「地球外生命体マーク」第3話
【第3話】
東京タワーへ侵略開始(3984文字)
○とある飲食店
二話の続きから。
とある飲食店にて、マークとシノエルと小湊は腰を下ろしていた。そして小湊は語り始める。地球の社会が崩壊したときのことを……。
「それは、一ヵ月前のこと……」
小湊は真剣な眼差しで、口を開いた。
【回想/一ヵ月前】
○栄えた街(昼)
「ある日曜日に事件は起きた」
日曜日のお昼ごろ。栄えた街には、休日ということもあって人が多かった。
小湊は友人と共に、仲良く話しながら街を歩いている。
「それまでは、普通に生活していたの」
「予兆や前触れはなかった」
友達と笑い合っている小湊。
○東京
東京の街に虚ろな目をした人間が、集団で歩いている。通行人とすれ違うと、襲い掛かり嚙みついた。急速に数を増やしていく様を、一人の男性がスマホで撮影している。
「アタシが知る限り、初めて事件が認知されたのはSNSでの投稿だった」
「まるで“ゾンビ”のように正気を失った集団がいると…」
「そう、書き込みがあったの。動画付きでね」
SNSに動画がアップされて拡散される。かなり多くの数の人間に見られたようで、話題になっていた。
「しかも、それが世界中の都市で観測されたんだから大騒ぎよ」
「そういえば日本でも、はじめに投稿された動画は東京と大阪のものだったわね」
「東京タワーと大阪駅……周辺だったと思うわ」
そんなゾンビ映像の動画投稿は日本だけに止まらず、世界中の大都市で行なわれている。日本では、東京タワーと大阪駅周辺での投稿が多い。
「そんな感じで日本でも報告は増えていき……テレビで報じられた段階では、もう手遅れだった」
テレビのニュース番組で報じられるも、そのときにはゾンビの数が取り返しのつかないほど多くなっていた。テレビで必死に避難を促している。
「休日ということもあって、外に人が多かったんだもの。急速にゾンビの数が増えていき、各国家の都心部がやられたことにより情報が入ってこなくなった」
街がゾンビだらけになる。
秩序のある社会は崩壊していた。
【回想終了】
○とある飲食店
回想前に戻ってくる。全員が神妙な顔をしていた。
「アタシが知っているのは、こんなとこよ」
「嚙まれたら感染するとか、人を見たら襲ってくるとかもあるけど……そこは知っているわね?」
「そうだな。推察でしかなかったが……やはりそうなのか」
納得したように頷くマーク。
「話に出てきた“ゾンビ”ってのは、奴らのことだよな?」
マークが外を歩く、虚ろな目をした地球を指差して言う。
「ええ。そうとしか見えないでしょ?」
「……だな」
曖昧な様子で返事をしたマークは、ゾンビについて思考を巡らせる。
(嚙みつくことで感染する攻撃)
(単純だが一度広まってしまえば、こうも簡単に侵略してみせるのか)
(やはり……侵略兵器として優秀だが……)
「初めてに観測されたのは、その国で一番栄えた都心部なんだよな?」
「ええ……ネット情報だけどね」
マークとシノエルが、チラリと目を合わせる。
「ゾンビという侵略兵器は数が多いから力を発揮する。けど、逆に言うと大勢に広まるまでは脅威じゃない」
「都心部……更に人が多い休日というのは、少し作為的じゃないか?」
楽しそうにニヤけながら、推察をするマーク。
「だ…誰かが仕組んだって言いたいの!? 有り得ないでしょ! こんなことになって、誰も得しないわ!」
「さあ、ね。心当たりがなくもないが……いずれにせよ、方向性は決まったぜ」
マークは立ち上がり、くいっと背筋を伸ばした。その視線は外に向いている。
「東京タワーと大阪駅なら、どっちが近い?」
「そりゃあ、東京タワーでしょ」
「じゃあ、行こうか。ゾンビの発生源たる東京タワーに」
当然のように言ったマークの発言に、小湊は驚いた。
「な…なんで、そんなこと……危ないよ」
「確かに危険だろうな。でも原因を突き止めるには、発生源に行くのが一番いいだろう」
マークに続いて、黙っていたシノエルも立ち上がり歩き始めた。そんな彼らのことを、声で引き留める小湊。
「まさか……この原因不明のゾンビ騒動を解決しようとしてる?」
「……そんなことだ」
真実を言うわけにはいかず、マークは目を逸らして適当に誤魔化した。
「シノエル、そろそろ腹も減ってきたよな」
「ええ。旅立つ前に食料を確保しましょうか。それと小湊さん、東京タワーまで歩いていけますか?」
「いや……現実的じゃないけど」
「じゃあ、乗り物も必要ですね」
小湊のことを置いて、東京に向かう計画を立てる二人。彼らの背中を見て、小湊が叫んだ。
「あの……! 私も、東京まで連れてってよ!」
「なに?」
勇気を振り絞って叫んだ小湊を、訝しげな目で見るマーク。
「実は……アタシのお姉ちゃんが東京の研究所で働いているの」
「このパニックで無事かは分からないけど……探しに行きたい!」
「お願い! アタシを一緒に連れていって!」
