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社会も、企業も、多様性を受け入れることで新たなチャンスが見えてくる

多様な人材が協働する社会を作りたい―。品川優さんはそんな思いで2019年5月、29歳の時に株式会社An-Nahal(アンナハル)を立ち上げました。今年度はG Innovation Hub Yokohama(以下G)に入居していた際に思いに共感した合同会社げんてんラージンガーマルセルさんと組んで横浜市スタートアップビザ(外国人起業活動促進事業)を受託。外国人の起業家が活躍しやすい土壌作りにも挑戦しています。


ポジティブに異文化を受け入れられない日本社会を変えたくて起業を決意

私は高校生のころにベトナム戦争から逃れて神奈川県内で暮らすインドシナ難民の方に話を聞いたことで、難民問題や多文化共生に関心を持ちました。初めは「平和で経済的にも豊かな日本で暮らせて良かったね」と感じていましたが、話を聞いていくと全然良くないんです。その方の父親は母国では弁護士でしたが、日本では皿洗いのバイトしかできなかったり、子どもも学校でいじめられたり…。当時は世界を日本のように平和にするために国連で働くことが夢でしたが、「日本国内に国際問題がある。多文化共生、異文化の受け入れに取り組みたい」とその時に思いました。
大学では国際政治を専攻、その後6年間勤めた会社では企業の海外展開に向けたグローバルリーダー育成や組織開発などに携わりましたが、20代のうちにもっと「自分のやりたいこと」にフォーカスしたいと考えて独立しました。その後1年ほどフリーランスとして活動した中で、国連難民高等弁務官駐日事務所から後援をいただき、R-Schoolというプロジェクトを立ち上げました。
国籍も年齢も職業も違う人たちが集まって、個々の専門性や価値観を組み合わせて新しい日本の未来像を描く内容でしたが、今まで異文化=外国人の方に触れてこなかった日本人参加者がワークショップを通じて異文化環境をポジティブに捉えるようになったんです。
その変化を間近で見た時に「こういう場を日本社会にもっと創っていきたい」と思いました。続けるためには資金だけでなく、続ける意思のある母体が必要だと感じて選んだのが、起業という道です。自分が会社を作るとは思っていませんでしたが、「ダメでも他に道はあるから死にはしない。とりあえずやってみよう」という気持ちでスタートしましたね。

日本人とともに外国人材が活躍できる土壌は日本の未来に絶対必要

人と話すことが元気の源になるという品川さん

5年経った今は「起業してよかった」の一言です。事業を存続するための仕事ももちろん頂いていますが、8割くらいはやりたいことやるべきだと信じていることに時間を使えています。私がやりたいことの1つは、日本企業に多様性を受け入れられる組織を作ることです。そのために国籍だけでなく異なるバックグラウンドの人たちとコミュニケーションをとりチームの成果につなげられる日本人リーダーの育成などをしています。外国人材と楽しく協働する日本人を増やしていきたいですね。もう1つは外国人起業家支援・横浜のグローバル推進です。グローバルなバックグラウンドをもった人たちが日本社会の中で活躍する土壌を作りたいです。これは日本の未来にとって絶対に必要なことだと信じていますし、単純に面白いし、ワクワクすると思います。
ただ、この事業をする中で難しさを感じるのは、多様性や異文化の価値は原体験がないと腹落ちしづらいと感じています。
シェアオフィスであるGでも多様な人がいる中で、立ち話から仕事につながったり、大事な友人ができたりということがあるように、多様性=違いとの接点が増えると同質性の高い環境では生まれなかったチャンスが見えてくることがあります。日本は異文化環境で働くことへの意欲が諸外国としても最低ランクかつ経験を持つ人も少ないので、An-Nahalの事業を通じて多様性の価値を肌で感じる原体験を提供していきたいです。

