都道府県議会において自民党系会派が少数となる条件は何か
前回の記事では、都道府県議会選挙において都市部と非都市部における定数の差が自民党系会派を利している状況について茨城県議会と和歌山県議会の例を用いて分析しました。
https://note.com/gikaiseijiken/n/n5fd959fc7221
今回の記事はその続編であり、自民党系会派の議席占有率と定数1の選挙区が定数に占める割合の関係を皮切りに、自民党系会派が少数となっている都道府県議会の状況に焦点を当て、都道府県議会において自民党系会派が少数となる条件を考察します。
まず、各都道府県議会における自民党会派議席占有率と定数1の選挙区が定数に占める割合を示したグラフが図1です。
ほとんどの都道府県議会において、自民党会派の議席占有率は少なくとも40%を超えており、過半数を握っている議会も多い状況です。
2022年7月10日に行われた参議院議員選挙における各都道府県での自民党得票率は表1の通りとなっており、全国での得票率は34.43%、最高得票率となった山口県でも48.88%であったことから、地方選挙において自民党は国政選挙における比例得票率から考えられる数よりも多くの議席を獲得していると言えるでしょう。
ただ、参議院議員選挙は選挙区と比例代表の2つの選挙から成る選挙制度を採っており、選挙区で自民党候補に投じたため、比例代表では別の政党に投票するといった行動をする有権者の存在もあり得るでしょう。そのため、比例代表での得票だけを見て自民党の「地力」であると評価するのはやや過小評価である可能性があります。
一方、地方選挙は国政選挙に比べて投票率が低いため、より政治的関心の高い層による投票行動が議席に反映されやすく、その特徴が自民党の議席を伸ばしている可能性(自民党への支持が過大に反映されている可能性)もあり、国政選挙における得票と単純に比較できない点にも注意が必要です。
もちろん、国政選挙と地方選挙では争点や政治的影響力の方向性が異なるために、それぞれの選挙で異なる政党に投票する有権者もいるでしょう。
そういった注意点を踏まえつつ、次に、自民党会派の議席占有率が低い都道府県議会に議論の焦点を移していきます。
自民党系会派の議席占有率ワースト5位の都道府県議会は表2の通りです。
図1中では、右下の点が大阪府、左下の4点がそれぞれ東京都、岩手県、沖縄県、三重県となっています。
尚、自民党会派の議席占有率が40%未満の都道府県議会はこの5都府県のみです。
さて、図1を見て分かる通り、この5都府県は定数1の選挙区が定数に占める割合の観点から2つのグループに分けることができます。
Aグループが東京都、岩手県、沖縄県、三重県。
いずれも定数1の選挙区が定数に占める割合が10%未満の都道府県議会です。
Bグループが大阪府。
こちらは逆に、定数1の選挙区が定数に占める割合が50%を超えています。
逆に言えば、定数1の選挙区が定数に占める割合が10%~50%であれば、自民党会派の議席占有率は例外なく40%を超えていると言えるでしょう。
なぜこのような特徴が生じるのでしょうか。
まず、Aグループからその理由を確認していきますと、それは郊外の選挙区であっても定数が1より大きいことが多く、自民党が議席を独占する選挙区が少ない構図となっているからです。
例として、5位の三重県、4位の沖縄県を見ていきます。
表3は三重県議会の定数配分と当選者の所属会派です。
三重県議会は定数48のうち19議席が自民党系会派(自由民主党)によって占められており、占有率は40%。
第一会派の「新政みえ」が21議席を確保しており、占有率は44%となっています。
2022年7月10日に行われた参議院議員通常選挙での三重県における自民党の比例代表得票率が36.07%、三重県選挙区における自民党公認候補(山本佐知子氏)の得票率は53.4%だったので、三重県議会における自民党の占有率は比例代表での得票率に近い結果となっています。
その理由はもちろん、各選挙区における自民党の得票力と定数の関係性にあります。
表4は三重県における各市町村の2022年参院選自民党得票率とそれぞれの市町村が含まれる選挙区の定数を示した表であり、図2は縦軸に定数、横軸に2022年参院選自民党得票率をプロットした図です。
尚、複数の市町村が1つの選挙区に所属する場合があるため、定数の合計が三重県議会の定数全体と一致しないことには注意が必要です。
2022年参院選自民党得票率が40%の線を起点に見ていくと、三重県議会では参院選自民党得票率が40%以上の市区町村が含まれる選挙区がそもそも少なく、しかも、その全てが定数2~4の選挙区に所属しております。
また、最も2022年参院選自民党得票率の大きい多気町及び南伊勢町でさえ得票率は45%となっており、過半数を超えておりません。
その結果、表3の通り、定数が2以上の選挙区で自民党系会派が議席を毒性んしている選挙区は定数2の志摩市と多気郡のみとなっており、その他の選挙区では自民党系会派の獲得議席を半数以下に抑えています。
