富士山の噴火に関して 2 銀島 2022年8月6日 12:36 はじめに富士山の噴火は日本に大打撃をあたえる最悪のシナリオとして恐れられており、近年注目が集まっている。今回は「富士山大噴火が迫っている―小山真人」という本を読んでの感想と富士山の噴火についての解説などのnoteである。まずは本の軽い紹介だ。この本は静岡大学の地質学教授である小山真人氏が富士山の噴火について科学的な知見に基づいて解説したものだ。小山氏は富士山の解説のためにブラタモリに数回出演しているなど、この分野の第一人者であるようだ。この本は非常に平易でわかりやすいが、いかんせん高校の教科書で既に学んだ知識が多く、ものすごい発見があったわけではなかったというのが素直な感想だ。しかし、噴火や地質学に関する基礎的な読み物としてはよいものだったので興味がある人は手に取ってほしい。ここからはこの本の中で個人的に気になった部分について触れていく。まずは噴火のメカニズムについて解説するそもそも噴火とは火山からマグマが噴出することである。そのため、まずはマグマの形成と噴出について考えるため地球の内部に目を向けてみよう地球の内部構造は外側から地殻、マントル、核(コア)となっている。その厚さは地殻が5~60km(海洋地殻が5~7km、大陸地殻が30~60kmである)、マントルが約2900kmである。核は内核と外殻の二層構造であり、その厚さは内核が約1300km、外殻が約2000kmである。図にするとこうなる自作このような気球内部の層構造は地球がまだ火の玉だったころから、重力によって重いものは内側へと沈んでいく現象によって形成された。そのため内核には重いFeやNiが集積している。ここで余談なのだが、宇宙の最終的な形はFeになるのではないかという考え方がある。みなさんご存じの通りビッグバンの後に生まれたのはHやHeといった軽い元素である。これらの元素が集まり恒星を構成し、その中で核融合を繰り返すことでFeが誕生した。また原子番号がFe以降の元素は恒星の崩壊である超新星爆発による核融合で誕生した。このように、原子番号がFeより小さい元素はFeへと収斂し、Feより大きい元素は誕生確率が低く、また核分裂によりFeへと収斂されていく。そのため宇宙におけるFeの存在量は特異的に多いのだ。太陽系の元素組成 - Wikipediaより一部加工https://ja.wikipedia.org/wiki/太陽系の元素組成以上の理由から宇宙の最終的な形はFeになるのではないかという考え方がある。また動物の生態活動に必要不可欠なヘモグロビンはFeを中心に構成されている。これは宇宙における存在比の多いものを利用して生命体が生まれたという至極当たり前のことである。また同様にクロロフィルはMgを中心に構成されており、その構造はヘモグロビンに似ている。生物の誕生は地球だけの奇跡のように思われがちだが、実は案外単純で発生しやすいものなのかもしれない。Wikipediaより引用https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Heme_b.svgWikipediaより引用https://ja.m.wikipedia.org/wiki/クロロフィル随分と話がそれてしまったが、地球の内部構造へと話を戻そう。この地球の内部構造の中で液体なのは外殻の部分だけである。それ以外の部分は個体である。であればマグマは外殻から地表まで3000kmほどを上昇してきているのだろうか。実はそうではない。実際に火山から噴出した岩石の組成を調べるとほとんどはマントルの最上部で作られたものだということが判明した。皆さんも地理の授業で習ったものだと思われるが、これはプレート境界においてプレートの沈み込みなどにより個体であるマントルが解けマグマとなっているということなのだ。そのためプレート境界と火山の分布はほとんど等しいのだ。ここで一つの疑問が生まれる。マントルの最上部から地表までは地殻がおよそ30kmあるのだが、マグマはどのように上昇してきているのだろうか。その答えは岩石の部分融解と浮力にある。