判例百選憲法Ⅰ【第7版】編

★第1事件 マクリーン事件★(最昭53年10月4日)

~外国人の政治活動の自由~ 


序章 マクリーンとは

 ロナルド・アラン・”マクリーン”。この事件を起こしたアメリカ人国籍を有する外国人である。
 マクリーンは昭和44年5月10日、出入国管理令に基づき滞在可能期間を1年間として、英語教師として働くために来日した。マクリーンは東アジアの文化に興味を持っていたそうで、日本美術や中国絵画に特に興味を示していたようだ。
 マクリーンは、日本で英語教師として働きながら琴や琵琶等の研究をしており、これを継続するために当時の法務大臣に更に1年間の在留期間の更新の申請をした。
 事件は、法務大臣がこれを却下したことに端を発する。

本章 国家の外国人受け入れの義務・外国人の在留の権利 

内容を口語調にして記載する。

マクリーン(以下「マ」)「日本でもっと英語教育と美術の勉強したいネ!!オイ裁判官!!今すぐホウムダイジンにキャッカ処分を取り消して、在留期間を1年間プラスシロと言ってくれヨ!!」

裁判官(以下「裁」)「否、外国人であるあなたには日本に在留する権利、在留を要求する権利はない。よって、処分の取り消しは言い渡さない」

マ「ハ⁉、なんでだヨ???ケンポウ22条1項には『ナンピト』も、居住・移転の自由があると書いてあるダロウガ!!これはガイコクから日本に「移転」して「居住」するリエキも含むんだヨ!!このポンコツ裁判官!!」

最「否、憲法上22条1項は”日本国内”における居住移転の自由を保障するものである。このことは国際慣習法上、国家が外国人を受け入れる義務を負うものではなく、特別の条約がない限り、外国人を自国内に受け入れるかどうか、また、これを受け入れる場合に条件を付するかを、当該国家が自由に決定することができるものとされていることと、その考えを同じくするものと解される」

マ「ふざけんナ!!『ナンピト』にはガイコク人も入るんだヨ!!」

最「否、憲法上、外国人は我が国に入国する自由を保障されているものではないことはもちろん、在留の権利ないし引き続き在留することを要求する権利を保障されているものではない

本章 法務大臣の裁量

マ「そもそも、法務大臣に外国人の在留に関することの決定権はないヨ!!タトエ、それがあったとしても今回シンセイ却下されるようなワルイことしてないノニ認めないのはひどすぎるヨ!!」

裁「否、出入国管理法21条の「在留期間の更新を受けることができる」(1項)、「外国人は…法務大臣に対し在留期間の更新を申請しなければならない」(2項)の仕方を見ると、法務大臣に一定の期間ごとに当該外国人の在留中の状況、在留の必要性・相当性等を審査して在留の許否を決定させようとする趣旨のものであり、更新事由の有無の判断を法務大臣の裁量に任せ、その裁量権の範囲を広汎なものとする趣旨からであると解される。よって法務大臣に当該決定権がないとの主張は失当である。」
「さらに否、裁判所は、(法務大臣のかかる裁量を尊重し)法務大臣の判断の基礎とされた重要な事実に誤認があること等により右判断が全く事実の基礎を欠くかどうか、又は事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等により右判断が社会通念に照らして著しく妥当性を欠くことが明らかであるかどうかついて審理し、それが認められ場合に限り、右判断が裁量権の範囲を超え又はその濫用があったものとして違法である」

*マクリーンは外国人べ平連(「ベトナムに平和を!市民連合」)に所属し、昭和44年6月から12月までの間9回にわたりその定例集会に参加した。
7月10日左派華僑青年等が同月2日より13日まで国鉄新宿駅西口付近において行った出入国管理法粉砕ハンガーストライキを支援するため、その目的等を印刷したビラを通行人に配布した。9月6日と10月4日にはべ平連定例集会に参加し、同月15、16日ベトナム反戦モラトリアムデー運動に参加して米国大使館にベトナム戦争反対に反対する目的で抗議に赴いたりした。なお上記はほんの一例である。
 (当初の来日目的と全くかけはねれた行動していることや、やや過激な政治運動をしていることをみれば、法務大臣が更新申請を許可しなかったことは、その処分には裁量権の逸脱濫用があるとは思えない。) 

本章 外国人の人権

マ「(少々疲れた声で)確かに少々行きすぎタ行動はしたヨ…。でも日本にいるガイコク人にも政治活動をするジユウをスコシクライみとめてモいいじゃない!それをリユウにキャッカするのは、おかしいヨ!!!!」

裁「確かに、憲法第3章の諸規定による基本的人権の保障は権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き、我が国に在留する外国人にも等しく及ぶものと解するべきであり、政治活動の自由についても、我が国の政治的意思決定又はその実施に影響を及ぼす活動等外国人の地位にかんがみこれを認めることが相当でないと解されるものを除き、その保障が及ぶものと解するのが相当である」

裁「しかしながら、外国人に対する憲法の基本的人権の保障は、右のような外国人在留制度の枠内で与えられているにすぎないものと解するのが相当であり、在留期間中の憲法の基本的人権の保障を受ける行為を在留期間の更新の際に消極的な事情としてしんしゃくされないことまでの保障が与えられているものと解することはできない」

マ「ダッタラ、認めてくれてもいいジャン!!タイシカン爆破とかカゲキハ組織と絡んでたわけではナインだからサア!!ヘイワを望むのもダメなのカ???」

裁「確かにあなたの政治活動は、その行動の態様などからみて直ちに憲法の保障が及ばない政治活動であるとは言えないが、法務大臣の判断に裁量権の逸脱・濫用を認めることはできないので、申請却下処分を違法であると判断することはできない」

おわりに

主文 本件上告を棄却する。上告費用は上告人の負担とする。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?