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「サラディンを倒したイスラムの名剣マルグレ」を読んで



サラディンは十字軍からエルサレムを奪還したことで有名な中世のイスラムの英雄です。
その行状素晴らしく、敵であるキリスト教徒側からすら評価が高いサラディン。

サラディンについては、この間から中村小夜さんの小説や青春アドベンチャーでお見かけしておりました。

で。このたび『続 剣と愛と』という論文集をたまたま読んでいたのですよ(アーサー王の論文が収録されているので)。
するとたまたまサラディン関係の論文が収録されているではないですか!
気になり、ワクワクと読みました。

いやはや以前はよく知らず興味が湧かなかった人物でも、興味が湧くと大変楽しく読めるものです。

さて。
この論文はサラディンを殺した剣を扱うのだそう。

え???!!
サラディン……戦死だったっけ????

読み込むと、中世フランスの武勲詩の話とのこと(本物のサラディンは病死。だ、だよね!)。

って。
……フランス〜〜〜!!
何やっとんねん中世フランス〜〜〜!!
死因変えるな〜〜??!

しかも殺したのはキリスト教の戦士!!
うぉぉお、なんだそのファンタジー!?

そして、サラディンも死ぬ前にキリスト教に改宗した。
いや、せえへんやろ?!

うぉぉい、すごいことするな中世フランス。
正気か中世フランス。

そして、武勲詩の内容が紹介されます。
すると。

途中でいきなり登場するアーサー王。
王はどこにでもいらっしゃいますね。

さて、この武勲詩でめっちゃ讃えられてるのがユオンさんという騎士。
ユオンさんは最も勇気あるものしか吹けない角笛を吹きます。
さらにはユオンさん、アーサー王に案内された魔法の薔薇園で「この世で最も勇敢なものだけが園に通され200年守られている真っ赤な薔薇を摘むことができる」という挑戦に、成功します。

……なんてわかりやすいエコ贔屓!
ユオンはすげえ奴なんだぜ✨アピール。

そのユオンさん→息子のジェラールさんに、剣は継承されます(そこはかとなく思い出されるロマンシング・サ・ガ2)(わかる人だけわかってくれ)

剣?なんの剣?無論サラディンを殺す予定の剣です。

さて、なんやかやいろいろあって、サラディンの身体にぶん投げられた剣が刺さって、サラディンは死にかけ寸前。

サラディンは死ぬ前にユダヤ教・キリスト教・イスラム教の賢者を呼び、最も優れた教えを悟り、ひそやかにキリスト教に改宗し(あくまで武勲詩の話ですよ!)、息絶えたのでした。

こんなポワッポワな話でっちあげちゃうんだすっごいな……というのが素直な感想ではありますが。

なんかもうとにかくキリスト教徒なヨーロピアンにとって、サラディンは

「イスラム教徒だけど、めっっっっっっっっちゃすごい奴だから、キリスト教徒がいい」

だったんだなあ、と。

しみじみ感じた論文でした。
イカサマをガンガンやる武勲詩面白いなあと思うとともに、これを本当だと信じたらマズいな……としみじみ。

Twitterでよく史実と文学とをうまく分けて考えられない人を見かけますが、サラディンのこの話を史実だと信じたらどう考えてもあかんよなぁと思う次第です。

それにしてもキリスト教徒にそこまで熱烈に愛された男サラディン、さすがにちょっと気になるぞサラディン。

と思った論文でした。
面白かった!!

↓論文はこちら。



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