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キ上の空論#13「脳ミソぐちゃぐちゃの、あわわわーで、褐色の汁が垂れる。」観劇レポ
こんにちは、青井いんくです。
タイトル通りですが、先日、キ上の空論さんの「脳ミソぐちゃぐちゃの、あわわわーで、褐色の汁が垂れる。」を観劇してきました。
リンク上:特設サイト/下:配信チケット購入ページ
今回は備忘録も兼ねて、それに関するレポ(と言えるものでもないかもしれない)を書きたいと思います。
感染症対策について
内容に入る前に、一旦この話を。
こういった状態になってから初の観劇だったのですが、対策は十分なされていると感じました。
・必ずマスク着用
・チケットの受け渡し時も間にアクリル板(ビニールカーテンだったかも)
・座席は市松模様のように一つ空ける
・入場時にも人が溜まらないように案内
・退場は座席ごとに順番に案内
・物販等のスタッフはフェイスシールド着用
・会場物販はパンフレットのみ
などなど、安心して観劇できました(Twitter等で「感染拡大予防のための取り組み」も読めます)。
感想
以下、ネタバレを含みます。
あらすじ
大河内大和は、31歳の誕生日に隣に越してきた岡部天音に一目惚れする。天音と段々距離を詰め(という名のストーキング)、遂に付き合うことに。しかし二人には、お互いどうしても言えない秘密があった――。
全体の感想
面白かったです! パンフレットにも今だからこその演劇、といった趣旨のことが書いてありましたが、まさにその通りでした。今だからできる、逆に言えば今しかできない、今だからこそ尊い価値がある作品でした。
私は現代演劇を沢山観てきたわけではないのですが、度重なる場面転換も違和感なくスッと理解できました。
キ上の空論さんは「紺屋の明後日」を初めて観て心を掴まれたのですが、今回も期待を裏切られない作品で嬉しかったです。
以下、トピック毎の感想です。
◎性の≪癖≫と≪壁≫
フライヤーにもあったように、「癖」と「壁」のお話でした。一枚の、薄い「壁」越しに始まった二人が、お互いの「癖」の「壁」を越えていけるのか。面白かったです。
互いの「癖」という壁を、どうしても受け入れられなかった。でも案外、心の「壁」に足を踏み出せなくなっているよりも、現実の「壁」をぶっ壊した方が前に進めるのかも? と考えました。
◎大和という存在
まず、「大和」という名前の必然性がいいなと思いました。中性的な名前じゃなくて、絶対的に「男」。あと、物語が進むに従って気持ち悪さが減ってくる。ストーカー、ダメ、ゼッタイ。
大和の「癖」が天音に発覚してから、ずっとあの格好だったのもいいなと思いました。吹っ切れたというのが目に見えて分かって良かった。
自分の「癖」は受け入れてほしいけれど、天音の好きだった人が二次元だと分かると途端に受け入れられなくなる、人間としてのエゴイスティックな部分も生々しくて好きでした。第三者からしたら「いや、あなたも受け入れなよ」と思うけれど、そうじゃないのが人間でしょ? って感じられました。
これまでも、高校の時も気付けなくてごめん、とシャイン先輩に謝る場面もずしんときました。気付けなかったのは、罪じゃなかったんだけどね。でも、謝りたかったから謝った。
大和に関しては、シャイン先輩の影を追い払えるのか、というのも一つの「壁」だったなと後から思いました。自分の「癖」を隠してこのまま生き続けるのか、それを脳内のシャイン先輩に責められ続けるのかという「壁」。
◎天音の「癖」
最初、勝手に「エグい加虐趣味とかかな!」と思っていたので、拍子抜けしました(笑)。途中から「これは二次元だ」と察し、相手はソシャゲのキャラクターで、サービスが終了したことを「死んだ」と表現しているのかなと思っていました。アニメだった。
天音が着ていた、黄色いスカートも良かったですね! 衣装としての伏線なのか、天音が好きな色だから買っている設定なのか……。
ちょっと思ったのは、大和のは間違いなく「性癖」だけれど、天音のは「性癖」ではないんじゃないかなあということ。
天音が「二次元にしか恋できない」ならそれは性癖だと思うけれど、実際に三次元の大和を好きになっているので微妙だなと。そして、カズマが四年前に死んだということは、それまでに(所謂)普通の恋愛をしていそうだなとも思いました。かわいい子なので。
カズマが好きだったのは、「性癖」と言うよりも、たまたまその時好きになったのが二次元だったという一過性のものかなと思えました。(「普通」なんてものは無いにしても)「普通」の人から見たら異常かもしれなくても、「性癖」かと言うと……うーん。
◎みのりちゃん
「実は同じ職場でした」以外のサプライズは無いだろうとたかをくくっていたので、こう来たか! とびっくりしました。みのりちゃんの服装プラスシャイン先輩の髪型、の登場シーンは、大和と一緒に「あー!」って思いました。あの「分かった瞬間にそう見える」表現、好きです。
大和がかっこいいと思って憧れて、だからこそカミングアウトした相手であるシャイン先輩が、本当は大和のことをかっけーと思っていたのが分かったのもじんとしました。不思議な縁と言うか、重なりと言うか。
ついでに、みのりちゃんが占い師の格好とコンビニ店員の格好を行き来する場面。占い師の格好をしたら大和が喋りだし、「こっちか」と慌ててコンビニ店員の服を着るのが良かったです(笑)。メタフィクション的な表現が好きなので、ぐっときました。
◎リョウちゃん
唯一救われてないのでは? 不倫から脱したのは良かったけれど、救われてはいないのでは?
