夏ピリカ ”不”参加作品
138作品の応募があった夏ピリカ。
ご応募くださった皆様、読んでくださった皆様、
まことにありがとうございました。
バリエーション豊かな作品たちに審査員一同頭を悩ませ迷いつつ、一生懸命に審査を進めております。
結果発表までしばらくお待ち下さい。
さて、
今回わたくしは審査を仰せつかりまして、
皆さんの作品を拝見する前に
ちょっとした意図を持って
ひとつ書いてみました。
審査結果発表までのつなぎにどうぞ。
(応募してたら…どうだったかなぁ??)
夏ピリカ "不"参加作品
ヨッさんとサダオ
「……いま説明したように、
太陽の光はまっすぐ進んで、地球に届きます。
ええな?」
「せんせぇ〜」
「お、なんやサダオ」
「光って曲がらないんですか〜」
「ええ質問やな。光は…まぁ、曲がらんと思ってて下さい。
向きを変えよう思たら、反射させんねやな。鏡とか、あるやろ。」
休み時間にぼくたちはさっそく、筆箱を鏡がわりにして遊びだした。窓からの日光を自在に反射させて、天井や机や…そのうちに人の顔をねらうようになる。でもねらうのはサダオだけだ。
「くらえサダオ! これが反射や! 思い知れ!」
「うっ、まぶしいって! ヨッさん! どつくぞ! おいっ!」
サダオは本気で怒り出した。ぼくは教室を出て逃げ回った。追いかけっこをしているうちに何だかオカシくなってきて、ふたりで笑い始めた。ごめんなサダオ。
家に帰ると、姉ちゃんが国語の教科書を読んでいた。
「不来方の〜 お城の草にぃ 寝転びて〜」
「また始まったわ姉ちゃん。かぶれとんな。何やねんそれ?」
「あんたにわかるかいな。空に吸われし〜 十五のこころぉ〜」
何言うてんねん。
いっつもスマホ見ながら寝転んでるくせに。
「なんやて?」
「何も言うてない」
ぼくはケリを食らった。姉ちゃんは短歌にかぶれている。ヨサノアキコの次はタクボクになった。ぼくにはどっちもわからんかった。
次の日、ぼくはサダオと一緒に下校した。
晴れた空に、飛行機が飛んでいた。
「おいっ、ヨッさん!」
「なんやサダオ」
「飛行機! 飛行機!」
顔を見合わせてニヤリと笑った。
筆箱に日光を反射させて、飛行機にあてるのだ。
「早よせな飛行機行ってまうぞ!」
「おっしゃ! 今当てるから見とけ」
ランドセルから筆箱を出してねらいを定めた。
「どっち向けてんねん! 飛行機に当てたれ!」
「もうちょっとこっちか? あっ、飛行機進んでる!」
「ちゃんと当てろ、アホかっ! ヘタクソッ!」
そうしているうちに、飛行機は向こうへ行ってしまった。
「あ〜あ」
ぼくたちは草っぱらに寝っ転がった。
「ヨッさん、さっきの反射、飛行機に届いたと思う?」
「しらんわ。空港行って聞いてこいや」
「ん〜、……なんか、そんなんええわ。それよりな、
「うん、
「空見てて、…思ってんけどな、
「うん、
「さっきの光、……ほんまは
「なんやねん、早よ言えや
「うん、……ほんまは、空に吸いこまれていったんちゃうやろか」
ぼくはびっくりしてサダオを見た。
サダオは真っ直ぐ空を見ていた。
「なんか、いつも見る空とちょっとちゃうなぁ」
「せやなぁ、寝っ転がって見たら、空って、…広いなぁ」
「うん。…なんかな、
サダオの言いたいことがわかる気がした。
ぼくはだまってサダオの言葉を待った。
「なんか……、心まで吸い込まれそうやなぁ
姉ちゃんが言うてた。空に吸われし、十五の心。
ぼくは思わず
「そうやなァ」
と言った。
ほんとの気持ちだった。
ぼくたちは、少し大人になった気分で空を見ていた。
(1184文字)
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