家族が失踪して100日後
※この記事は過去の投稿をまとめて再編集してます。
あの日は12月の厳しい寒さだった。
依頼者の元へ車を走らせる
都内の道路は相変わらず入るのに神経を使う、慣れてないからかな。
寒空に逃げてしまった猫ちゃんを考えて心配になりながら、依頼者と待ち合わせた場所へ着く
東京某所のコインパーキングで飼い主さんとお話をする。
今回の猫ちゃんは黒猫のジジくんだ
どうやら家から病院へ連れて行った帰りに逃げてしまったらしい。家からは何キロも離れている。
失踪場所から自宅までは大通りが何箇所もある
これは流石に帰ってこれないだろう
「おそらく家に帰ることはないですね、どこかに居着くのでそこを見つけて保護しましょう。何日前のことですか?」
「それが…すぐ他の探偵さんに頼んだんですが保護できず、それからこちらに依頼したんです。逃げてからはもう1ヶ月以上経っています…」
なるほど、
これは情報戦になる。
この子が生きていればそろそろどこかでご飯を食べているはずだ。
幸いこの辺りは猫が多い。
餌をあげている人間が何人かいるはず。
お腹をすかして生きるために先輩猫となんとか共存している可能性が高い。
1ヶ月以上はもう推理するよりも徹底的にビラとポスターで情報を広げて
多くの人の目を借りて捜索する。
「飼い主さん。1ヶ月以上経っている以上正直どこにいるかはわからない。でも猫は強く生きてる筈だから情報を待って捜索していきます。かなり待つ調査になる可能性があるので覚悟して下さい。」
「わかりました。いつか無事に会えれば…」
「猫は生きています。諦めません。見つからない猫は人間が先に諦めているだけだと僕は考えています。」
「わかりました。よろしくお願いします」
こうして長い調査が始まった。
先ずは半径500㍍ほどにビラを徹底的に巻いてみた。これからは情報が入り次第動いて行くことにする。
むやみに動いても意味がない
途中の聞き込みでこの辺には似た猫が何匹かいるのがわかった、正確な情報が来てくれるといいが…
情報を拡散してから1週間が経った
現在情報は10件ほどいただけたが
どれも似た猫ちゃんで進展はない。
今回の猫は黒猫ちゃんなので飼い主さん以外での判断は付きにくい。
本命の猫ちゃんは見つからない
一旦、情報が入ってくるペースが落ち着いてきたので新しくエリアを拡大してビラを撒いてみる。
ビラを撒きながら歩くとなぜか猫ちゃんをよく見かける、餌やりさんが何人かいるのだろう。
ではなぜ1ヶ月以上経っているのに餌場に顔を出さないのだろうか
本来逃げた猫ちゃんは他の先輩猫を避けて餌場にはまず来ない。
だがいよいよ餓死するとなれば話は別だ。
生きる事を諦めることはせず、先輩猫がいようと勇気を出して顔をだす。
共存できる子もいれば(女の子に多い)
時間をずらして食べに来る子もいる。
必ず生きているはずだ。
追加のビラを200枚以上撒いてまた情報を待つことにした。
…
2回目の捜索から2週間が経った
肝心の情報はピタリと止まり、捜査は完全に行き詰まる。
飼い主さんに現状を伝えてみる。
「探偵さんの言葉で諦めないと決めたので、何ヶ月待ってでもいいです。諦めたくないです。」
強い人だ。
「わかりました。もう一度可能性の低い距離まで情報を広げます。聞き込みも。そして一旦そこで調査は停めましょう、有力な情報が入り次第行動に移すようにします。必ず生きてます。諦めずに行きましょう」
さらに広い範囲を歩いて情報を撒く、
生きているはずだ。信じて待つ。
3回目の捜索からのはや2ヶ月が経った
目撃情報は入るものの
確認をすると違う猫ちゃん。飼い主さんの表情が曇る。
そんな事を繰り返すうちに疑問は深まる。
なぜ情報をこんなにくれる方が多いのに、本命の猫ちゃんは来ないのだろう。
お腹をすかしてウロウロすれば誰かの目には触れそうなものだ、都内なら特に夜でも人が歩いているし人口も多い。
誰かに飼われた?
