みどりの食料システム戦略 パブコメ


「みどりの食料システム戦略」は、農林水産省が食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションを実現するために、2021年5月12日に策定したものである。策定前の原案に対して、パブリックコメントの募集があり、以下は、その際に提出した私のコメントである。提出されたパブコメの大半(約1万6千通)は、ゲノム編集技術・遺伝子組換え技術に対する危惧の念を述べたものであったらしい。私は、専門とする土壌肥料学・土壌環境学の視点からコメントを述べた。特に、後半の用語の問題は、慎重に扱ってほしかったが、残念ながら、私のコメントは取り入れられなかった。

以下、提出したコメント全文。

全体
(1)世界の食料生産システム・国際貿易の中でのわが国の食料生産システムのあり方:
2050年を目標としてわが国における持続的な食料生産システム構築に向けて、イノベーティブな技術開発とその社会実装が必要となる。その意味で、本戦略は、主に農業生産段階における技術開発を中心に、その方向性と目標を示したもので、その意義は認める。しかし、食料の多く、また大半のエネルギー原料を輸入に依存している現在のわが国の食料生産システムの特徴を明らかにした上で、2050年段階のわが国の食料生産システムのあるべき姿を明らかにしておく必要がある。本戦略では個別の技術目標の各論にとどまっており、国内的には持続的でゼロエミッションであるように見える食料生産システムが、海外における非持続的な食料生産システムに依存している、さらには海外の資源枯渇や環境破壊を助長するという事態も危惧される。具体的な取り組みの中で、「資材・エネルギー調達における脱輸⼊・脱炭素化・環境負荷軽減の推進」とあるが、まず2050年段階でのあるべき姿を示した上でないと各論の技術目標が上滑りのものとなる。

(2)開発される技術とその普及:
個別の技術目標は、シーズ研究を基にしており、チャレンジングではあるが開発されれば、きわめて有用な技術になり得るかも知れない。ただ、有益な技術がすぐに普及する訳ではない。これまでに開発された技術が、コスト的な問題、社会情勢、社会の受容性等で普及しなかった事例は数限りなくある。たとえば、今回の有機農業25%という目標は、有機農業の普及担当の政策担当者であれば、ほとんど不可能であることが分かるであろう。有機農業の普及は、栽培技術のみならず、流通消費システム、消費者の有機農産物への考え方、コスト等々の問題山積であり、栽培技術の改良によってのみで目標を達成できないことは自明である。にもかかわらず、そうした面についての政策的な対応は全く言及されていない。

(3)化学肥料削減と環境負荷削減:
現在のわが国の肥料施用量は、国レベルの養分収支の面からみると、以前より改善されてきたとは言え、以前としてOECD諸国の中でも環境負荷が大きい国である。肥料施用に伴う環境負荷削減を、「化学肥料削減30%」という分かりやすい形で示すことの意義は認めるが、一方で家畜ふん堆肥の過剰施用等の肥料成分による環境負荷も深刻である。有機性肥料も含めた肥料成分による環境負荷削減を考慮し、化学肥料および有機性肥料も含めた肥料成分(窒素、リンなどの栄養塩類)の環境削減を目標として掲げるべきである。


個別:土壌肥料学、土壌微生物学を専門に研究した立場から用語使用についての修正・再検討を求めます。

工程表
23p:右端の下方:「農薬・肥料の散布量削減」:肥料の場合、「散布量」という表現は適切ではなく、「施用量」とすべき。
26p:右端上方:「土壌微生物機能の完全解明とフル活用による無肥料栽培の拡大」:「無肥料栽培」は肥料養分を系外から全く供給しない栽培体系のことであり、窒素固定微生物を用いた無窒素栽培はともかく、リン、カリウム、微量要素を全く供給しない栽培は、土壌中の肥料養分資源を収奪する農法を意味し、持続的ではない。無から有を生じることはできない。持続的農法としては、「肥料成分の高効率利用栽培の拡大」のような記述に修正されるべき。
27p:右端上方:「土壌微生物機能の完全解明とフル活用による減農薬・肥料栽培の拡大」:「減農薬・肥料栽培」は分かりにくいので、「減農薬・減肥料栽培」と修正されるべき。

質問(個別の質問への回答はなされないことは理解した上での質問である)
25p:中程に「バイオスティミュラント」の記述がある。他の頁にもある。バイオスティミュラントについては、資材メーカーで構成されるバイオスティミュラント協議会等が、農水省へバイオスティミュラントの資材として認定について要望を続けているが、肥料でも農薬でもなく、資材として認定する法令や規制について農水省は後ろ向きであると聞いている。本戦略で、「バイオスティミュラント」を資材として認定するということになると理解してよろしいか。

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