25話*ボンさんの家族
セッションから数日経って、Junさんからのアドバイス『お友達の家を行き来するみたいに、時々お家に遊びに来てもらっては?』
というのをやってみようと『ボンさん、家に一緒に住まなくて良いから遊びにおいでよ』と、また家に向かって河川敷をボンさんと一緒にテクテク歩いた。
ボンさんはずっと付いてきてくれたのだけど、住宅街に降りる階段の途中で、ボンさんは座り込み動かなくなった。
そして、『にゃああああ』と私の目を見て鳴いた。
鳴きながら、どんなに促してもボンさんは動こうとしなかった。
『行かない』という強い意思を感じたのでショックを受けつつも、ボンさんとまた引き返すことにした。
それから私はボンさんが元気なうちはここに通って、ボンさんの老後に家に連れて行こう!と考えた。
悩むのをもうやめた。
夜の猫の時間をまた、ボンさんとゆっくり過ごそう。
ただただ、そばに。
お互いがそばにいて、ただただ存在しているだけで優しい風が吹くのだ。
私はそれを大事にしよう。
ボンさんにも大事なものがあった。
ボンさんエリアには色んな猫がやって来たけれど、この頃2匹の子猫が迷い込んで来ていた。
人馴れしていない子猫なので、近付くと逃げる。
ボンさんは、ちょっと嬉しそうで子猫たちを受け入れて、時々ご飯に招き入れていた。
子猫も少しずつボンさんへの礼儀を学び、ボンさんを慕うようになっていた。
そして、ボンさんのご飯の時は必ず子猫も現れ、一緒に食事をするようになっていたのだ。
ボンさんが言っていた『守りたい存在』は、きっとこの子猫たちだと思う。
ボンさんは、子猫たちに野良としての生き方を教えていたようだった。
ボンさんに新しい家族ができた。
ボンさんには、実はたくさんのパトロンもいた。
私達以外にも定期的にご飯をくれたり世話を焼いてる人達がいた。
知り合いも沢山いて、時々遊んでいると知り合いを見つけたボンさんが『お!◯◯さん!』みたいな顔をして挨拶しに行くときもあった。
ボンさんは、魔法を使うのがとても上手な猫のようだった。
自分で引き寄せられる力を持っていたように感じる。
だから、ご飯に困った事はあまりなさそうだった。
ある雪が沢山降った夜。
夜中に心配になり、ボンさんに会いに行った。
ボンさんにご飯をあげて撫でていると、自転車に乗った老人が近付いてきた。
『今日は寒い。ご飯を貰えたのか。えかったえかった今日は寒い。
ホッホッホああ~えかったえかった今日は寒い寒い~♪』
私達を見ながら歌うようにそう言って、自転車で通りすぎていった。
その老人は鼻に管をさしていて、自転車のかごに酸素ボンベみたいなのをつんでいた。
まるでサンタみたいな不思議な人だった。
ボンさんは、『あ!じいさん、来たの?』って顔して挨拶しかけてたけど、老人は気を使ったのか安心したのか止まらず通りすぎたのだった。
酸素ボンベがなくちゃいけない体で、こんな寒い真夜中に、ボンさんを想って来てくれる人がいる事に、嬉しい気持ちと、
ボンさんに関わる人々のこころの模様が、なんだか切なく浮かんで雪に混ざっていったのでした。