岩石というのは様々な化学組成の鉱物から構成されており、それぞれの鉱物の融点には幅がある。このため岩石の溶け始めから溶け終わりの温度にも幅がある。このような状態を部分融解という。部分融解のときの液体側の体積は個体側よりも大きくなる。すなわち密度が軽くなるため液体側であるマグマは浮力で上昇するのである。(補足)富士山は玄武岩質の成層火山であるため、ここでは玄武岩の融点を紹介する。玄武岩はSio2、Al2O3、Feoなどから構成されている。その融点はそれぞれ1732℃、2072℃、1370℃である。マグマの上昇は浮力によるものだということを解説したが、火山噴火時に発生するキノコ雲のあの形も浮力によって形作られたものである。それは噴煙は火山灰や火山礫により構成されており高温であるため、膨張していくとその密度は空気よりも軽くなる。そのため噴煙に浮力が働き、周りの密度と吊りあうところまで上昇する。噴煙と周りの空気が吊りあうところまで上昇し終えると、それ以降は横に広がるためキノコ雲が形成される。これは地球に大気が存在するために起こる現象である。大気のない星では噴煙も噴石と同じように放物線を描き落下し、その形は半円状となる。ここまでは噴火のメカニズムなどについて解説したが、富士山の噴火についても軽く触れることとする。富士山は本州側のプレートとフィリピン側のプレートのちょうど境界に位置しており、東日本火山帯に属している。富士山は日本一高い山であり、山体の体積は約550立方kmであり、日本の陸上活火山では最大である。これはすなわち噴出したマグマの量が多かったといえる。しかし、地下で発生するマグマは富士山とそれ以外の火山では大差がない。ということは富士山というのはマグマが地表まで登ってきやすい地形であるということである。マグマは浮力により地表近くまで上昇してくると先に述べたが、浮力だけで噴火するわけではない。噴火には地震のような大きな力が必要なのだ。過去には宝永噴火の前には宝永東海南海地震が発生している。しかし、大地震が起きたからといって必ず噴火するというわけではない。宝永噴火の四年前の元禄関東地震ではマグマが地下の浅い部分にまで上昇してきたものの群発地震を起こしただけで噴火には至らなかった。富士山は宝永噴火の後およそ300年間大規模な噴火を起こしていないため、この300年でたまったマグマが一気に噴出することを覚悟しておく必要はある。富士山のハザードマップ静岡県/富士山ハザードマップ(令和3年3月改定) (pref.shizuoka.jp)より引用https://www.pref.shizuoka.jp/bousai/fujisanhazardmap.html以上がこの本を読んだ上での富士山の噴火についての解説である。この本を読んで噴火のメカニズムについての科学的な知見を得ることができたのは非常に良いことであった。私が今回得た知識を皆さんに共有できていれば幸いだ。また富士山の噴火はいつか必ず起こるものであるため、上に示したハザードマップを見て防災への意識を高めて欲しい。ここからは上では書ききれなかった内容を雑記する・活火山の個数クイズQ.日本にある活火山の個数は何個でしょうかA.108個ちなみに休火山とう言葉は根拠のない安心を与えてしまうため今では使われていない・火山灰の影響航空機のエンジンに吸い込まれた火山灰のガラス質が融解し、水あめのようになりエンジンを故障させてしまう。火山灰の重みで電線が切れたり、水道施設に悪影響を与えるといったライフラインへの被害。コンピュータなどの精密機器が火山灰を吸い込み壊れてしまう。日照不足や降灰による農作物への被害。ガラス質の微粒子が目や灰を傷つける。など・富士山の観測機器人体では感じない微小の揺れを感知する好感度地震計、GPS地殻変動装置、山体の微妙な動きを測る傾斜計など・初めて知った語句セクターコラプス(山体崩壊)、噴火や地震が引き金となって火山の大部分が崩れる大きな地滑りのような現象。まれにしか起きない。富士山でも一万年に一回程度。ラハール(融雪型火山泥流)夏以外では富士山の山頂には雪が積もっており、溶岩流などによって融雪すると生じる。発生後わずか数十分でふもとの町に達するらしく危険らしい。