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"最強のチーム" 3話

■会議室
佐竹「公庄さん、本当にありがとうございます」
公庄「とんでもございません。むしろ僕がやりたいということにご協力いただけるということで、こちらこそお礼をしなければいけないですよ。遠藤校長もありがとうございます」
遠藤「こちらこそ、ありがとうございます」
佐竹「いや、しかし驚いたな。こんなにとんとん拍子で話が進むなんて」
岡本「全く…おっしゃる通りですよ」
公庄「ははは。それでは細かい話は近日中にまとめていきましょう。岡本ちゃん、決めるべき事項はあとでまとめていこうか」
岡本「かしこまりました」
公庄「あ、あと。これは急ぎなんだけど。明日久保高の監督就任会見をやるから、各メディアに伝えておいて。そして、久保高以外の高校にはオファーお断りの連絡もしておいてくれるかな?」
佐竹・遠藤「え、明日ですか!?」
岡本「大変申し訳ございません、この人には常識というものがなく。お断りのメールはしておきます」
佐竹「しかし…私どもとしましても、このことを一度理事会で報告しないと。メディア対応の準備も一体どのようにしたら…」
公庄「理事会に関しては緊急性を要したということで、事後報告でいいでしょう」
岡本「会見場所に関しては、御校の体育館をお借りしてできたらと思います。あとは私にお任せください」
佐竹・遠藤は呆れ顔で笑いながら
佐竹・遠藤「全く…」

■会見会場
公庄「この度はお忙しい中、お越しいただきまして誠にありがとうございます。一昨日の引退会見での甲子園優勝宣言から2日経ち、僕の新たな挑戦の場所が決まりましたので、ご報告させていただきます」
会場、騒然
公庄「来年、4月から秋田県の私立久保田高校野球部で監督として指揮を取らせていただくことになりました。それに先立ちまして、来年の1月にトライアウト入試を行わせていただきます!全国各地から10人、秋田から10人、有望な選手の獲得を目指しております!公庄健のもとで野球をし、甲子園で優勝したいという、若人は集まれ!」
会場、さらに騒然
司会「……えー、これより質疑応答の時間とさせていただきます。ご質問のある方は…」
記者、一同挙手
記者A「一昨日の引退会見での監督宣言から、電撃で監督就任が決まりましたが、引退会見の時点で久保田高校で監督になることは決まっていたのでしょうか?」
公庄「いいえ、昨日初めて久保田高校さんに接触して、監督オファーをお受けいたしました」
記者B「監督宣言から、たくさんの高校からオファーがあったと思いますが、なぜ久保田高校だったんですか?」
公庄「それは僕の地元だったからです」
会場の記者は驚きと落胆の声
記者C「それではなぜ、記者会見であのように大々的にオファーを求めたのですか?」
公庄、ニヤリと笑いながら。
公庄「それはその方が話題性があるからです」
記者D「話題性って!未来ある高校生の将来をどう考えているんですか!」
記者E「他の高校のオファーも聞かずに、昨日の今日で『久保田高校を選びました』ですって?話も聞かずに断られた他の高校の立場は考えているんですか?」
記者F「来年の1月にトライアウトだなんて、有望な選手はとっくにスカウトが終わっていますよ!もしかして、すでに進学が決まっている子たちの中から引き抜きするんですか?」
スーパースターとしての引退会見とは打って変わって、懐疑的な質問が飛び交う。
ニヤリと笑った公庄はつぶやいた。
公庄「ゾクゾクしてきたね」
記者からの懐疑的な声は大きくなる。
公庄「では端的に言いますね。僕が高校野球の監督になって優勝するというのは高校野球協会に対する復讐のためです」
会場がピンと張り詰める。スーパースターがダークヒーローになった瞬間だった。

■オファーを断られた強豪校の理事長と高校野球協会(通称:HBA)の幹部たち
HBA幹部A「公庄!舐めたこと言いやがって」
HBA幹部B「いい度胸してはりますね」
HBA幹部C「何か復讐だ。ふざけるのも大概にしろよ」
強豪校の理事長A「わしらのことをもて遊びやがって」
強豪校の理事長B「高校野球には高校野球のしきたりちゅうもんがあるんや」
強豪校の理事長C「わしらがなんとしても」
全員「久保田高校の優勝を阻止する」