さらには、唯一の小選挙区である亀山市は2022年参院選自民党得票率が35.5%と三重県全体での得票率を下回る地域となっており、県議会選挙でも「草莽」という会派に所属する議員が議席を獲得しております。
自民党得票率の都市部と非都市部のあいだでの偏りが小さいうえ、自民党得票率の高い郡部が程よく統合されて2人区となっている点が、三重県議会における自民党系会派の議席獲得を阻んでいると言えるでしょう。
この三重県の特徴は、前の記事で紹介した和歌山県議会の特徴と比較すると、より鮮明になるでしょう。
同じ方法で和歌山県議会について分析した図表を前記事から再掲いたします。
2022年7月10日に行われた参議院議員通常選挙での三重県における自民党の比例代表得票率が36.07%であることは前述の通りですが、和歌山県は36.06%であり、これは全都道府県での30位と31位にあたります。
全県を平均した得票力には差がない2県での自民党系会派による議席占有率の違いが、ひとえに自民党得票率の都市部と非都市部のあいだでの偏りと定数配分の偏りが組み合わさった結果であることは一目瞭然です。
和歌山県では自民党得票率が30.2%しかない和歌山市選挙区に全体の36%にあたる15議席が割り振られる一方、自民党得票率が40%以上の地域、中には45%どころか50%を超えるような地域の多くが定数3以下の選挙区に所属させられており、これらの地域で自民党系会派が効率よく議席を確保しているのです。
さて、次に沖縄県議会を見ていきましょう。
表3は沖縄県議会の定数配分と当選者の所属会派です。
沖縄県議会は定数48のうち18議席が自民党系会派(沖縄・自民党)によって占められており、占有率は38%。
2022年7月10日に行われた参議院議員通常選挙での沖縄県における自民党の比例代表得票率が27.13%、沖縄県選挙区における自民党公認候補(山本佐知子氏)の得票率は46.4%だったので、沖縄県議会における自民党の占有率は比例代表での得票率よりやや高く、選挙区における得票率よりやや低い結果となっています。
各選挙区における自民党の得票力と定数の関係性を見ていきましょう。
表8は三重県における各市町村の2022年参院選自民党得票率とそれぞれの市町村が含まれる選挙区の定数を示した表であり、図4は縦軸に定数、横軸に2022年参院選自民党得票率をプロットした図です。
尚、複数の市町村が1つの選挙区に所属する場合があるため、定数の合計が沖縄県議会の定数全体と一致しないことには注意が必要です。
図4では人口の多い市部のドットを赤色で表示しております。
表8及び図4から読み取れる沖縄県及び沖縄県議会の特徴が2点あります。
1点目は、そもそも自民党の得票力が全県的に弱いということです。
2022年参院選自民党得票率が35%を超えているのは離島を中心とした町村部ばかりであり、市部で35%を超えている自治体はありません。
そもそも、2022年参院選における比例代表得票率27.13%という数字は全都道府県で45位であり、自民党の得票力そのものが著しく低い県となっております。
図5は2022年参院選における自民党比例代表得票率と各都道府県における自民党系会派の議席占有率を示した図です。
この2つの指標間にはそれなりに強い相関関係があり、相関係数は0.72となっております。
各都道府県議会に選挙制度(選挙区ごとの定数ミックスの違い)や各地域ごとの特性があるとはいえ、概ね自民党の比例代表得票率が30%を切れば自民党系会派が過半数を握ることはないのだと言えるでしょう。
沖縄県議会で自民党系会派が振るわない理由は、そもそも沖縄県の自民党に「地力」がないからということになります。
尚、2022年参院選における自民党比例代表得票率が30%を切っているのは、図5を見ても分かる通り4府県のみであり、内訳は大阪府(19.74%)、京都府(25.46%)、沖縄県(27.13%)、兵庫県(27.66%)となっております。
沖縄県以外は日本維新の会が自民党票を奪った結果と推測できますので、日本維新の会以外の野党にとって、国政どころか一つの都道府県議会の過半数を奪取することさえ、つまり地域的な支持を確立することさえいかに厳しいことなのかが分かるというものです(逆に言えば、自民党がどれほど凄まじい全国政党・包括政党なのかが分かるというものです)。
2点目の特徴は、小選挙区がないという点でしょう。
沖縄県における2022年参院選における自民党比例代表得票率27.13%という数字は、他の都道府県と比較すれば低いとはいえ、沖縄県において最も多く得票した政党はなお自民党となっております。
選挙区がより細分化され、小選挙区が生まれていれば(特に離島から構成される小選挙区などがあれば)自民党が構造的な有利を獲得していたかもしれませんが、最低の定数は2であり、比較的低い得票力の中で2議席を独占する力が自民党にはないようです。
低得票力と選挙区の定数構成、この2要素が沖縄県において自民党系会派を過半数割れに追い込んでいると言えるでしょう。
