輸送など多彩な生理機能を調節している領域と考えられています。
 
以上のように、CDGSH 鉄硫黄ドメイン 2(CDGSH iron-sulfur domain 2:CISD2)は、ミトコンドリア機能に関連するタンパク質であり、鉄硫黄クラスターを含むドメインを持っています。CISD2は、特にエネルギー代謝や細胞の老化プロセスに関連しています。
CISD2は、細胞のカルシウムの恒常性維持とアポトーシス(プログラムされた細胞死)の調節に関与すると考えられており、特に寿命延長と疾患抵抗性に影響を与える可能性があります。



【CISD2の機能低下はミトコンドリアの破綻を引き起こす】

ミトコンドリアの機能不全は、老化の顕著な特徴です。ミトコンドリアの機能不全は、哺乳類の老化を促進します。
CISD2遺伝子は、哺乳類の寿命を媒介する長寿遺伝子の 1 つです。マウスにおいてCISD2遺伝子の欠損は早期老化により寿命を短縮することが実証されています。CISD2のmRNAとタンパク質は加齢とともに減少します。
 
トランスジェニック発現によってCISD2遺伝子を高発現させたマウスでは、明らかな有害な副作用なしにマウスの寿命中央値および最長寿命を延長することが示されています。さらに、CISD2は加齢に伴う損傷や機能低下からミトコンドリアを保護し、加齢に伴う全身のエネルギー代謝の低下を軽減します。これらの結果は、CISD2遺伝子が寿命の根本的に重要な調節因子であることを示唆しています。
 
CISD2が多くの臓器・組織において、細胞内 Ca2+ 恒常性とミトコンドリアの完全性の維持に不可欠であることが明らかになっています。 CISD2タンパク質は、小胞体膜とミトコンドリアの外膜に存在します。これらの位置は、酸化還元刺激に応答した電子伝達を介した小胞体とミトコンドリアのクロストークの手段を提供している可能性があります。小胞体とミトコンドリアの間の直接相互作用は、Ca2+ 輸送と細胞機能にとって重要です。
CISD2を高発現させるとミトコンドリアでの活性酸素の量が減少し、ミトコンドリアの機能が維持・亢進して寿命が延びると考えられています。(下図)


図:自然の老化過程(①)では、CDGSH 鉄硫黄ドメイン 2 (CISD2)タンパク質は加齢とともに発現が減少し(②)、ミトコンドリアでの活性酸素の産生が増え(③)、ミトコンドリア機能の障害を起こし(④)、これは悪循環を形成し(⑤)、ますます諸臓器機能が低下し老化が進行する(⑥)。一方、Cisd2遺伝子を発現させるCisd2トランスジェニックマウス(⑦)ではCisd2遺伝子の発現が亢進し(⑧)、活性酸素の産生が低下し(⑨)、ミトコンドリア機能は正常に維持され亢進する(⑩)。その結果、諸臓器機能が向上し(⑪)、老化が抑制され、寿命が延長する(⑫)。




【柑橘類の皮に含まれるヘスペレチンはCISD2を活性化する】

長寿遺伝子として確立しているCISD2の発現や活性を高める物質は老化を抑制し、寿命を延ばす効果が期待できます。そのような物質の探索が行われています。
みかんやグレープフルーツやライムなどの皮に多く含まれるヘスペレチンは、in vitro と in vivo の両方で遺伝子発現を増強する最も有望な CISD2 活性化因子として注目されています。


図:柑橘類(ライム、みかん、グレープフルーツ、レモンなど)の皮に多く含まれるフラバノン配糖体のヘスペリジンは腸内細菌で分解されてヘスペレチンとなって体内に吸収される。

 

 

ヘスペレチンによる治療はマウスの寿命を延ばし、長期的な健康状態を改善しました。全身の代謝低下が軽減され、脂肪が減少し、グルコース恒常性が改善され、筋肉の老化が遅くなったことが確認されています。
 