「……」
黙って逡巡するマークに、シノエルが耳打ちした。
「どうします? 私には、この耳があるし……宇宙人だとバレたら厄介ですよ」
「そうだな……」
マークもシノエルに、小声で返す。
「しかし地球への案内人が必要なのも事実。それに……」
「姉が研究者ってのは、都合がいいと思わないか?」
「……!」
驚いて肩が跳ねるシノエル。
悪い顔で笑いながら、マークは続ける。
「面白くなってきたぜ。ゾンビの人体実験が現実味を帯びてきた」
「手がかりが揃ってきたな。刺激的じゃねーか」
マークは楽しそうに、小湊へ告げる。
「いいぜ。東京まで連れていってやるよ」
「ほんと!?」
その言葉に、小湊は小さくジャンプして喜んだ。
そんな姿を見ながらも、シノエルはジト目でマークに言う。
「地球人と行動して、大丈夫なんですか?」
「どーにかなるって。それに……」
マークの企むような笑顔は、一瞬だけ温かみを帯びる。
「家族のためなら、断れねーよ」
「……そういうことですか」
呆れてため息をつくシノエル。しかし訝しげな態度はなくなり、仕方ないと微笑んだ。
「よっしゃ! それじゃあ小湊隊員! 最初の任務だ!」
「食料と乗り物が置いてあるとこまで案内してくれ!」
マークが拳を突き上げると、小湊も楽しそうに笑った。
「いくぜ! 東京タワーとやらッ!」
○ショッピングモール
ショッピングモールからエンジン音が聞こえる。それは次第に大きくなり、勢いを増す。
「おりゃああああああッ!」
エンジン音を聞いて寄ってきたゾンビたちを、マークが運転するトラックが力強く跳ね飛ばした。最大限の速度を出して、超スピードで駆け抜けていく。
またトラックの荷台には、食料品が大量に積まれていた。
「これなら、ゾンビをぶっ飛ばして東京タワーまで行けるぜ!」
「そう、上手くいきますかね!? うわあっ!」
トラックが傾くとシノエルが悲鳴を上げる。トラックは運転席と助手席の二席しか用意されておらず、そこにマークとシノエルと小湊が無理やり乗車していた。
「それにしても、このトラック! いいデザインしてんじゃねーか!」
「最高におもしれー土産話だぜ!」
楽しそうに運転するマークに、小湊は地図を見ながら冷静にツッコむ。
「なんなのそれ、トラックくらい見たことあるでしょ。そこ右ね」
「あはは……冗談冗談……」
「気をつけてくださいね」
乾いた笑いで誤魔化すマークに、シノエルが低い声で注意する。
三人を乗せたトラックは、爆速で東京タワーへと進んでいく。
○公道(夕方)
二車線ある公道。ゾンビを跳ね飛ばしながらトラックが走っていた。
「あ、そこ左です」
小湊はトラックの中で、マークに道を教えている。
ハンドルを左回転させるマーク。運転も慣れてきたようで、手際がいい。
「渋滞や信号がないのは良いんだけど……」
マークたちが走っていた道路の先は、建物が倒壊して先に進めなくなっていた。
苦い顔をした三人は、地図を覗き込む。
「結構通れない道があるな」
「こっちに行ってみます?」
「どうだろ、この辺って建物が多いからなあ」
トラックの中で、三人が地図を指差して話し合う。
つまり、油断していたのだ。車内にいれば安全だと、勘違いしていた。
「――なんだ!?」
突如として、トラックに強烈な衝撃が走った。
「やば……っ」
「急所を守れ! 倒れるぞ!」
その攻撃は、一度だけではない。二度目には更に勢いのある追撃が行われた。
荷台に積んでいた食料品が地面に落ちる。
「きゃあっ!」
それだけでは、終わらなかった。三度目の衝撃では、いよいよトラックが横転してしまった。
「くっ……! 大丈夫か!?」
悲鳴を上げるシノエルと小湊を、抱きかかえるようにして庇うマーク。なんとか怪我は免れたものの、トラックの外に出るしかない。
「一体、なにが……!」
外に出ると、そこには大量のゾンビがいた。
しかし、ただのゾンビではなかった。
「なんだ……あの生物……」
「ルデイドの民と少し似ているような……」
マークとシノエルが、そのゾンビを見ながら考える。
「人間以外の……動物のゾンビ?」
小湊が、答えを呟いた。
そう、目の前にいたのは無数の動物のゾンビ。ライオン、ゾウ、サイなど動物園でお馴染みの動物がゾンビとして揃っている。
「そういえば……この辺って動物園があったかも……。このパニックでゾンビになって抜け出してきたってこと!?」
「ど…どうしよう!」
小湊は地図に書かれていた動物園の表記を思い出して、頭を抱える。
「いままで、こんなゾンビはいなかったわけだが……。その動物園ってのがなけりゃ、普通はいないわけだよな?」
「え……? そりゃ、まあ……」
「そうか、つまりレア種なわけだ」
口角を上げるマーク。
シノエルは、嫌な予感がした。
「先輩……まさか……」
「ゾンビ人間より、強そうだな。つまり兵器としちゃ格上……」
「あのゾンビども、捕獲して研究材料にするぞ!」