手塚治虫ゆかりの地、宝塚(後編)
こちらの(後編)の記事では、(前編)に続いて宝塚で2日目に周った手塚治虫記念館の紹介をしていきます。
(前編)の記事はこちら↓
記念館の概要
花のみちを真っすぐ歩いていると、記念館に到着します。
記念館は、手塚さんが漫画の中で唱え続けてきた「自然への愛」「生命の尊さ」をテーマに、青少年の夢と希望を未来へ広げていく施設として、宝塚に設立されました。1994年に設立され、今年で開館30周年を迎えます。
外観は、ヨーロッパの古城をイメージしてデザインされており、 手塚さんのエッセイ『ガラスの地球を救え』をモチーフにしたガラス製の地球がシンボルとなっています。入口広場には火の鳥の巨大なモニュメント、玄関前にはアトムやブラック・ジャックなど手塚作品のキャラクターたちの手型・足型が敷き詰められています。
館内は3階建てになっており、手塚作品の1ページを再現した空間の中で、手塚さんのゆかりの品や数々の作品を見たり、 実際にアニメを制作する体験などができます。
常設展とアトムビジョン
1階では主に常設展として手塚さんの生涯を辿るよう構成されています。手塚さんのゆかりの品や、作品資料が『火の鳥(未来編)』に登場する生命維持装置をモチーフにした展示カプセル40本の中に、展示されていて幼少期から漫画家として地位を確立するまでの生い立ちが分かるようになっています。
また、1階にはミニシアター「アトムビジョン」もあり、記念館オリジナルのアニメ作品を月替わりで上映しています。取材した日(6月29日)は『都会のブッチー』と『森の伝説』という作品を上映していました。『都会のブッチー』は手塚さんをモデルにしたと思われる魔法のチョークを持った、絵が上手な少年を主人公にした物語で、『森の伝説』はチャイコフスキーの「交響楽第4番」(「ある森の伝説」)からイメージを想起させた作品です。
ライブラリーと企画展
2階では、漫画、イラスト、絵本、その他執筆本などの多様な作品群を知ることができます。書籍約2000冊を手に取って読めるライブラリーや、手塚さん本人や作品の情報、ほとんどの手塚作品のアニメを観ることができる情報・アニメ検索機、キャラクターグッズの販売店などもあります。
年に3回入れ替える企画展もここで行われ、手塚作品の他にもゆかりの作家や現在注目の作家、作品を紹介しています。
今年の6月28日から「島本和彦 炎の原画展 ver.2 ~ふたりの手塚編~」の企画展を開催しています。(10月27日まで)
『炎の転校生』、『逆境ナイン』、『アオイホノオ』などで知られる漫画家の島本和彦さんの40年以上描き続けた生原稿の原画を展示しています。島本さんの本名は「手塚秀彦」で、手塚さんとの共通点に運命を感じ、漫画家を志した一因にもなりました。
島本さんの短編集『炎の筆魂』で収録されているパロディ漫画の『マグマ大使』の展示もされていて、『アオイホノオ』で庵野秀明監督、岡田斗司夫さんらと邂逅する手塚さんのシーンの原画も大きく取り上げられていました。
仕事部屋の再現とアニメ制作体験
そして地下1階(G階)には、1960年頃の手塚さんの仕事部屋の再現やアニメの制作体験ができる工房があり、手塚さんが少年時代を過ごした昭和15年(1940年)頃の宝塚市のジオラママップなどもあります。
清水マリさんの宝塚、記念館の思い出
『鉄腕アトム』でアトムの声優である清水マリさんは、1994年記念館ができた時から時折訪れていて、記念館と密接に関わっています。今回手塚さんとの縁が深い清水さんから宝塚と記念館を訪れた時の思い出として、以下のようなコメントをいただいたので、こちらの記事に記載いたします。
「私が宝塚に行く機会ができたのは、手塚治虫記念館がオープンした時からでした。阪神淡路大震災が起こる少し前で、初めて宝塚大劇場の前を通り、突き当りの会場に行くまでの花のみちをドキドキしながら歩いたのを覚えています。
到着すると、踏み石にアトムの手やウランちゃんの手、(手塚作品に)出演する人物の手がはめこまれていました。(記念館のオープニング)会場には先生の作品が山のように飾られていました。私は先生の若い時に描かれていた昆虫の絵の前からしばらく離れられませんでした。地下1階には後ろ向きの先生(仕事部屋の再現での手塚さんの像)がいらっしゃって、「先生」と声をかけると「何?」と振り向いてくださるような雰囲気……。何度も声をかけてみました。
その後、阪神淡路大震災の時、心配して行った時は花のみちの脇にあった商店はみな前倒しになり酷いものでしたが、記念館はたいした被害もなく、少々ひびが入った程度だったのでホッとした思いがあります。
記念館の横は少し下がった所に遊園地になっていましたが、今は文化センターになっています。私はここ数年、この文化センターで、サイン会をしたり朗読をしています。昔と同じように花のみちを抜け、宝塚大劇場の前を通ります。
でも宝塚歌劇は劇場で一回しか見ていません。孫が宝塚歌劇団の生徒になったので、これからはいっぱい見られるようになると思いますが……。今はそれが楽しみで早く来春になるのを待っています。
埼玉に住む私にとって宝塚は遠い所だったはずなのに、今はすごく身近になりました。時々記念館にも顔を出して楽しんでいます。手塚先生のアトムのおかげで楽しい生活ができています。先生に感謝感謝で日々を送っています。」
清水マリ
未来へと広がっていく手塚作品
手塚さんは宝塚で過ごした経験をもとに「自然への愛」「生命の尊さ」を学んでいきました。そのテーマは一貫して様々な漫画で描かれ、読んだ読者たちの心に残り、また次の世代にも引き継がれ、未来に広がっていくものだと思います。
手塚さんが宝塚で過ごしたその経験は大きく、「漫画の神様」である手塚さんにとって創造力を育んだまさに「はじまりの場所」だったと言えるでしょう。
取材協力:宝塚市立手塚治虫記念館
参考資料
手塚治虫公式WEBサイト:手塚治虫記念館
宝塚市立手塚治虫記念館:手塚治虫記念館トップページ
風信帖HP:マンガの聖地 手塚治虫記念館
マチノコエ:漫画の神様ゆかりの地で語り継がれる手塚治虫と宝塚の歴史