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映画「ゆきてかへらぬ」


2月21日に公開された映画「ゆきてかへらぬ」
を、今日、早速、鑑賞してきました。
天才詩人の中原中也を、木戸大聖さんが、
文芸評論家の小林秀雄を岡田将生くん、
ふたりの恋人で、大部屋女優の長谷川泰子を
広瀬すずさんが演じています。

まずこの映画、脇役はほぼ無いに等しく、
ホントにこの3人だけで物語が完結していることに驚きました。
私としては、もっと中也が詩作に励むところや、あるいは苦しむところ、小林以外の文壇仲間の交流とか描いて欲しかったけれど、この映画の主役は泰子(広瀬すず)ですからね。

泰子と中也が出会ったばかりの頃、フランス料理を食べながら、泰子がまだ17才の学生の中也に
「こんな贅沢していいの?」と聞いて来て、
中也は「これが贅沢だって?僕はもっと高級な贅沢を求めているんだ」と答えます。
「高級な贅沢って、なに?」
「詩を書くことだよ。だけど、僕が書いているのはまだ、詩の紛い物(まがいもの)に過ぎない。僕は未だ、詩を掴めていないんだ」
やがて、ふたりは同棲を始めますが、
物語の中盤で、文芸評論家の小林秀雄が、
中也の家にランボーの詩集を持って来て、
中也はたいそう喜び、小林と二人で声を合わせてフランス語で詩を読み始めます。

ふたりの間に入り込めない泰子は苛立ちを見せますが、小林は妖しい雰囲気を持つ泰子にどんどん惹かれていってしまいます。
突然、中也に別れを告げて小林の家に引っ越す泰子の荷物を「重いだろ。持って行ってやるよ」と、担ぎ出す中也は、どんな気持ちだったんでしょう?

しかし、中也と別れた泰子は、だんだん精神的に不安定になり、その重荷を小林は全部、
引き受けます。ある夜、小林が仕事から帰宅すると泰子が彼に「寒いから雨戸を閉めて」と頼みます。
雨戸をガラガラと閉める小林に泰子は、
「いまの雨戸を閉める音、数にしたら幾つ?」
と、訳のわからない質問をして、小林を苦しめます。彼が、「3333」と答えると、泰子は、
「何言ってんの。1に決まっているでしょ!」
と激昂します。ココではたぶん、小林が何の数字を言い当てたとしても、泰子の気は収まらなかったでしょう。泰子は、他の誰でもない自分にいちばん苛立ちを覚えていたのではないでしょうか?

映画館で貰ったポスターです☺️

泰子は、自分はいつも男から愛を受け取るのが当たり前。愛する比重は相手のほうが重くなければ、面白くない。
しかし、ふたりの男に愛されても彼女の心が満たされることは決して無かった。
そういえば、中也には友達がいたけれど、泰子には友達はいたのかしら?
友達がいたら、泰子の人生も、三人の関係も、もっと違うものになっていたかもしれない。でも、それはそれで、こうした逸話。
伝説的な三角関係も生まれていなかったかもしれませんね。

 また、泰子がいつも男達に強気の姿勢で臨むのは、大部屋女優にしかなれない、彼女の自信の無さの裏返しの様にも思えました。
(映画の後半では、少し成功したかの様に描かれていましたが)
いちばん印象的だったシーンは、料理が苦手な泰子が、中也と同棲したばかりの頃、彼のために作った味噌汁です。
「頂きます」と、嬉しく味噌汁に箸を付けた中也ですが、「ウッ、これ、なに?」
泰子が味噌汁に入れた具は、なんと生姜!「生姜なんて、入れる?」と驚く中也に
泰子は、しれっとした顔で、
「だって、他に入れる具が無かったのよ」
と悪びれもせずに言ってのける。
このシーンに、泰子の奔放な性格が現れている感じがしました。

三人の恋は刹那的だからこそ輝いて見える☺️

後半、泰子は中也と別れた後も、小林と彼との間で心は常に波打つ様になり、心の均衡が保てなくなります。中也が、ふたりの同棲のお祝いにと、大きな置き時計をプレゼントするのですが・・・
中也は、本当に泰子の幸せを望んでいたのだろうか?泰子もまた、中也の幸せを願っていたのだろうか。
どんなに好きな人でも、ふたりでいたら、
どうしてもお互いに傷つけあってしまう。
どちらかを狂わせてしまうくらいに。
ふたりはそんなカップルだった。
だから、泰子は、
「もう一度、僕とやり直そう」と縋る中也に、
「ふたりが別れたら、やっとふたりは不幸から卒業出来る」と言い放ったのだろう。
物語の序盤で、
少年の様な無邪気な瞳で黒いロングマントを風に翻しながら、ローラースケートを楽しむ木戸大聖くんはホントに素敵でした💓
「コレをやると、自分が風になれたような気がするんだ」と、大きな黒いマントを風になびかせる中原中也は、まるで空から舞い降りて来た天使のようでありました💗☺️

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文章の無断転載を禁止します。
(風 夏鈴)

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