次にBグループの大阪府を見ていきます。
表9は大阪府議会の定数配分と当選者の所属会派です。
大阪府議会は定数79のうち7議席が自民党系会派(自由民主党大阪府議会議員団)によって占められており、占有率は8.9%。
第一会派の「大阪維新の会大阪府議会議員団」が21議席を確保しており、占有率は67%となっています。
2022年7月10日に行われた参議院議員通常選挙での大阪府における自民党の比例代表得票率が19.74%、大阪府選挙区における自民党公認候補(松川るい氏)の得票率は19.4%だったので、大阪府議会における自民党の占有率は比例代表での得票率を下回っております。
繰り返し述べている通り、都道府県議会における自民党系会派は郊外・郡部・町村部の定数が小さい選挙区において議席が得票力に対して比例的に配分された場合よりも多い議席を得ることで議会における議席占有率を高めています。
そのため、通常は2022年の参院選比例代表得票率よりも議席占有率が高くなっており、議席占有率が2022年の参院選比例代表得票率を下回っているのは大阪府、東京都、岩手県のみ。
このうち議席占有率が2022年の参院選比例代表得票率の半分以下だったのは大阪府のみです。
その理由は表9を見れば一目瞭然でしょう。
大阪府議会は小選挙区が非常に多く、小選挙区が全定数に占める割合は55.38%に及びます。
しかも、多くの都道府県議会とは異なり、大阪市や堺市のような政令指定都市の区部も小選挙区となっているのです。
自民党から分離して結成された日本維新の会が大阪府議会を制することができた理由はここにあります。
かつて、大阪府議会は都市部でも郊外でも自民党系会派が優位を占めていました。
しかし、日本維新の会は自民党系会派よりも更に都市的な政策を掲げて戦い、都市部の選挙区を席巻することで議会の多数派を掌握したのです。
また、大阪府は面積が小さいため、府のほぼ全域が府中心部への通勤圏となっており、郊外と言ってもほとんどの地域が大阪市中心部と利害が一致していることも優位に働いたでしょう。
つまり、都市的な政策への利益をほとんどの府民が享受する状況で、なおかつ、小選挙区が多い、という選挙制度のもとだからこそ、地滑り的な勝利を収められています。
都市部の選挙区が大選挙区で、郊外・郡部・町村部に自民党系会派が独占できる安全選挙区がある、という状況では、自民党系会派に過半数を割らせることはできなかったに違いありません(詳しくは茨城県議会や和歌山県議会の分析をご参照ください)。
以上が都道府県議会で自民党系会派が少数となる条件の分析です。
纏めると、以下の①、②いずれかの条件を満たしている必要がありそうです。
①小選挙区(定数が1の選挙区)が定数に占める割合が10%以下であり、特に自民党系会派の得票力が高い郊外・郡部・町村部の選挙区に2以上の定数が割り当てられていて、それらの選挙区で自民党系会派における議席の独占を防げる程度には自民党系会派以外の政党・会派の得票力があること。
②小選挙区(定数が1の選挙区)が定数に占める割合が50%を超えており、特に都市部の選挙区にも多数の小選挙区が存在。そのような状況で、自民党系会派よりも都市的な政策を訴えて支持を獲得していること。
もちろん、沖縄県議会の項で述べた通り、そもそも自民党の得票力にも相当程度左右されるのですが、確実に自民党系会派を少数派に追い込むには自民党の比例代表得票率が30%を切る必要があります。
繰り返しになりますが、この条件を満たしているのは大阪府(19.74%)、京都府(25.46%)、沖縄県(27.13%)、兵庫県(27.66%)のみであり、大阪府・京都府・兵庫県については日本維新の会が②の条件を達成して府政を握ったからこっそ支持を広げた結果であり、沖縄県は基地問題等も絡んだ沖縄県特有の政治状況の結果です。
つまり、逆説的になりますが、ある地域で自民党の比例代表における得票力を30%以下に抑え込もうと思えば、沖縄県のように基地問題レベルの根深い問題が長年に渡って国政で議論になるか、そうでなければ、日本維新の会が大阪府でそうしたように、自民党の比例代表における得票率がある程度高い状況にも関わらず都道府県議会の多数派を奪取し、そこで「成果(※)」を出すことで自民党から国政レベルでの得票率も奪っていく必要があるのでしょう。
※日本維新の会の政策が大阪府や日本に良い影響を与えているか否かについては議論があるでしょうが、地方政治で与党となり(批判をしたりや修正を求める立場ではなく)政策を実行する立場から有権者に訴求して国政政党としての基盤を築いたという意味では「成果」を出したと言えるでしょう。
次項では、前項及び本項で議論した内容を踏まえ、現在の野党が次に工夫次第で多数派を握ることができそうな都道府県議会について述べていきます。
可能であればご支援お願い申し上げます。
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