潮風のブルース #14

#14話  居心地の悪い日々

遮るものがなにもないバルコニーで、
赤く染まる伊豆半島の稜線を眺めている。 
きれいな夕焼けは
見えるときもあれば見えないときもある。

見えないときがあるから、

見えるときの感動がある。
人生も同じだろうか。
いいときもあれば、
そうでないときもある。
いまの私はどっちなのだろうか。

海賊に心を奪われながらも、
彼の店に行けない状況にある。
店がハネてからの
いつも立ち寄る私のオアシスだった。

彼のシェイクした
ホワイトレディが飲みたかった。
何もしゃべらなくていい、
同じ空気が吸いたい。
思えば思うほど、胸の奥が痛くなっていく。

思春期の頃に感じた、あの切ない感じが、
もうすぐ三十歳になろうとする私に訪れている。
ただ、いまはあの頃のようにまっすぐには
人を好きになることができない自分がいる。
こんな居心地の悪い毎日ならば、
もう恋などしない方がいい。

夕焼けの赤が完全に消え、
夜のとばりが降り始めていた。
私は化粧をして部屋を出た。

店に向かう夜の道を歩きながら、
ふとスーツの女と話してみたいと思った。
スーツの女は明らかに海賊に惹かれている。

本来はライバルであるはずだが、
私はなぜか同じ思いにとらわれている
スーツの女と共感したいと思った。 
しかし、私は彼女の名前すら知らない。

パブDeepblueにハルオの姿はなかった。
その日の仕事は何ということもなく終わった。
今夜もBARジェラスの前を通りすごした。
マンションに向かう交差点で、 近くに
アニキの居酒屋があることを思い出した。

赤提灯のぶら下がった店の暖簾をくぐると、
カウンターの内側で、
アニキが包丁を持った手を上げて笑った。
その真向かいに座った女性客がこちらを見た。
スーツの女だった。

(#15に続く/全#30)

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