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映画『怪物』:それぞれの視点に映し出される「真実」とは

是枝裕和監督が脚本を手がけ、実力派俳優と新鋭たちが共演した映画『怪物』(2023)は、「何が本当の怪物なのか」を問いかける社会派ドラマです。この作品は、子どもたちの世界と大人たちの世界を交差させ、それぞれの視点から物語を描くことで、観客に深い思索を促します。一見シンプルに見える物語が、視点を変えるたびに新たな意味を持ち始める――その巧妙さとテーマの重みに圧倒されました。


感想:多層的な視点が紡ぎ出す深い物語

映画『怪物』の最大の特徴は、物語が複数の視点で語られる構成です。一つの事件が、母親、教師、そして子どもたちの視点から語られることで、それぞれの「真実」が浮かび上がります。

1. 母親の視点:子どもを守るための闘い

最初に描かれるのは、主人公の少年・湊の母親の視点です。彼女は息子をいじめたとされる教師に怒りを募らせ、学校に抗議します。母親としての愛情と正義感に基づいた行動ですが、彼女が「怪物」と見なす相手は、本当に正しいのでしょうか?物語が進むにつれ、その行動の背景や動機に新たな意味が加わっていきます。

2. 教師の視点:社会の中で追い詰められる人々

次に描かれるのは、湊を指導していた教師の視点です。彼が抱える孤独や葛藤、そして生徒との向き合い方に注目すると、彼が「加害者」として描かれた母親の視点とは全く異なる物語が見えてきます。彼もまた社会のプレッシャーの中で「怪物」にされてしまった一人なのかもしれません。

3. 子どもたちの視点:純粋さと無垢の中の真実

最後に描かれるのは、事件の中心となる湊と彼のクラスメートの視点です。ここで初めて、観客は「本当の真実」に触れます。この視点にたどり着くことで、物語が急速に深みを増し、「怪物」とは誰を指していたのかが明確になります。


テーマ:誰が怪物なのか?

映画のタイトルである「怪物」は、単なる比喩ではなく、観客に多くの解釈を委ねる言葉です。登場人物たちがそれぞれの立場や価値観で他者を「怪物」と見なす一方で、自分自身もまた「怪物」と見なされている可能性を暗示しています。

いじめと偏見

作品では、いじめや差別、偏見が中心的なテーマとして描かれます。しかし、その描き方は一方的なものではなく、「いじめられる側」も「いじめる側」も抱える複雑な背景が浮き彫りにされます。

コミュニケーションの不在

映画を通して感じたのは、登場人物同士のコミュニケーションの断絶が、問題をさらに複雑にしていることです。もしも母親が教師と真摯に話し合い、教師が生徒たちに心を開き、子どもたちが大人に本音を伝えることができたら、事態は違ったものになっていたのではないでしょうか?


印象的なシーン:心に残る瞬間

  • 湊と友人の秘密の時間
    子どもたちだけの純粋な空間が描かれるシーンは、物語全体の緊張感を和らげつつ、彼らの心の中に秘められた真実を浮かび上がらせます。特に彼らが言葉にしない「絆」の描写が美しく、胸を締め付けられました。

  • 雨の中の対峙
    大人たちの感情が爆発する場面は、感情のぶつかり合いがリアルで、観ている側も思わず息を呑みました。このシーンでは、それぞれが抱える葛藤と傷が如実に表現されています。


まとめ:観終えた後に問いかけられる「自分自身」

映画『怪物』は、一見すると身近なテーマでありながら、その奥には人間の本質に迫る深い問いが隠されています。「本当の怪物とは何か?」というテーマは、観客それぞれに異なる答えを与えるでしょう。

この作品を通じて感じたのは、誰もが何かしらの弱さや葛藤を抱え、その中で他者と関わっているということ。そして、その中で「怪物」として誰かを見なすとき、もしかすると自分もまた他者から見れば「怪物」なのではないか――そんな視点が得られる映画でした。

心を揺さぶられる本作を、ぜひ一度体験してみてください。


あなたは映画『怪物』をどう感じましたか?お気に入りのシーンや解釈について、ぜひコメントで教えてください!


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