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手塚治虫ゆかりの地、宝塚(前編)

『鉄腕アトム』、『ブラック・ジャック』、『火の鳥』など数々の名作漫画を世に出し、漫画の神様と呼ばれ、日本のTVアニメの礎を築いた手塚治虫さん。

小学館発行の学習漫画『21世紀をデザインしたまんが家 手塚治虫』

漫画、アニメの巨匠として知られる手塚さんは1928年11月3日に大阪府豊中市で生まれ、5歳から兵庫県宝塚市に引っ越し、20年間、そこで育ちました。
宝塚は都会的ながら花と緑あふれる所で、宝塚大劇場もある歌劇が盛んな街です。現在、歌劇とアニメの2本柱で観光の街づくりを行っていて、手塚さんが幼少期を過ごした宝塚には、作品創造の原点やゆかりあるメモリアルスポットが今でも残っています。今回宝塚まで行ってそのスポットを2日に渡って取材し、各地を巡っていきました。記事を前後編に分けて紹介していきます。


宝塚駅

まず宝塚駅の紹介です。
戦後直後のこと、手塚さんは宝塚駅付近で進駐していた酔っぱらった米兵のグループから何かを尋ねられたものの英語が通じませんでした。するといきなり手塚さんは殴られ、米兵は笑いながら去っていきました。この記憶は後に描く漫画に大きな影響を与えたと述べており、『鉄腕アトム』や『アドルフに告ぐ』などをはじめ、「言語や文化によるすれ違い」というテーマにした様々な作品を手掛けました。
また、宝塚駅の阪急電鉄・今津線では、2014年より発車メロディーに『鉄腕アトム』の主題歌を採用しています。列車発車直前に流れる『鉄腕アトム』のメロディーが聞けるのは、国内だと宝塚駅、高田馬場駅、新座駅です。

花のみち

宝塚駅から徒歩3分の所には、花のみちと呼ばれる道があります。春には満開の桜が咲き誇り、道の側にはショッピングも楽しめる多くの店がありますが、歩道には手塚漫画に登場するキャラクターのレリーフが転々と埋め込まれています。

アトムとプルートゥのレリーフ
『ジャングル大帝』のレオとパンジャのレリーフ
ブラック・ジャックのレリーフ
『リボンの騎士』のサファイアとチンクのレリーフ
火の鳥のレリーフ


宝塚大劇場の入口前

花のみちの側には宝塚大劇場が大きくそびえ立っています。宝塚歌劇団の舞台が大好きだった母親の影響で、手塚さんは幼い頃から宝塚歌劇を見て育ちました。手塚さんの家の隣には当時の大スター天津乙女、雲野かよ子姉妹が住んでいて、その辺りは「歌劇長屋」と呼ばれるほど劇団員が多く住んでいました。
手塚さんは大人になってからも時間を見つけては宝塚歌劇を観劇し、漫画家デビュー後は歌劇団の情報誌「歌劇」や「宝塚グラフ」(宝塚歌劇団の機関誌)にイラストや漫画を寄稿しています。
そうした宝塚歌劇の影響を受けて生まれた作品が、少女漫画の始まりとされている『リボンの騎士』です。女性が男性を演じる宝塚の男役からヒントを得て、お姫様が「男装の麗人」となって悪と戦うというストーリーを手掛けました。

宝塚ホテル

また花のみちの近くには、宝塚ホテルもあります。手塚さんと幼馴染である岡田悦子さんは、1959年10月4日にこのホテルで結婚式を挙げました。
手塚さんは幼い頃からホテルの常連で、家族で食事に訪れたり、ホテル主催のクリスマスパーティーに参加したりしていました。
同じ年の週刊少年サンデーに連載した『スリル博士』には宝塚ホテルが登場していて、思い入れを持っていたことが窺えます。

瓢箪池(ひょうたんいけ)

宝塚駅から約12分歩くと、宝塚中心部から北に広がる御殿山があります。この御殿山に大きなクスの木がある祖父の別荘があって、手塚さんはそこに住んでいました。当時は周りは雑木林で、タヌキやキツネもいて、昆虫の宝庫でした。

その御殿山にある急な坂を登りきると突き当りに下ノ池があり、手塚さんは
瓢箪池(ひょうたんいけ)と呼んでいました。瓢箪池の名前の由来は、真ん中がくびれた形をしているとも、かつて向かい側にあった上ノ池と合わせた形が瓢箪のように見えたからともいわれています。

御殿山の坂


瓢箪池(下ノ池)

この池の奥のクヌギ林で手塚さんは昼間よく遊び、夜にはこの池の何か得体の知れないものの夢を見ていたようです。現在は池周辺に家々が立ち並んでいますが、手塚さんが遊んでいた当時は水面に自然豊かな山が映り込んでいたそうです。

猫神社(千吉稲荷)

瓢箪池のすぐ側にある猫神社(千吉稲荷)は、周りに木々が生い茂って森があります。手塚さんは小学5年生の時、昆虫のオサムシの名前をヒントに本名の"治"に"虫"を付けて「治虫」というペンネームにしました。小学校時代は昆虫にかなり夢中になり、そんな彼の昆虫採集のフィールドが、今も残る猫神社(千吉稲荷)です。昆虫の短い命とここで育った経験から「生命の尊さ」「自然への愛」を学び、その経験が自身の漫画にも大きく影響を与えました。現在は「手塚治虫 昆虫採集の森」という記念碑が建てられています。

猫神社周囲に広がる森


記念碑「手塚治虫 昆虫採集の森」


猫神社(千吉稲荷)

1日目は主に手塚さんの作品創造の原点となった宝塚の場所を巡っていきました。
2日目は、手塚さんのゆかりの品や数々の資料を展示している手塚治虫記念館に取材に行きましたが、それは(後編)で紹介します。

(後編)の記事はこちら↓

参考資料
書籍:『21世紀をデザインしたまんが家 手塚治虫』『手塚治虫ー未来からの使者』
宝塚市国際観光協会HP:手塚治虫ゆかりの地めぐりプラン
たまぽん通信:兵庫県宝塚市にある手塚治虫ゆかりの場所7選
乗りものニュース:高田馬場駅だけじゃない?『鉄腕アトム』の発車メロディ 実は2つとも“ご当地” どう関係?


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