21世紀の監視社会を可視化したアート作品
先日訪れた広島市現代美術館にて『遠距離現在 Universal / Remote』という特別展*1を見た。ここに展示されていた作品が、まさに21世紀の芸術を象徴しており、「メディア革命と監視社会」を示唆するいくつかの作品に出会った。まずひとつめに取り上げたいのは、1955年に中国に生まれ、ニューヨークと北京を拠点に活動するアーティスト徐冰(シュ・ビン)の《とんぼの眼》(81分)*2という映像作品だ。ネット上に公開されている監視カメラ映像、約11,000時間分から、オリジナルの恋愛映画として編集された長編映画である。タイトルにもある、トンボの眼というのは複眼という意味で、私たちの生活が巨大な撮影現場として、これらの複数の眼によって見られていることを意味する。防犯の意味で設置される監視カメラだが、そこはさまざまなドラマがある。自動車事故の瞬間、誰かに人が殴られる瞬間などの劇的な瞬間から、無防備に座っている受付の女性や、薬屋に入ってきた客などの日常的なシーンなど。写っているのは私たちの実際の生活であり、常に私たちが監視され、容易にネットで入手も出来ると言うことであり、監視社会の現実を突きつける。
もうひとつの作品は、1974年アメリカ生まれ、ベルリンとニューヨークを拠点に活動するトレヴァー・パグレンの作品《ミッドアトランティッククロッシング (MAC)、米国家安全保障局 (NSA) と英政府通信本部 (GCHQ) が盗聴している海底ケーブル、大西洋) *3》で、こちらは映像作品ではなく一連の写真シリーズだ。トレヴァーが自らスキューバダイビングをし撮影した写真シリーズには海底にインターネットケーブルが海底の生き物のように沈んでいる姿が映し出されている。これは世界各国に張り巡らされている物理的なインフラが海底の底にあること、米国家安全保障局 (NSA) や英政府通信本部 (GCHQ) によって、このケーブルを盗聴されていることを示しているのだ。
徐冰とトレヴァー・パグレンの作品の違いは、前者が映像作品で虚構の物語を作っているのに対し(素材はリアルそのものだが)、後者はありのまま(ただしこういった情報をリサーチし、並大抵ではない努力を経て)映し出す写真作品であることである。また両者が共通している点は、監視社会への警鐘という主題と、透明になっている現実をそのまま素材として差し出す方法である。
私たちの生活を安全なものにするはずの監視カメラや、私たちが即座に世界中の情報にアクセスできる便利なインターネット。そうした見えている事だけを現実と思いこんでいる我々の現代生活の虚構性に、これらの作品は「問い」を投げかけるものであろう。
P.S. 写真は筆者が足を怪我した時にお風呂で撮ったもの