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余命半年の猫ちゃんが逃げた

こんにちは!ペット探偵のミケネコです!

今回はnoteをはじめたてに書いた記事を

再編集して読みやすくまとめて書くことにしました。

個人的に1番思い入れのある猫ちゃんと飼い主さんの話なので、もう一度しっかり書きたくなりました。

あの子は余命が半年と診断された黒猫ちゃんでした。

名前はクロちゃん。


「私には愛した責任がある、残りの命は関係ない」


 

 空気が冷たく澄んでくる11月の終わり、僕は千葉県へ車を走らせていた。不安もあってかいつもより身体が冷えていたのを憶えている。


 まず、ペット探偵について少し説明したい。
ペット探偵とはその名の通り、ペット専門の探偵である。

 当然、依頼者は現在ペットが手元に居なくなった方が全員なわけで、泣いている方やテンパっている人も珍しくない。

 そんな方に寄り添い、依頼者にとって大事な家族を探し出して保護するのが仕事でありやりがいである。

 ちなみに僕は猫専門である。小鳥やハムスターなど自分が保護するのは困難だと思うような動物は依頼を受けたことはない。

 猫に関しては縄張りの生き物であり警戒心が強い為に、逃げた場所から遠くに行かず隠れていることが多い。

 しっかり情報を拡散して付近の家のお庭を見せてもらい、経験と勘を頼りに夜中歩いて捜索すると発見できることが多い。

 発見まで日数が経ってもその分目撃情報が入ることもある。
 
 もちろん動物相手なので絶対はないが、8~9割ほどは無事に保護できるイメージだ。慣れてくると前職(人間相手の探偵)よりも不安はなくなってくる。家族を探す以上プレッシャーはあるが、それよりも保護して感謝されたいと前向きな考えになってくる。

 ところが今回の依頼は一味違った。
前日の夕方に担当の方から電話が来る。

「もしもし、依頼が入ったんですけど明日大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ。明日行きます。」

「千葉の案件で、元野良猫ちゃんで何年もお外でご飯をあげてたみたいです。様子がおかしかったので保護して病院に連れて行ったら腎臓?の病気だったみたいで、余命半年って医者に言われたみたい。」

「余命半年?」

「うん。それで冬が来るし、最後くらい暖かい場所でと思って家に連れ帰ったんだけど一週間で逃げちゃったみたい。明日よろしくお願いします。」

「わかりました。よろしくお願いします。」

 余命半年?生きてるのかな、、
電話を切る。悪いイメージが頭に浮かぶ、、

 これは急がないと悲しい結末になるかもしれない、一抹の不安を抱えながら現場へ急ぐ、前述のとおり依頼者は家族が居なくなっている状態なので、平常なわけはない。捜索が長引いたり、万が一見つからなかった時にこちらのせいだと言わんばかりの飼い主さんもいる。(しっかり落ち着いて対応してくださる方もいます。)

 少し想像してみる。
余命半年、、やっぱりそれがモヤモヤする。

 「なんとか無事でいてくれ」

 そう思ううちに飼い主さんのお宅へ到着し、早速お話を伺う。先ずは挨拶を済ませ契約を済ましてお話を聞いてみる。

優しそうな人だった。

「こんにちは、よろしくお願いします。
先ずはいろいろ状況を教えてもらえますか?逃げた原因や方向等が分かれば有り難いです。」

 「こんにちは、はいよろしくお願いします。
理由はよくわからないです…
せっかくお家でゆっくりしてほしかったのに…
そこの窓の隙間から出ていったみたいで…
その瞬間は見てないので方向もわからないです、もう一匹の猫ちゃんは逃げなかったんですけど…」

 「わかりました。おそらくずっとお外で生きてきて自分が1番だったのに、このお家では先輩猫がいてストレスだったんでしょう。この子は好奇心とかではなくストレスでわざわざ出ていってるので、この子は帰ってくる可能性よりどこかお外に居着くと思います。お外に慣れているので。」

 勢いで逃げた猫、好奇心でふらっとでた猫、目的があってお外にでた猫、それと外で暮らしたことがあるのか。

 この辺の情報はかなり使える。この子はお外の暮らしが良くて逃げてる以上どこかで縄張りを作る。そしてリスクを犯して新しい縄張りよりも、元の自分の縄張りに戻っているだろうな。