重要なことに、ヘスペレチンはCISD2ノックアウトマウスでは有益な老化防止効果を失い、トランスクリプトーム解析により、ヘスペレチン投与により発現される遺伝子のほとんどがCISD2依存性であることが確認されました。つまり、ヘスペレチンはCISD2依存性に抗老化と寿命延長の効果を発揮するということです。

以下のような報告があります。

Hesperetin promotes longevity and delays aging via activation of Cisd2 in naturally aged mice.(ヘスペレチンは自然老化マウスの Cisd2 活性化を介して長寿を促進し、老化を遅らせる)J Biomed Sci. 2022; 29: 53.

【論文要旨の抜粋】

ヒト Cisd2 遺伝子は、染色体 4q 上にマッピングされた長寿領域内に位置している。マウスでは、自然な老化の過程で Cisd2 レベルが減少する。Cisd2 レベルが高いとマウスの寿命と健康寿命が延びることが示されている。ここでは、老化を遅らせる効果的な方法として Cisd2 活性化剤を使用する可能性を検討する。

 ヘスペレチンは、ハーブ化合物ライブラリーのスクリーニングにより、有望な Cisd2 活性化因子として同定された。ヘスペレチンには、in vitro および in vivo モデルに基づく検出可能な毒性は認めなかった。

ヘスペレチンを老齢マウスに経口投与すると、Cisd2 の発現が亢進し、老齢マウスの健康寿命が延長された。ヘスペレチンは主に Cisd2 依存的に機能し、加齢に伴う代謝低下、体組成の変化、血糖調節異常、臓器の老化を改善する。老年期のヘスペレチン治療後には、若々しいトランスクリプトーム パターンが回復する。

 

以下のような報告もあります。

Hesperetin activates CISD2 to attenuate senescence in human keratinocytes from an older person and rejuvenates naturally aged skin in mice.(ヘスペレチンはCISD2を活性化して高齢者のヒト角化細胞の老化を軽減し、マウスの自然に老化した皮膚を若返らせる)J Biomed Sci. 2024; 31: 15.

 この報告では、高齢者の皮膚から採取したヒト角化細胞の培養細胞を使った実験系で、ヘスペレチンがCISD2 発現の増加を介して活性酸素種によって誘発される酸化ストレスから保護し、ミトコンドリア機能を強化することを明らかにしています。紫外線照射で誘発される細胞老化をヘスペレチンは抑制しました。

生後21ヶ月の老齢マウスの皮膚に紫外線を照射して皮膚の光老化を促進する実験系では、ヘスペレチンは皮膚の光老化を抑制しました。

最も驚くべきことに、ヘスペレチンによる治療を生後21か月から開始し、5か月継続したところ、マウスの皮膚の老化を遅らせるだけでなく、自然に老化した皮膚を若返らせることができました。

以上の結果から、ヘスペレチン治療を使用した晩年段階でのCISD2発現の薬理学的上昇が、内因性および外因性の両方の皮膚老化を効果的に軽減する実現可能なアプローチであること、およびヘスペレチンが機能性食品または皮膚の老化と戦うためのスキンケア製品として機能する可能性があることを示唆しています。

 

柑橘類の皮を煎じたり、野菜スープにしたり、ジュースにして日頃から摂取すると、若返りに効果が期待できるかもしれません。ヘスペリジンのサプリメントも市販されています。


図:自然の老化過程(①)では、CDGSH 鉄硫黄ドメイン 2 (CISD2)タンパク質は加齢とともに発現が減少し(②)、ミトコンドリア機能が低下し(③)、老化が進行する(④)。
柑橘類の皮(⑤)に多く含まれるヘスペレチンは、Cisd2遺伝子の発現を亢進し(⑥)、活性酸素の産生が低下し(⑦)、ミトコンドリア機能は正常に維持され亢進する(⑧)。その結果、諸臓器機能が向上し(⑨)、老化が抑制され、寿命が延長する(⑩)。

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