しりとりで使えそうな名前をしている。・富士山の恵み噴火による悪影響だけでなく富士山の恵みもある。特に富士山の美しさは観光資源であり、大規模噴火をした後だとなくなってしまうかもしれない。山登りに興味はないがこの本を読んで富士山の観光資源としての素晴らしさを知っため富士山に登りたいなと思った。・富士山が古事記に登場しないという都市伝説「富士山は今では日本の象徴であるのに古事記及び日本書紀には記述がない。これは富士王朝を天皇家が隠蔽したからだ」そういう主張の都市伝説がある。この話をなんとなく知っていたが、この本を読んで平安時代の富士山の記述について書いてあったため、そういった古代の文献と富士山について興味を持ち調べてみた。結論からいうと上記の説はあくまで都市伝説であり、正当性はないと結論付けた。まず初めに古事記の成立年代は712年である。その内容は712年から見て古い内容を書き記すといったもので、712年に近づくほど記述が少なくなる。日本書紀は漢文で書かれた対外的な日本の正史である。この二つに富士山の記録がないというのは事実である。これはおそらく天皇家の勢力範囲は九州から近畿へと移動したため西日本であり、当時の東日本へ勢力が十分に及んでいなかったためであろう。また富士山について言及があるもので古いものとしては続日本紀があげられる。これは六国史の一つであり日本書紀の次に編纂された日本の正史である。797年に完成しており、697―791年の内容を記している。続日本紀には781年に富士山の噴火があったことが記されている。そのため富士山の記録が闇に葬り去られているというのは話を盛りすぎである。またこの富士王朝というのは偽書とされている宮下文書という古史古伝をもとにしている。この記述に正当性があるかどうかを科学的に確かめたものはないのかと調べていたところこのサイトを見つけた。https://sakuya.vulcania.jp/koyama/public_html/Fuji/enryaku3.htmlこのサイトは今回私が読んだ本の著者によるものだった。なんという偶然であろうか。著者の主張を端的にまとめると、宮下文書に同時期の他の古文書に載っていない地殻変動や噴火についての記述があり、それが科学的な裏付けが取れたならば宮下文書には一定の信頼がおけるのではないかというものであった。地質学者の筆者の調べによると、宮下文書の地殻変動や噴火の記述は地質学的に本当にあったと断定できないものや明らかな虚偽しかなかったという。やはり、宮下文書は偽書なのだろう。またこのような正史以外の記述として富士山本宮浅間大社の富士本宮浅間社記がある。http://www.fuji-hongu.or.jp/sengen/history/index.htmlこれによると第七代孝霊天皇の治世に富士山が噴火し、第十一代垂仁天皇がこれを憂い、富士山に浅間大神を祀ったというものだ。浅間大社は今では全国の浅間神社の総本宮となった。この記述は古事記とは反しているように思われる。というのも孝霊天皇と垂仁天皇の治世は古事記でカバーするべき年代だからだ。そのため富士山本宮浅間社記の記述は社格を高めるために話を盛ったのではないかと思われる。おそらく地方豪族の言動を天応家の業績に置き換えたのだろう。このように神社に伝わる歴史というのは記紀に反していることも多い。話を盛ったと見るのがおそらく正しい見方だと考えるが、記紀では隠された本当の歴史が神社の歴史に残っているというロマンは嫌いではない。しかし、こと富士王朝に関しては、地質学的に虚偽の記述であることが疑いようがないため、この件に関しては単なる都市伝説としておこうと思う。以上が雑記であった。本当はこの内容も本文に盛り込みたかったのだが、内容に一貫性がなく話の内容も薄かったため、最後に雑記することにした。特に富士王朝に関しては調べていて楽しかったため是非とも読んでいただたい。ということで、最後まで読んで頂きたありがとうございました。次回もよろしくお願いします。失礼します。銀島でした。 ダウンロード copy いいなと思ったら応援しよう! チップで応援する #地質学 #富士山噴火 #富士王朝 2