いや、そう簡単に逃げた家猫が捕まえられないし。
罠をわざわざ用意してポスターでみた猫を使えてどうしようという人もいない気がするが
うーん
本来なら生きてれば何かしら手がかりがあってもいいような気がする
もう逃げて4か月が経とうとしていた。
僕も飼い主さんもこの状況で生きてはいると自然と疑わなかった。
今思えば少しは疑いそうなものだが、不思議とその時は直感で確信していた。
理由はない、ホントになんとなくだ。
そこからまた1ヶ月の時間がたつ、
他の依頼もあり、たまたま近場で捜索をしていた時の事。
ジジくんの目撃が入った。
どうやら写真はないが黒猫で、見かけない猫だったとの事
その付近は今まで他の黒猫ちゃんの情報は一切来ていない。
……この子は可能性高いな
すぐその付近に聞き込みと捜索。
改めて情報を撒く
飼い主さんも何か感じるものがあるのか、その子は絶対に確認したいとの事
調査が動き出した
もう少し、待っててジジくん
前回の情報が来たエリアを捜索範囲と決めて捜索を再開した、これまでの経緯から推測してみる。
情報の猫がジジくんだとして、確実にどこかでご飯を食べている。
お話を聞くと特別痩せてたり弱ったような素振りはなかったとの事
なるほど。
十中八九誰かに餌付けされているはずだ。連絡をくれないのはもしかしたらご高齢の方で、難しいのかもしれない。
となれば無闇に歩き回るよりも聞き込みだ。
だいたいの餌やりさんは地域で有名だったりする。
本人はバレてないつもりでも大抵は周りにバレているものだ
特に猫嫌いな人間に餌場を聞くと鬱憤からか、よく喋って教えてくれる
聞いてないことまでね
何人かの餌やりさんの場所がわかった、後日明るい時間に伺ってみよう。
そう考えて帰宅した直後、飼い主さんから連絡が入る。
「もしもし、お世話になってます。ジジの飼い主です。進展はどうですか?」
「何人か餌やりさんがわかったのでその方にお話を聞いてみます。誰かはご飯をあげているはずですよ、あの様子なら」
「ですよね、少し安心しました。引き続きお願いします。」
飼い主さんからの電話切れる
それとほぼ同時に知らない番号から着信が入る。
「もしもし?」
「もしもし。ビラをみました。探偵さんですか?私、地域の猫ちゃんにご飯を食べさせて去勢等も面倒見てるんですが、お探しのジジくん実は何ヶ月か前からご飯食べてます。」
驚いた!
「ほんとですか?よかった!ようやく情報が届いて良かったです!」
「いや、探しているのは半年ぐらい前から知ってましたよ。ただ以前も似たようなことがあって、探している探偵さんが感じ悪くてホントに嫌な思いをしたんです。なので私の方で保護して飼い主さんに直接連絡しようと思ってて、ただなかなか抱っこできなくて仕方なく連絡しました。飼い主さんの連絡先を教えてもらえますか?」
なるほど、そうして情報が止まっていたのか。
納得。
飼い主さんに状況を伝えて餌やりさんとお話をしてもらう
一緒に餌やりをする事になり
ジジくんで間違いないそう。
ただ問題なのが、飼い主さんも今までお家ですら抱っこさせてくれなかったらしく
飼い主さんも自信がないとの事。
餌やりさんは探偵には来てほしくないとの事。
どうするか
とりあえず飼い主さんに一度抱っこを試みてもらって、だめならば餌やりさんを説得して僕が罠を使うしかない。
今まで抱っこしたことないのは
難しいかな
どうなるか…
とりあえず刺激してどこかへ去ってしまうのだけ気をつけて、無理だけはしないように伝えておく
少し心配だ。
もう半年もお外で生きてきた猫ちゃん
ここまで長い期間の捜索は初めてで、どうなるのか想像がつかない
「ピリリリリ」
飼い主さんからの着信だ。
「もしもし、どうでしたか?」
「抱っこできました!家でも逃げたくせに!
名前呼んだらすり寄ってきてくれました!長い間
ホントにお世話になりました!ありがとう御座います!」
「すごい!よっぽどお外が寂しくて逢いたかったんでしょうね!よかったです!
長い間お疲れ様でした!ジジくんとお幸せに😀」
「ありがとう御座います!またなにかあればご相談しますね!ないのが一番ですが笑」
「ですね笑」
もう逃げたから年も越していた
猫は諦めなければまた会えるんだと
あらためて感じられた依頼でした
ジジくんとお幸せに
終