バトル・オブ・カスミガセキ #-1日目

(あらすじ)
国家公務員採用総合職試験に最終合格した地方大学生の"私"は、「官庁訪問」を突破し官僚として登用されるべく東京・霞が関に向かう。
全国から集まった合格者たちが、互いに蹴落としあう2週間が始まる。


6月20日 最終合格発表


 今日、パソコンに向き合う私の指は震えていた。あと1分たらず、16時ちょうどに国家公務員総合職試験の最終合格者が発表されるからだ。
 国家公務員総合職試験────かつては”上級職””国Ⅰ”と呼ばれた、キャリア官僚を登用するために実施される試験であり、この国で最難関の試験のひとつである。

「ひっ、ひひひっ、ひひひひひひひひっ・・・・!」

 奇妙な小声を発しつつ人事院のホームページにアクセスし、”合格発表はこちら”を開く。自分の受験区分、受験地を選択し、自分の受験番号が含まれている群のページを見ると─────

「あ!ああああ!!ある!!!!あるよぉぉぉぉ!!!あはははははははは!!!!!!!!」

 得体の知れない感情が身体を震わせる。すぐにリビングにいる母に報告すると泣きながら喜んでくれた。父にはSNSで報告したがすぐ飛ぶようにして職場から帰ってきた。こんなに親が自分のことで喜んでくれているのは大学の合格発表の時以来だ。
 とはいっても、私には悠々とごちそうに舌鼓を打つ時間などない。なぜなら、明日には東京に入り、明後日から始まる”官庁訪問”に備えなくてはならないからである。

 ところで、みなさんは官庁訪問というものをご存知だろうか。実は、国家公務員試験に最終合格しただけでは国家公務員になれるとは限らない。合格資格を持った上で、働きたい官庁に面接をしてもらい、その上で採用される必要がある。この一連のプロセスが、官庁訪問である。
 一般職試験の官庁訪問は、短期決戦であると言われている。もちろんすぐに決まってしまう以上は「早い者勝ち」であり、瞬間最大風速でパフォーマンスを発揮するためにしっかりと準備を行う必要がある。また、その内容は”比較的”良心的で”まとも”であるというのが公務員試験における定説だ。しかし、総合職の官庁訪問は2週間に渡って行われる上、志望者の人権などまるで存在しない。民間企業で同じ事をやろうもんなら一発でメディアにフルボッコにされること間違いなしだろう。尤も、この時はそんなこと知る由もなかったが────

 そういうわけで、急いで2週間宿泊する準備を済ませ、明日の新幹線をとった。明日は早いし、今日はもう寝よう。


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