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Photo by
tomekantyou1
詩)覚悟
手探ぐりで一本の綱を引く 眼をつぶったままで
綱は何処へ繋がっているのだろう
>眼の前で夫の手は宙を舞うんです
なにか不思議な神々しさがありました その寝たきりの か細い手
揺れ動く不確かさはひとつの階段かもしれない
逆さまの火たちに逆らいつつ
>かろうじて骨に皮膚がついている状態の夫の手は
電気工事士だった夫の手が手探りで手を上げ
人間には なにかの規律がある
自分の生死よりも重い荷を背負う日常
>何かを引っ張るような動作をし 電線のコイルを巻く動作をし
ドライバーを回し 電線を引っ張る動作をし
封印され続けてきたもの それは「高度」「経済」の裏側
誰にも気づかれないように
>腕のいい電工だった高木一夫 アスベストで悪性中皮腫に罹患した
「もうなにも治療することは出来ません」主治医は宣告した
電気工は天職だったのです わたし 最後まで足や腰をさすってやりました
残された時間をさすってさすってさすって モルヒネでしか癒せない痛みを
いまを形づくるもの 僕らの足元には
宙を舞う見えないドライバーが埋まってはいないか 知られずにずっと
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