ラッキーストライク御中
飲みに誘われたら決して断らないという決意を持って生きていたことがある。
若き日の過ちといえばそれまでだけれどそんな生活をしていると財布がやたらと寂しい。中身がどうとかそんなレベルではない。財布自体が哀愁を持ち始めてしまう。スカスカのスッカスカ。スッカスカ杯圧勝。
あの日も多分そんな気分で、いつもよく行っていた雀荘のメンバーとサシ飲みに行く約束を交わしていた。夕方六時に彼の仕事が終わるまで卓を囲む。財布に運良く飲み代が貯まった俺は上機嫌だった。国領駅から調布駅に向かって二十歳半ばの男が二人で歩く。歩きはじめると彼の携帯から歌メロの着信音が鳴った。薄紫のスリーピースのスーツに雀荘店主の韓国人から貰ったというコンビのロレックス。痩せてギョロッとした顔はお世辞にだって堅気には見えない。彼は麻雀人だった。対してこちらといえば黒地に白の文字が入ったツナギにごついパーカーを着込んでいる。柄の悪さでは人のことなど言えなかった。
「すんません。今電話があって暇だって言っている奴が一人いるんですけど一緒に行ってもいいですか?面白い奴なんですよ」