正社員を採用し、「個人事業主の枠では終わらせない覚悟ができた」

創業当初はバーチャルオフィスを利用していましたが、創業直後のこれからというタイミングでコロナが拡大して人に会うこともできなくなってしまって。私は人に会えないとしんどく感じるタイプで、「コロナ感染よりも人に会えない孤独で生きるのが辛い」という感じでしたね。「自宅にこもるのではなく、人に会える場所に出ていこう」と思っている時に、グローバルシェイパーズ横浜ハブの活動でGのスタッフの方と繋がり、入居することになりました。現在入居先はSHINみなとみらいに移りましたが、Gと同じく交流を生むことを大事にしていて、事業も年齢も多様だけど同じフェーズにいる起業家が率直に互いの課題や悩みを話して応援しながら一緒に育っていく関係性がとても楽しいです。
昨年は正社員を1人採用することもできました。これまでも様々な人に業務委託で働いてもらっていましたがほぼリモートなので直接会う機会は少なくて。アンナハルの理念に100%コミットする人が隣にいてくれたらもっと心強く可能性も広がるのではと思っていたんです。社員を雇ったことでできることの幅が広がったのはもちろん、個人事業主の枠では終わらせないという覚悟ができたと思います。どうやってより良い社会にするために事業を育てていくのかということをより考えるようになりましたね。

スタートアップビザを活用して留学生が横浜で起業する事例を増やしたい

神奈川大学の協力で留学生に外国人起業促進事業を紹介したイベントを開催

合同会社げんてんのマルセルさんとともに今年度受託した横浜市スタートアップビザ(外国人起業活動促進事業)は、外国人が横浜で起業準備ができるよう、審査の上で最長1年間の在留資格を可能にするものです。同様の取り組みを渋谷区や他の自治体でも行っているので、横浜を選んでもらうために、外国人材にとって横浜でビジネスをする魅力は何かを日々考えていますね。また、個人的には、日本の大学に在学中の外国人留学生がこのビザを活用して起業する事例を増やしていきたいと思っています。外国人留学生の70%が「日本に残りたい、日本で働きたい」と思っているのに対し、実際の就職率は35%程度です。「それなら起業すればいいじゃん!」と極端かもしれませんが、就職以外のキャリア選択に「起業」が入れば、チャンスは広がりますよね。実際私たちが独自に調査したところ、日本人大学生の約10倍、留学生の起業意欲が高いというデータがありました。
先日は神奈川大学にも協力をいただいてイベントを開き、留学生に制度の紹介と外国人起業家のプレゼンテーション、横浜のビジネスパーソンとのネットワーキングを行いました。実際に母国で起業していて日本進出も考えている留学生もおり、ニーズを実感しています。日本で起業するには日本人ビジネスパートナーとの出会いも重要なので、今後さらにミートアップの場も設ける予定です。

イベントには留学生や外国人起業家、日本人起業家など多数参加した

グローバルに関心のあるステークホルダーが集まることで、「こういう人たちがいるなら起業できそう」という考えにもつながると思います。起業は日本人外国人関わらず長期的な事業継続ができるケースは限られているのが現状です。会社が立ち行かなくなった時に母国に帰るとなるとリスクが大きく感じます。でも横浜のイノベーションエコシステムの中にいれば、自分の事業はうまくいかなくても、起業経験や起業家精神を持つグローバル人材として企業への就職・活躍の道が開けるいう形を作りたいです。起業を経験した外国人材が活躍し続けられるというのは、地域にとっても価値があることだと思います。そういうコミュニティ作りのために大学とも連携してイベントを取り組んでいきたいですね。多文化共生から一歩先の多文化協働実現のために、「ちょっと面倒くさいこともあるけど、それを凌駕するわくわく、そしておもしろさや価値がある」と感じる日本人を増やすためにできることを何でもしていきたいです。

関内でおすすめのお店…
「bonhi sena(ボーディセナ)」南インド出身のシェフが作る南インド料理店。ビリヤニ(炊き込みご飯)が好きで、見つけたお店。インドカレーはもちろん、ビリヤニがとてもおいしいのでおすすめ!


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