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#1 湯浅町|縁を大切に、地元で愛され続ける「大黒屋」店主 権為朱美さん
「縁があったらまた来てくれるしな。」そう話すのは和歌山県の湯浅町でたこ焼き店「大黒屋」を営む、権為(ごんため)朱美さん。
出会い
醤油工場の見学を目的に湯浅町を訪れた筆者。お昼ご飯を求め町内を散策していると、「たこ焼き」と書かれた味のある提灯が目に入ってきた。
和歌山でたこ焼き屋とは珍しいなと思いお店を覗くと、朱美さんが顔をあげ「こんにちはっ!」とカラッとした挨拶をしてくれた。「美味しそうですね〜!」と伝えると「美味しいでっ!」と答える朱美さん。カラッとした笑顔にこちらも自然と笑顔になる。
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東京から遊びにきたことを伝えると「ほんなら、たこ焼きじゃなくてしらす丼とか、ご当地もんを食べてきな!」という朱美さん。商売っ気のない一言に筆者はとても驚かされた。
一度は町内散策を再開したものの、ずっと頭から離れない朱美さんの一言。
気づくと足取りは、自然とたこ焼き屋に向かっていた。
たこ焼きはなんと12個入って400円という安さ。フワッフワの見た目で、中はトロトロ。噛むほどに出汁の味とタコの旨味が広がっていく。
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たこ焼きを食べながら興味の赴くままにお話を伺う。
湯浅町は江戸時代に醤油の誕生をきっかけに商業として発展するが、近年では人口減少に直面しお店を畳む人も増えているということを教えてくれた。
お店はそのような状況下で、昨年オープンしてから40年周年を迎えたそうだ。
これだけ地域から長年愛され続けている理由や朱美さんの人柄をもっと知りたいと思い、筆者は朱美さんにインタビューをお願いすることにした。
祖父母が営んでいたお店の名前を引き継ぐ
朱美さんは高校を卒業後、駅員や事務員などさまざまな仕事を経験した。
好奇心旺盛な朱美さんは、どの仕事も常に発見ばかりで楽しかったと話す。
事務員として3年勤めたころ、次の仕事について考えていたタイミングで、母・初子さんと共にたこ焼きと天ぷらを扱うお店を開くことを決めた。
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たこ焼き屋を始めた理由を尋ねると、「初期投資がかからないさかい!本当はお好み焼き屋がやりたかったんやけどねぇ」と愉快に笑いながら話す朱美さん。
お店の名前を「大黒屋」と名付けた。
「おじいさんがここで電気屋をやって、レコードをうっちゃってんよ。そんでおばあさんが隣で食堂しちゃってん。ほんでその名前がまとめて大黒屋ゆうて。大黒様は食べもの神様だしちょうどいいなと思って名付けてん。」
祖父母がかつて営んでいたお店の名前を引き継ぐ形で、昭和56年にお店がオープンした。
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旅行に行かなくとも
たこ焼き屋を始めてからはほとんど和歌山県外に出掛けられていないという朱美さん。かつては会社の社員旅行などでさまざまな場所に行ったことについて話してくれた。
「どこも行っても楽しかったわ。知らんとこばっかりやもん。東京はまた行きたかってんよ〜。行ったのは修学旅行だけ。靖国神社に雷門も行きたかったし、仲見世通りたかってん。生きているうちは難しいから、千の風になったときに行こうとおもてるんやけどね。」
と話す朱美さん。
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ずっと住んでいる和歌山の魅力について尋ねてみると
「うーん。ここにいるのが当たり前になってるさけぇ。分からんわ。」と少し考えたあとに答えてくれた。
一方で、お店には他都道府県からさまざまな職種の人が訪れるそうだ。
フォトグラファー、絵本作家などクリエイターも多い。かつて横浜からきた画家は、コンテストの出すために明美さんをデッサンしたそうだ。
朱美さんは「他県に旅行に行かんでも、お店におればいろんな人との出会いがあんねん。せやから楽しい」と言う。
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縁を大切にする
朱美さんはお店の前を通る学校帰りの子どもたちに「おかえり」と必ず挨拶をする。都心ではなかなか見ることがなくなった光景だ。
インタビュー中に度々電話が鳴る。常連さんがたこ焼きの予約をするためだ。
いかに「大黒屋」が地域に根付いているのかが伝わってくる出来事だ。
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40年以上お店をやっていると、子どもの頃に来てくれたお客さんが、帰省したときに来店してくれることも度々あるそうだ。
筆者が「朱美さんのたこ焼きを食べて育ったお子さんがたくさんいるのですね」と言うと、
「はい、お陰さまで。おばちゃんも養ってもろてます。歯のないお子さんから歯のないおじいちゃんおばあちゃんまで食べてもうてます。」
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長年お店が続く秘訣や、たこ焼きへのこだわりを尋ねてみても「特にありまへん。」とカラッと答える明美さん。
そんなおりにポツリと言った、「縁があったらまた来てくれるしな」という一言に、地元で愛され続ける理由が詰まっている気がした。
朱美さんに今後について尋ねた。
「若い子らが、『おばちゃん長生きしてな。それでたこ焼きやかなあかんで』っていうから、元気なうちは続けなあかんわ。」
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編集後記
朱美さんと話していて印象的だったことは、質問にハキハキと思うままに答える姿勢だ。
私はこう思います。私はこれが好きです。それはわかりません...。
素直に自分の意思を表明することは簡単なようで簡単なことではない。
それでいて周りへの配慮を決して忘れず、目の前の人に誠実に向かいあう朱美さん。
今回の和歌山旅で感じた、和歌山に住む人の人柄を体現するような人で、まさに「自然体」という言葉がぴったりであった。その人柄は和歌山の自然豊かで温暖な気候や、少し足を伸ばすと現れる俗世離れした土地の影響によって形成されているのかもしれない。
日々生活をしているとついつい周りの意見に流されそうになってしまう。
先の心配をし、目の前の出来事をついつい軽んじてしまうことがある。
そんなときは朱美さんの姿勢を思いだし、目の前のご縁を大切に、自分に正直に歩んでいきたい。
【お店情報】
「大黒屋」
営業時間は10時~17時。月曜定休。
【筆者紹介】
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菊村 夏水
フリーランスフォトグラファー。1993年に東京で生まれ、埼玉県の浦和で育つ。趣味は食べ歩きと食べ比べ。見知らぬ土地で地元の人にしか知られていないようなお店を見つけるのが好き。
Twitter:https://twitter.com/natsupc24
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