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歌声のデザイン

デーリー東北新聞「ふみづくえ」
リレーエッセイ 2020年10月14日掲載

ジンジャー姉妹 湊山はる

 冒頭からこんなことを述べるのは大変恐縮ではあるが、私はそこそこ歌がうまい。そこそこ歌がうまいので、南部弁でカバーした曲をYouTubeにアップして、これまたそこそこ再生していただいたりしている。
 
 だが実は、今まで音楽活動をしたことは一切無く、YouTubeに投稿を始めるまでカラオケ以外で歌を披露した経験はゼロであった。

  それでも、幼い頃から歌が大好きだった私は、十代後半ともなるとシンガー・ソングライターになるべく作詞作曲を試みたことがある。が、駄目だ、がく然とするほど才能が無かった。ラブソングを作ろうとしたのに、出来上がったのはニンジン型のポン菓子の袋に住んでいる女の歌だった。なんでそうなるのか。もはや意味が分からない。そうこうしているうち、あれ?そもそも歌にする ほど伝えたいメッセージ…無いや!アハハ!…と、致命的なことに気付いたりもして、歌を仕事にするのはまず無理だなとすぐに悟った。歌うだけなら、技術・声質・ルックスなど優れている人は腐るほどいて、その中で上位に食い込める気が微塵もしなかった。何より、私には両親も、帰る実家も、学歴もお金もない(ついでに才能も)。なのに、毎日おなかだけはすくのだ。これから一人で生きていかねばというのに、今後食べていけるかも分からない夢を追うのはリスキー過ぎるじゃないか。という訳で、これまた幼い頃から好きだった絵を描こうと、イラストレーターを目指すことにした。…いや、だからなんでそうなる。もっとほかに手堅い仕事があるじゃないか。ツッコミ所が山のようだがしょうがない。私は若くてバカで、それでもとにかく何者かになりたかった。

 しかし人生はなんとかなるものだ。その後、ぬるっと業界にもぐり込んだ私は、現在はイラストも描くグラフィックデザイナーを生業としているのだから、まあ結果オーライである。

 そして面白いことに、デザイナーになってから歌うのがさらに好きになった。紙の質感、書体や色を選んでレイアウトをするように、歌声をデザインするようになったのだ。一旦視覚的に捉えてから、声でアウトプットするとでも言おうか。ただ漫然と歌うより表現の幅が広がるのが楽しい。私はあまり自分の歌い方や声に大きなこだわりが無い方だ。作品ごとにそれらを変えることにも抵抗はない。そのあたりも実にデザイナー的だなあと思ったりするが、それが今の活動に活きているような気がする。  

 よく、「アートは主観、デザインは客観」と対比されている。見る者がいなくとも、湧き上がる欲求のままに表現されたものをアートとするなら、私はアーティスト向きではないのだろう。何かの「お題」をより最適な形で表現する、デザインの方が性に合って いる。そしてジンジャー姉妹においては、そのお題が南部弁なのだ。それを歌で、動画で、グラフィックで表現する。デザイナーの私たちだからできる活動なのではと、少し”ごっつり”している。 

  迷走し、くすぶっていたあの頃の私は、今の私を見てどう思うだろうか? 思い描いていた未来とは少し違うかもしれない。でも、 やりたかったことがそこそこやれているよ、楽しいよと、YouTubeで得た雀の涙ほどの収益でご飯を奢ってやりたい気持ちである。


<デーリー東北新聞社提供> 
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ジンジャー姉妹
八戸市出身の実の姉妹(湊山りえ・湊山はる)によるクリエイティブユニット。動画投稿サイト「ユーチューブ」で、歌と解説を通して南部弁の魅力を紹介。はるによる「アナと雪の女王」主題歌の南部弁バージョン「雪だるまこへるべ」「生まれではじめで~リプライズ」では、累計1200万回再生を突破。東京都在住。

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