不倫したら0か100。そもそも不倫していることが過ちだけれど、それでも奥さんの妊娠をきっかけに切ろうとするリョウちゃんは思わず応援したくなりました。とはいえ、「0か100じゃなくて、70くらいの関係にしようや」みたいな主任も実在するよなあと思ってしまう。
あと、大和のストーキングはオッケーで(オッケーではない)、主任のストーキングはダメなのもあれでしょうか、「越えられない壁」があるんでしょうか……。
リョウちゃんの台詞だと、「大丈夫そうなんで」と大和に置いて行かれた際の、「大丈夫だったことなんてねーよ!」という叫びが刺さりました。大丈夫そうに見えちゃうけれど、それはそう見せているだけなんだなと。でもそう見せているだけってことに、誰も気付いてくれない。あまりにも寂しい。
◎正くん
作中であまり不幸にならずに済んだ人(笑)。大和がシャイン先輩にカミングアウトした場面で、大和を擁護する様子が印象的だった。黙ったままの大和に詰め寄るシャイン先輩、という構図のなかで、観客の気持ちを代弁しているかのようで。
(裏を返せばそれは「気弱さ」かもしれない)優しさでできて、優しさに裏打ちされた人だなあと思いました。ずっと優しい。弱いかもしれないけれど、優しい。
あとこれ本筋に関係ないんですけど、大和くんはナチュラル系女装なのに、タダシくんがギラギラ系女装なのはなんで(笑)? どこで違う方向性に行ったの??
◎金城タカシ(お名前があまり出てこなかったので、認識としては「職場のおっちゃん」)
寛大なおっちゃん、という感じで全体的に好印象でした。よくいるいい人。でも、ひとつ悩んだシーンがありました。
韓国の男性アイドルが化粧をするのと、大和は絶対的に違うけれど、おっちゃんはどちらも同じように「気持ち悪い」と思っている。同じ引き出しに入れている印象を受けました。
大和が天音に対して、ショタコンなのかと言って怒られたり、逆に天音が「あなただってオカマって言われたら嫌でしょ!」と言っていたりするような、カテゴライズのズレがあるなあと。
そしておっちゃんは、気持ち悪いけれど、それでいいんじゃない? と許容している。これは良いことなのか、悪いことなのか。違うのに、同じものとしてカテゴライズして、でもそれをいいじゃんと肯定している。正しい認識ではない、けれど拒絶せずに受け入れている。
そもそも「正しい認識」がどこにあるのかは置いておいても、自分の中でこういう考え方をして整理する人はいるだろうし、私自身もそういう面もあるかもしれないと危機感を覚えました。
◎向久保カナ(これも同じ理由で「職場の先輩」)
狂言回しと言うか、コメディキャラ。作中であまり背景が明かされなかったけれど、こういう人いるよなー、という解像度が高くて好きでした。
面倒くさいところもあるけれど、基本的にいい人。あと何となく損してることが多そう(偏見です)。割り勘のはずの飲み会でなぜか一番支払ってそう(妄想です)。
◎新井翔子(これも同じ理由で以下略)
売れない役者と離れられない空気感がビシビシ伝わってきました(笑)。本当は一人でも生きていけそうなのに(そしてその人と出会うまではそうやって生きてきただろうに)、どうしても離れられない。一人は嫌。一人じゃ寂しい。
でも現状を俯瞰して見ている自分もいて、マッチングアプリにも登録しちゃうし、良さげな男がいたら乗り換えたい。だけど、役者の彼をスッパリ捨てることもできない。
天音が言っていた通り、別れてからマッチングアプリやれよってのも分かるんですけどね。彼女にもキープしておきたい、みたいな打算もあるし、家から追い出せないという情もあるという……。
思い返せば、作中でわりと重要なセリフをよく言っていたのも意外でした。タダシくんとかじゃなくて、このポジションの人がかあ、と。
◎小山田ヨシ(認識的には「テンション高い店長」)
かっこよくて、強くて、アゲアゲ(死語?)で楽しい人。サバサバしてる、という表現はあまり好きではないのですが、何かあってもバチっと切り替えられる人。切り替えようと努力できる人。
