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月をうむ 12

第十二話 地下図書館の古い本

 
 その頃ぽっかり広場では、フクロウが険しい顔つきで思案に暮れていました。
 地下図書館のモグラ館長が、月の子に関する記述と思われる古い文献を発見したからです。
 それは伝説じみた過去の記録で、昼の世界と夜の世界の関わりについて書かれたものでした。

 月の子は昼の世界の光を夜の世界にもたらし月光花を咲かせる。

 月光花は夜の世界の輝きを昼の世界に放ち月の子を呼び寄せる。

 昼と夜を結びつけるのは月の子の存在である。

 どちらか一方がなくなればどちらか一方も存在しなくなる。

 月と太陽。陰と陽。夢と現実は同じもの。

 どちらもあって、どちらもない。

まっくら森の地下図書館所蔵『夜の世界史』より抜粋

 この箇所を読み、フクロウは、月を取り戻すカギを握るのは月の子しかいないのではないかと考えるようになりました。

 そしてこびとたちにヒカリを迎えに行かせたのですが、その頃すでに闇の洞穴はもぬけのからで、そのことをたった今、戻ってきたこびとたちに知らされてフクロウは困り果てていたのです。

「ああ、何たることじゃ。月の子がいなければ、月の復活は望めぬかもしれんのに」

「それだけじゃないですよ」

 モグラ館長は言いました。

「月の子について書かれた昔話で先ほどの文献と似た内容のものがあるのですが、そこに書かれている言葉も非常に気になります」


 月は昼の世界の光を映す大きな鏡なんだとさ。

 その昼の光で育つのが、月光花という夜の花。

 ある日、昼の世界から夜の世界に来た子どもが月光花の種を持ち帰り、
 もといた世界でばらまいた。

 芽吹いた種は花を咲かせる代わりに夜をもたらした。

 昼の世界で生まれた夜は、もう一つの夜の世界。

 月は二つの夜の世界を照らす鏡なんだとさ。

 夜の世界がもたらされたから昼の世界に月が生まれた。

 月がもとからあったから昼の世界に夜がもたらされた。

 どちらが先かはわからない。
 
 いずれにしても鏡がなければ二つの世界は存在しない。
 
 月がなければ存在しない。

まっくら森の地下図書館所蔵『昔話大全集』より抜粋

「これは一体どういうことです? 月がこのまま戻らなければ、こちらの夜の世界までなくなってしまうということですか?」

 モグラ館長はフクロウの前に本をつきつけて言いました。

 闇の洞穴から戻ってきたこびとたちも何が何だかわかりません。

「昼の世界と夜の世界が何の関係があるっていうんだ?」

「大体、昼の世界なんて空想の世界じゃないか」

「そんなことより、この夜の世界が消え失せてしまったら、俺たちはどうなるっていうんだ?」

 そばに潜んでいた聞き耳ウサギは、長い耳のアンテナで物知りフクロウとモグラ館長の会話をしっかり聞き取ると、すぐさまこのことをほかの住人たちに知らせに行きました。

 まっくら森は大混乱です。

 そんな混乱の最中、ヒカリはモジャリの手を引いて、フクロウたちのいるぽっかり広場に戻ってきました。

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