 直感的に確信した。

 早速そのことを伝え飼い主さんと一緒にいつも餌をあげていた付近へと向かう。道中もよくお話をしてくれる飼い主さんだった。

たわいのない話をしながらやはりクロちゃんが心配でしかたない様子だった

 「病気もあるし、既に数日逃げて経過しているしご飯もあげれていない。もう死んでたらどうしたらいいか、、、」

 依頼者はもうわが子が死んでいるのではないかと考える方も多いが、はっきり言ってまずあり得ない。

 猫は警戒心が強いため、危険を冒さない。無理に道路を渡ろうとしたりむやみに喧嘩したりせず、人に捕まらずに隠れている。危険があると思えば空腹よりも優先して隠れている。

 ご飯も一か月ほど食べない子もざらにいる。
                               

 健康ではないが、何かない限りまず生きている。

 「動物は決して生きることを諦めません、生きることを諦めたり、自殺する動物なんて人間だけですよ。絶対に生きてます!大丈夫、見つけますよ!」

 「そう信じます。あの子がこのまま寒空の下一人で苦しんで死んでしまうなんてあんまりです。」

 「優しいんですね。」

 「というよりも、あの子を最後に一度幸せにすると決めたんです。一度愛すると決めたんです。私にはその責任があるんです」

 「素敵ですね、必ず保護しましょう!」

 この飼い主さんが好きになった。

 猫に対して愛情は持っていても責任は持っていない人は結構いる。

 この人はしっかりと可愛さだけではなく、見るべきものをみている。なんとかすぐに見つけてあげたい。

 10分ほど歩いてクロちゃんの元のナワバリへ着いた。

 探してみる。

 姿は見えない…

 まずは付近へ聞きこみながら情報を得るためビラやポスターを貼る。

 2時間程経って

 辺りは暗くなってきた

 ライトを使い探していく、遠くからでも目の反射で発見できる。


1時間…


2時間…


 いない、、、

 もしかしたら家の近くなのか

 体力が落ちているせいで元の縄張りまでこれずに途中に居ついたのか

 元の縄張りから失踪宅が離れているため捜索範囲はかなり広くなる…

 そして、体は病弱…

 少しずつ嫌な予感が強くなっていく

 それを表情に出すわけにはいかない

 飼い主さんを安心させるのも僕の仕事だ

 5時間歩き回ったところで仕切りなおすことにし、後日改めて家の付近からしらみつぶしに捜索していく事を飼い主さんと決める。


捜索2日目

 今回は失踪場所付近から半径150㍍圏内を夜中捜索していく。

 飼い主さんは初日あった時と比べて顔色が良い、励ましたかいもあってか少し落ち着いて、僕のことも信頼してくれているようだ。

 数日の間に情報は入ったが、近くに縄張りをもつ他の黒猫ちゃんだった。

しかし、たとえ違う猫の情報も全くの無駄ではない。

 何度も同じエリアで情報がきたので、おそらくそこには目当ての猫ちゃんはいない。

 縄張りを外れている猫や、外に出たことない猫が1番避けるのが地域の先輩猫だからだ。

 付近で野良猫がたむろしているような餌場などにはまずいない。

 外は弱肉強食だからだ。

 人間に例えると引きこもりがヤンキーのたむろしてるコンビニに行きにくいようなもの。

 つまり情報の付近は捜索範囲から外して考える事ができる。

 そうして範囲をさらに絞っていく。

 今日も歩く、歩いて歩いて探す。

 必ずいるはずだ

 もし、もうどこかで力尽きていたとしたら死体でとっくに見つかっている。

 動かない遺体なんてすぐに見つかる。

 「見つからないということはどこかで必死に生きて隠れているはず!」

 飼い主さんと自分に言い聞かせてひたすら夜中の住宅街を歩く。はたから見たら不審者だろう。

 以前の浮気調査の住宅街で張り込んでた時に比べたらなんてことはない。

しかし、

見つからない。

 弱っているのもあり、どこか深くに潜って出てきてないのかもしれない。本来なら焦ることはないが今回は時間がない。

 2日目も見つからず

 飼い主さんは不安だろうにも関わらず、僕の身体を気遣ってくれた。

 帰り際にこれで元気出してと渡されたお菓子

