7インチ盤専門店雑記307「R.I.P. 強い人よ、安らかに」
アーティスト、ミュージシャンという職業はやはり罪がないように思います。対立する意見のメッセージが込められた曲が嫌だなどと言う場合もあるかもしれませんが、暴力で意見を押し通そうとする輩などよりはよほど平和的です。元々メッセージ色の濃い曲はあまり好きではないようなところもありますが、曲がよければそれも意に介さず、適当な距離感を保ってお付き合いすることもできます。
ただ例外的なものもありまして、反体制的な立ち位置というもの自体が微妙なもので、パンクが出てきたときなどは、それまで反体制的な音楽として見られていたロックが、いっしょくたに旧体制側にまとめて追いやられたりもしたものです。しかもパンクの衝撃は、グランジがコぺ転的に言われる衝撃度合いの何倍も大きかったように思います。自分が有していた価値観はどちらの側に転ぶのか、この先どうなるのか分からない不安が、パンクの良し悪し、好き嫌いとは別のものとして、世の中を覆い尽くしてしまったわけで、タイミングよく世界経済を席巻することになる日本は、都合のいいバッシングの対象になりましたし、少なくとも音楽が有するメッセージが暴力的なものだったりもするので、「ラヴ&ピース」とは別物でしたね。実に難しいところです。
政治と音楽が切り離せない状況は、やはり憂うべきことだと思います。自分が聴き育った音楽は、ヴェトナム戦争の影響もあって、時代的に反戦的なメッセージも多いですし、ニュー・ソウルを中心に人種差別解消や融和といったものが根底にありますから、当然ながらメッセージ色は濃いです。見方を変えれば、宗教的なテーマを持つゴスペル的な音楽も同じでしょうか。微妙な線かと思います。その反面、王様を殺せだのお前が欲しいだけではカルチャーもへったくれもありませんからね。
ただ、ヤン・ハマーやヴァンゲリスの例を出すまでもなく、亡命せざるを得なかったアーティストが人生賭けてやっている音楽も、距離を置く対象か、同じものさしで評価すべきか、などと考え始めると、明確な答えは出ない話しなんだとも思います。
アイルランドのシンガー、シンニード・オコナ―が亡くなりました。56歳とのこと。大ヒット曲「Nothing Compares 2 U」はプリンスの曲ですが、とにかく強烈なメッセージを常に発信している人でした。最終的にはイスラム教に改宗してしまいますが、ラテン・トリデンタイン教会の司祭でもあった方です。カトリック系の細かな違いはよく分からないものの、テレビ番組「サタデイ・ナイト・ライブ」出演中にローマ教皇の写真を破ったり、物議を醸すことが多々ありました。人権擁護や児童虐待防止に関して発信するのに、ここまで過激にならなければいけないのかと、少々距離を置きたくなる人でしたけどね…。人間としての強さに関しては、尊敬しております。