見出し画像

不倫判例百選59【番外編】不倫・離婚弁護士になって考えたことと・世のため人のための法律学

0 はじめに

不倫・離婚問題を毎日扱っています。365日、相談が絶えることがありません。

これは、果たして幸せなことなのか?私には、わかりません。ただ、被害者・加害者側、双方の相談を聞いていて、考えが変わってきたように思います。

Ⅰ 不倫をしてしまった、奥様に謝りたいけど、大きい慰謝料は払いたくない。でも、本当は慰謝料は払うから、彼と一緒になりたい。
Ⅱ 不倫をされた。相手は主人が経営する会社の社員だった。自分と主人より、5歳若かった。どうせ慰謝料は主人が払う。子どもも小さい。離婚ができないから、世の中そんなに甘くないことをわからせてやりたい。

これらの相談は、実は、最初の声とはかけ離れたところにあります。

どういうことかというと、弁護士が事実の経緯や認識、相談者の希望などをヒアリングするにあったってやっと、上記のような相談に要約されていくのです。

Ⅰ´ 毎日脅迫におびえている。急に電話がかかってきて、奥さんと奥さんの妹から毎日毎日しつこく電話が来ている。電話には怖くて出れていない。お金がない。
Ⅱ´ 不倫は、違法行為ではないのか。警察にも相談をしたが、警察はとりあってくれなかった。弁護士に相談しろと言われた。

当初の相談は、大要上記のように要約されます。それを、時間をかけてヒアリングして、整理をすると、冒頭のようになるのです。

1 弁護士になりたての頃

Ⅰ・Ⅱとも、弁護士になってすぐ、耳にした相談でした。その頃の私はというと、どちらも、何とかしてあげたい、と考えていました。

Ⅰ´´ 脅迫は犯罪行為です。電話には出なくても、こちらで代理をしますから大丈夫。
Ⅱ´´ 警察は、刑事事件にならないと取り合わないはずです。慰謝料請求をしましょう。

恥ずかしながら、弁護士になりたての頃の私の上記アドヴァイスは、あくまでも正論にすぎない綺麗ごとを並べ、依頼者を安心させるはおろか、不安にさせていたのではないかと思う。そして、相談を過度にこじらせているのではないか?と不安にも思う。

なにより、依頼者がどうしたいのか、に耳を傾けていないのが一番の問題だったと思っています。

今でこそ、あなたはどうしたいのか、これを基軸に弁護方針を組み立てていますが、これも意識してそうなったのではなく、経験を重ねたうえでのことなのです。

2 世のため人のための法律学?

今わたしが弁護士として思うのは、Ⅰ´´のアドヴァイスにおいて、脅迫罪の知識を振りかざすことによって、何が得られるのだろうか。それは、弁護士個人の自己満足であって、事例の解決には程遠いところにあると思う。Ⅱ´´のアドヴァイスにおいて、警察の性質を述べることは、慰謝料請求をすることで解決することを提案しているだけであって、依頼者の意向には沿わないと思う。

両者のアドヴァイスは、ひいては、世のため人のための法律学に反していると思う。いまはこんなアドヴァイスは、しないと思うが、一人一人の声に傾けることが多くなったので、逆に、こうアドヴァイスします、とも、ここに簡単に書くことが難しくなってきています。

3 不倫・離婚にとりくんでいく

偉そうなことはいうつもりはありません。問題は、深く傷ついている相談者の心理を、「不法行為」「慰謝料」という法の問題として扱うことが正しいのか?私には明確な答えを持ち合わせてはいません。

しかし、そこに、私の存在価値がひとつでもあればと願っています。考えかたは様々だと思っています。

現に、不貞慰謝料請求の局面で見ると、加害者に対する慰謝料請求は制限されるべきであると【学理上は】考えられていることを紹介してきました。

それは真理なのかもしれません。でも、それでは納得できない人のために、私は知恵を絞ります。知恵を絞る過程で、Ⅰ´・Ⅱ´のようになってはならないと思っています。

不倫や離婚は、ひとの琴線に触れる最たるものです。ありふれた類型であって、最先端分野のようなスマートさはありませんが、しかし、それが私の在り方にかなっているようにも思っている。

私の彼を取られました。絶対に許せません。

これを解決する方法は無数であると信じています。

不倫判例百選60前夜に 弁護士 齋 藤  健 博


いいなと思ったら応援しよう!