 あの時のいただいたお菓子。

 とても優しい味がしました。

 ありがとう。

 また次回の日程を約束し、不安な気持ちを抑えて帰路につく。


 そして…


 捜査が動いたのは次の日の朝だった。


 今までとは違うエリアから目撃情報が入る。

 写真も送っていただけた。


 すぐに飼い主さんに確認してもらうと

 可能性はあるとの事

 直接見ればわかるとの事ですぐそこへ向う…


 だが

 その日はその後すぐに雨が降ってしまい

 現場に行ったが会うことはできなかった…

 明日伺う事にしてこの日は終わる。

 

次の日

昨日の雨があがり

空はまぶしい程の晴天


僕は軽やかに車を走らせていた。

心まで晴れ渡っていた

なんと清々しい気分だろうか

 千葉の飼い主さんの元へと向かう。


 というのも今朝

 昨日の場所へ行くとやはり姿はなかったそう。

 しかし、飼い主さんが名前を呼ぶと

 声に反応して出てきたらしく

 そのまま優しく抱き上げて今はお家で休んでるとのこと。

 クロちゃん!

 飼い主さんの事愛していたんだね!

 本当に良かった。

 ピンポーン 

 呼び鈴を鳴らす

 「こんにちは!入って下さい😀福田さんもぜひクロちゃん見ていって下さい!」

 初めて見る満面の笑顔で招かれる。


 この仕事のやりがいを感じる瞬間だ。

 人から感謝されるってさ、麻薬みたいな快楽物質出てるんじゃないかと思う。

 「最初は諦めそうだったけど、何回か名前を呼んだら草葉の陰からにゃ~って出てきて足元にすり寄ってきたの!やっぱり覚えてくれてたのね〜!」

 いや、草葉の陰は違うでしょう、、


 心の中でツッコミつつやっぱりこちらも嬉しい😄

 「良かったですね!体調の方はどうですか?」

 「今は落ち着いて甘えてきてるわよ笑
残りの命を温かい毛布と美味しいご飯で過ごさせてあげられてホッとしてます。ありがとうございました😊」

 「こちらこそありがとうございました😊」

 飼い主さん宅を後にする。とても清々しい。今日は美味しくお酒を飲んで寝ることにする。

 今頃クロちゃんも気持ちよく寝てるのか

 そう思うと

 お酒の量も自然と増えてしまい…

 気がつくともう

 翌日の昼過ぎだった。

 眠い目でスマホを見ると

 飼い主さんからメッセージが届いていた。

(以下、飼い主さんとのメッセージのやり取りを載せます。)

 飼い主さん
「悲しいお知らせでごめんなさい。でも、福田さんにはお伝えしたいかなと思って。
 実はクロちゃん、今朝に死んじゃいました。ショックで悲しいですが、最後にうちに戻って一晩過ごしてくれてよかったと思ってます。私が出社したときはわりと普通だったのに、夫が出社するのに様子を見たときはもうあちらに逝ってたようです。夫は、寝ていると思ったようですが夜に帰宅後は冷たくなっていましました😢」

 僕
「わざわざご報告ありがとうございます。悲しいですが、最後におうちに帰って安心して眠ったように思えますね。一生懸命探してくれる親切な飼い主に最後に招いてもらえてくろちゃん幸せだったと思います。くろちゃんのご冥福を祈ります。」

飼い主さん
「本当にありがとうございます。いずれにしても、福田さんのお陰で最期に会うことができて心から感謝しています。今後もお体に気をつけて、迷える猫と飼い主のために探偵してあげてくださいね☺️」

 ほんとうに温かい毛布と暖かい飼い主さんに再び包まれて、そのまま安心して眠りについたんだね。

 スマホを置く

 少し部屋の空気が冷たくなったような気がした。

 でも胸は少し熱くなっている。

 すぐに依頼が欲しくなった。

 医者でもない

 特別な才能がある訳じゃない僕が

 人を助けて感謝される。

 これはこのペット探偵だけだと思っている。

 これからも一匹でも多く

 一人で多く救えるようになりたい。

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ミケネコ
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