リョウちゃんじゃなくても、友達になりたいよね店長(笑)。
お店が潰れるときの、「うちだけじゃない」というセリフがずっしり来ました。お芝居はお芝居であり、虚構だけれど、現実だってそうだった。
◎「箸が転んでもおかしい」
わりと漫画とかで見かける描写でしたが、好きです(笑)。あ、それだけです(笑)。
◎走り出してしまった
天音が会社を休んでいる、と聞いた大和が走り出す場面。走り出してから、走り出してしまったと気付いた、といった独白が入るのですが、ものすごく共感しました。
走り出している時って、走り出そうと思って走り出さないんですよね。気付いたら走り出していて、もう足を止められなくなっている。あの感覚がぴったりと表現されていて、自分も走り出しているような気持ちになりました。
◎「キモい」というセリフ
繰り返し出てきましたね。頻出単語。
気持ち悪い、という生理的な拒絶反応を表す単語で、よく考えたら「嫌い」より絶望的かもしれないと思いました。生理的に無理、という感覚は、自分でどうこうできるものじゃないので。「嫌い」はまだ克服できる可能性がある。「キモい」は絶望的。
だからこそ、その言葉を投げかけられた方は、深く傷つく。
自分はどんな「癖」の人に対してもそんなこと言わないぞって、断言できないんですよね。天音のセリフにもあった通り、友達とか周囲にいるのはともかく、「それを知らないで好きになった交際相手」の「癖」を知ったらどうなるかって、考えると怖いです。
「じゃあ、もしかして今興奮してるんですか……? キモいキモい!!」と反射的に言ってしまう可能性が、無いとは絶対に言い切れないので。
◎たまたま隣の部屋だった、それは十分そういう理由になる
今回の作品は「隣」についての話だったんですけれど、「隣」ってよく考えると不思議だなと。
嶽本野ばら先生の作品(調べたら『カフェー小品集』の収録作みたいです。間違っていたらごめんなさい)で、「運命の出会い」と「必然の出会い」の話が出ていたのを思い出しました。
大和と天音は、たまたま隣の部屋だった。それによって、お互いの人生がこれまでと違う方向に動き出した。これは運命だったのか、必然だったのか。それともただの偶然だったのか。
大和は自分の周りに目を向けられるようになって、好きな人に告白もできた。天音も、自身の秘密を大和に告げて、(アマプラがあるけど)Blu-rayを捨てるくらいカズマと離れられるようになった(大和の言うように、捨ててしまうのは違うとはいえ)。これを考えると、運命の出会いだったのではないかと。
ただ、だからと言って、どうにもハッピーエンドとは思えないんですよね……。
◎エンディング
「壁」を取っ払ったぞ! ハッピーエンド! ……とは思えませんでした。
最後の先輩の言葉が、あまり幸せそうじゃないと言うか。ものすごくアンバランスな気がしました。めでたしめでたし、で終われない感じ。良かったね! ではなく、「これで終わり……かな?」と問いかけられた気分でした。
「壁」は壊せたけれど、「一緒のお墓」には入れるの? どうなるの?
物理的な「壁」を壊し、心の「壁」も壊せた(ように見える)けれど、「幸せになれるか?」は別問題……かも。
おわりに
キ上の空論#13「脳ミソぐちゃぐちゃの、あわわわーで、褐色の汁が垂れる。」の観劇レポ(ほぼ感想)でした。本当に面白かったです。
こんな時代なので、生で楽しむ娯楽をなかなか味わえないでいたのですが、久し振りにその欲が満たされました。
キ上の空論さんに関しても、予約した#12「ピーチオンザビーチノーエスケープ」が中止になってとても悲しかったので、やっと観られて良かったです。また絶対に観に行きたい。でも、その前に今回のDVDが発売と聞いて震えています。
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時速50キロのカピバラを添えて。青井いんくでした。
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