18話*新しい仲間、ワチャ
アニマルコミュニケーションをして、ボンさんはやっぱり外が好きだという事が分かり、でも一緒に暮らす希望も少なからずあったことから、まずは引っ越ししてから家に連れて行き、様子をみてみようと思った。
それまでは、河川敷の夜の友達。
ボンさんが外に戻って3日後くらいだろうか、夜にボンさんに会いに行くとボンさんは留守だった。
代わりに近くの電信柱に違う猫が座っていた。
『ん?? 見たことない猫がいる…』
近付くと、毛長のぼわぼわの猫だった。
ここらじゃ全く見かけたことがない猫だった。
その猫は私を見ると『あ!』って顔をして、なんと自分から近付いてきて、「に"ゃあ"〜」と私に鳴いた。
その声はすごく大きくてダミ声。
なんとも特徴のある声だった。
座っていた姿とすぐ近付いて来た様子から、まるで私を待っていたように見えた。
この猫もここでご飯が貰えると噂を聞いてやって来た猫なのかな?
突っ立ったまま猫の様子を見ていたらボンさんが走ってきた。
(あ、やば、ボンさん怒るかも…)
と思いきや、ボンさんとその猫はすぐ鼻で挨拶した。
ボンさんが他の猫と挨拶しているのを初めて見たのでびっくりした。
『え~ボンさんの友達なん?』
と、聞くと、
『にゃあ~(うん、ご飯食べさせてやって)』
そっかそっかと、ご飯をあげると一緒に食べ始めた。
毛長猫は、人慣れしているし、何よりその風貌は野良猫ではなかなかいない種類。
どうみても血統のなんかの種類。
次の日もその猫はいた。
「どっかで飼われてる猫なんかなあ?迷い猫なんかな」と、Tと二人で話した。
迷ってる時にボンさんに出逢って、「ここに来たらご飯もらえるよ〜」って教えてもらって待っていたのかもしれない。
そんな事をあれこれ二人で話していたら、しゃがんでいたTの膝に毛長猫が意を決したように乗ろうとしてきた。
びっくりしたTは、うわわ、っとバランス崩した。
毛長猫は必死に甘えようと何度も膝にトライ。
『ちょ、ちょっと待った待った』
雨で地面が濡れていて座って膝にゆっくり乗せてあげることはできないので、ちょっと撫でてからTは膝から下ろした。
立ち上がったTが「うわ!ズボンにウンチついてる」と言った。
毛長猫を見ると、おしりにウンチがついていた。
毛が長いからウンチがつきやすそうな上に、どうやら下痢をしているようだった。
体を撫でると、ぼわぼわの毛に誤魔化されているがかなり痩せている。
ストレスで下痢をしたのかもしれない…、ここに来るまでずっとご飯もろくに食べれてなかったのかもしれない…。
切なくなりつつ、おしりをウェットティッシュで拭いてあげた。
毛長猫は、寂しそうだった。
迷って家に帰れないのか、もしかしたら捨て猫なのか…
私達には分からなかった。
私達は、この毛長猫に「ワチャ」と名付けた。なんだか鳴き声がでかくて甘えん坊で箱入り娘感とか、わちゃわちゃしてたから。
それからワチャはボンさんの縄張りに居着いて、ボンさんと一緒に私達を待つようになった。
ボンさんに友達ができて何だか嬉しいし、ワチャにも居場所ができたのも良い事だ。
ワチャもなんというか、ボンさん達と一緒で人間臭い猫だった。
言葉が通じてる感覚が強い、不思議な感じ。
「わたしを可愛がって」って気持ちが凄く伝わって来る。
ボンさんがホウホウ以外で受け入れたのを初めて見たから、きっと良いやつなんだろうと思った。
ある日ワチャはとっても臭かった。毛が長いから外での生活は大変だな…
あまりに臭いからウェットティッシュで体を拭き始めると、ワチャは大人しくなり、飼い主さんにもしてもらっていたのかなんだか慣れている様子だった。
久しぶりに人間に手入れされてる喜びみたいなのを感じているように見えた。
大人しく拭かれながら、甘えているのが分かった。
ワチャの背中から「ありがとう」も感じたし、なんだか泣いているようにも見えた。
ある日、ボンさんを膝に乗せようと階段に座っていたらワチャが隣に来た。
そこへボンさんがいつものようにご飯食べた後、膝に乗ろうとやって来た。
ボンさんが私の膝に手をかけた瞬間、ボンさんより先にワチャがドカドカ!と勢いよく私の膝に乗って来てびっくりした。
ボンさん、膝に手をかけたままボー然。
「お、おれの膝が…」って固まっていた。
ワチャは「あたしは動かない!」って感じで寝たふり。
ボンさんが気の毒になってワチャに「ここは親分の特等席なんだよ」と言って降ろした。
ワチャは「やだ!なんでよ!私だって良いじゃない!」ってひとしきり抵抗したけど、降ろされてめっちゃふて腐れた。
私に背中を向けて、むすぅ〜っと座った。
ボンさんは、「いいの?なんだか悪いね、んじゃ…」って感じで膝に乗ってきた。
ふて腐れたワチャに「ごめんって、ごめんね」とツンツン触りながら謝ると、
時々ワチャがボンさんに「早く代わってよ」って促すも、ボンさん爆睡。
すると、ワチャは業を煮やしてボンさんを踏みつけて上に乗って来た。
さすがにボンさん「にゃあ!」って目を三角にしてワチャを叱ったけど、聞かないワチャは「ふん!私だってここで寝るもん!」って臆せずどっさり居座った。
私もボンさんも「しょうがないやつだな…」と、
無理だと思ったけど、わずかな膝のスペースでワチャは器用に寝始めた。
それから私の膝のシビレる速度は2倍に…
それから毎日よく分からない幸せな苦行、
『猫禅』が始まったのだった。