短編小説 三丁目公園の老人はかく語りき(三の一791字)
聡はベンチに座りスマホを取り出し、<ふきだまり>と打ち検索した
吹溜とは、雪や落葉などが、風に吹き寄せられて一ヶ所に溜まる所
と画面に出た。
聡は秋風の吹く公園を見廻した。
なるほど、この小さな公園には、子供はいない、年寄りばかりだ。
ビルの谷間に取って付けたようにあるこの公園は、
恐らくマンション開発計画条件に付帯された、おまけの様な物だろう。
五百メートル程先にある高層ビルのハローワークから吐き出された人達が
風に乗ってあっちこっちに振り分けられて、最後にたどり着くのが、
三丁目公園なのだろう。
聡は苦笑した、確かにビルを出た直後から、若者にはキャッチセールスの様
に声を掛ける人材派遣会社の男たちが、若い失業者達を誘っていた。
声の掛からない、年配の男達は、落葉の様に公園に吹き寄せられた。
柴田聡 五十歳は重い腰をベンチに下ろした。
正直こんなに仕事が無いとは思わなかった、
聡は食品メーカーの開発部門で二十六年働きリストラで早期退職した。
だいぶ前だが、スカウトの話もあった。仕事には自信もあった。
実績も有るつもりでいた。
しかし、身に着けたスキルを活かす仕事は無かった、
経験は躰に着いた垢の様な物で、マイナスでしかなく。
希望の収入には遠く及ばない。
頭を抱えるしかなかった。
「大変ですな、後悔してますか」
親しげに話しかける声がした。
何時の間にか、電子タバコを吹かした老人が隣りに座っていた。
聡は警戒して、作り笑いをして、やり過ごした。
老人は続けて言った。
「子供さんは大学と高校ですか、もう少し手が掛かる」
「自分が思っている程、経験は役に立ちません」
いちいち当たっている老人の言葉に聡は
「あなたに、相談なんかしてませんよ、あなたは、誰なんですか、」
老人は、はっきり言った
「私は柴田聡 八十歳、未来のあなたです」
聡は、頭を上げて、改めて隣の老人を見た。
そこには、老けて老人になった自分の姿があった。
続く。