■秋田市久保田第二中学のグラウンド スマホで会見LIVEを見ていた中通と石森
中通「久保高で監督。そしてあの発言…公庄ヤバいな」
石森「でも公庄が監督したら、とんでもない選手が集まるかもしれないね…」
中通「そうだな。各都道府県のエースで4番を集めるんだろうな」
石森「かもしれないね…なんかあんなに好きだった公庄が、こんな感じになってちょっとガッカリかも」
中通「そうか?俺は公庄らしくて好きだけど」
石森「でも3年後に甲子園制覇するってことは、僕たちは甲子園いけないって言われている感じしない?なんか踏み台にされるっていうか…」
中通「石森、グローブ持ってるよな?ちょっとやろうぜ」
石森「う、うん」
キャッチボールを始める二人
中通「俺らいいバッテリーだったよな」
石森「どうしたの?急に」
中通「いいバッテリーだったよなって聞いてるんだよ」
石森「それはそう思うよ」
中通「でも俺ら二人だけのチームだった」
石森「え、まあうん」
中通「県大会にも出場してベスト8まで行けたけど、最後はチームの総合力で負けた」
石森「……」
中通「お前は悔しくなかったか?」
石森「そりゃ悔しいよ」
中通「だよな」
力強いボールを石森に投げる中通
中通「肩できたか?ちょっと座っていいか」
石森「う、うん」
中通「まずは右バッターの外角低めのストレート」
石森「わかった」
石森は中通の構えたところにピシャリと投げ込む。急速はさほど速くないが、ノビのあるストレート
中通「いいね。次は低めのチェンジアップ」
石森「うん」
時間の流れが止まったようなチェンジアップが中通のミットへと投げ込まれる
中通「相変わらずだな。こりゃ初見のバッターは絶対に空ぶるぞ」
石森「そんなこともないよ」
中通「じゃあ最後にお前のウィニングボールのスクリューだ」
石森「うん」
石森の左手から投げられたボールは弧を描きストンと落ちた。
中通「ナイスボール!これはどんなやつも三振取れるよ」
構えたところにボールがくる快感を噛み締めながら石森に返球する中通
中通「石森、久保高に行かないか」
石森「言うと思ったよ。大事な話をするときはいつも僕にピッチングさせるから」
中通「ははは。恥ずかしいからやめろや。で、どうする?」
石森「僕は正直自身がないよ。だって全国各地から僕ら世代のスターが集まりそうだし…そこでレギュラーになれないくらいなら…」
中通「でも総合力の高いチームで俺たちがバッテリーを組めば、絶対甲子園行けると思わないか」
石森「だから、そのまえにレギュラーになれるかが不安なの」
中通「やる前から負けること考える馬鹿いるかよ」
石森「なにそれ、猪木?」
中通「うるさい!俺はお前と久保高のレギュラー争いに勝って、公庄と甲子園で優勝したくなったんだ」
石森「また急なんだから」
中通「だからさ、やろうぜ」
石森「自分がやりと決めたら人を巻き込んで、迷惑をかけてでもやる。昔から変わらないね」
中通「……」
少し微笑んだ石森。
石森「9回裏満塁。僕らは1-0で勝ってる。バッターは公庄。3ボール2ストライク。最後の球のサインをちょうだい」
中通「えっ…外角低めのスクリュー1択だ」
石森は中通の要求どおり鋭いスクリューを投げ込んだ
石森「わかった、一緒に久保高行こう」

■同時刻 全国大会で優勝した横浜ジュニアのメンバーの青葉、綱島、橋本、横須賀
横須賀「お前ら、今の会見どう思った?」
橋本「世代最強の横浜ジュニアのエースの俺とセンターラインが集まって、公庄のもとでプレイしたら、甲子園優勝もない話じゃないかもな」
綱島「そうだね」
青葉「俺も同意見だ」

■同時刻 東京、千葉、埼玉、群馬、静岡、大阪、岩手、そして秋田県のでそれぞれの15歳たちが…
難波「ワイも」
高崎「公庄のもとで」
清水「野球をして」
板橋「甲子園で」
全員「優勝する」

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