「地球外生命体マーク」第2話
【第2話】
はじめまして、地球人(3972文字)
○ある程度栄えた街(昼)
それなりに栄えて店や背の高い建物が並ぶ街。そこには、まともな人間が一人もいなかった。
たくさんの人間たちが、虚ろな目をしてゆっくりと歩いている。
『地球を侵略しに来たら、既に侵略されていた』
『こんなに面白いことは、ないっ!』
○山の中
一話のラストにて襲ってきた地球人は、頭部を破壊されて倒れていた。大破した宇宙船の近くで、マークとシノエルは話し合っている。
「死んでも襲い掛かってくる生物たち……」
「これを兵器利用するって……具体的に、どうするんですか?」
シノエルは不安そうな顔をして、マークに問いかける。
「やっぱ、俺らの当初の目的である地球の探索をするべきだろうな」
「なぜ死んでも襲い掛かってくるようになったのか。原因を知る必要がある」
楽しそうに今後の方向性を考えるマーク。
「俺らの最終目的は、二つだ」
二本の指を立てて、マークが挑戦的に笑いながら言う。
「一つ目、この現象を調べて解明する。そして、軍事利用できるようにすること」
「二つ目、帰還するための宇宙船を手に入れること」
マークは二本の指を一つずつ折りながら、説明した。
「“ああ”なった地球人を、人体実験でもして研究するつもりですか?」
「ま、それも悪くないが……本格的な研究をできるほど知識や設備があるわけじゃない。ちょっと先の話になるかもな」
嫌そうな顔をするシノエルを全く気にせずに、マークは続ける。
「まずは、生きている地球人を探すべきだろ。いつから、どうやって、こんな事件が起きたのか現地民から聞き出すんだ」
「刺激的で、面白いじゃねーか……地球さんよぉ……」
ニヤリと笑って、今後の指針を定めた。
○ある程度栄えた街
二話の冒頭で出てきた街。
二人はズラリと並ぶ建物の上から、異常な地球人だらけの街を見下ろしていた。
シノエルは常人では考えられないほど、高く飛び跳ねる。抱えられたマークと共に、別の建物に跳躍して移った。
「すげージャンプ力だな」
「跳躍力に関して自信のある種族なので」
ウサギ耳が隠された帽子を抑えて、軽快にジャンプするシノエル。
「でも……こんな世界で生きている地球人なんて存在するのでしょうか」
シノエルが暗い顔をしているのは、街の様子が思っていた以上に悲惨だったからだ。
虚ろな目をして歩く地球人ばかり。建物がところどころ倒壊していた。
「さあ、な。予想以上に酷くて、さすがの俺もびっくりだぜ」
凄惨な街の様子を眺めて、冷や汗をかくマーク。
「生きているヤツがいるとすれば、こんな危険地帯じゃないことは確かだ」
「安全と……食料が確保できる場所がありゃ理想だろうな」
「地球にあるか分からないですが……大型のショッピングモール、ですかね」
二人は街の様子を観察しながら、推測する。
遠くない距離に、一つの店にしては大きい建物があった。
「ま、いずれにせよ俺たちも何か食わないと死ぬしな。食料品がありそうな施設を捜索するか……」
「あのデカイ建物に向かってくれ」
「了解です」
大きい建物を指差すマーク。
シノエルは頷くと、自慢の跳躍力を使って、建物の上を移動し始めた。
○大型ショッピングモールの近く
大きい建物の周辺までやってくる二人。建物の上を飛び跳ねていると、唐突に悲鳴が聞こえてくる。
「きゃあッ!」
「――!」
人の声に過敏に反応する二人。声の方を見ると、一人の若い女性が、虚ろな目の地球人たちに襲われていた。服はボロボロで、肌が艶めかしく露出している。
「シノエル!」
「分かってます!」
シノエルはマークを抱えながら、建物の上から飛び降りる。
地上に降りると、虚ろな目をした地球人の合間を縫って、全速力で駆け出した。
「あ……」
女性が転んでしまう。そして、そんな隙を虚ろな目の地球人たちは見逃さなかった。女性に覆いかぶさると、大きく口を開いて嚙みつこうとする。
「きゃあああああっ!」
悲鳴を上げる女性。だが嚙みつかれることはなかった。
「あぶねー……危機一髪だぜ」
「え……?」
女性が顔を上げると、そこには襲い掛かってくる地球人をぶっ飛ばしたマークがいた。隣でシノエルが心配そうな顔をしている。
「大丈夫か? ひとまずは、安心していいぜ」
マークが女性に手を差し伸べる。
しかしマークの手は、女性にパシンと叩かれてしまった。
「触らないで……!」
助けてもらった相手に対して向ける目をしていない。女性の瞳は、明らかに敵意を持っていた。身体は震えており、安堵した態度ではない。
「あー……急に悪かったな」
愛想笑いをしながら、頭を掻くマーク。
(地球人の気に障るようなこと、したか?)
(さあ……? でも翻訳機能は働いています。コミュニケーションは可能なようですよ)
マークとシノエルは、ひそひそと耳打ちして話す。
「えーっと……少し聞きたいことがあるんだが」
「実は俺たち、田舎モンでな。どうも情報が疎くて、どーいう経緯でこんな有様になったか知らないんだ。よけりゃ教えてくれねーか?」
「なんで、そんなこと教えなきゃいけないの?」
細心の注意を払って質問したマークを、バッサリと切り捨てる女性。とても冷たく、取り付く島もなかった。
「なんだコイツ……!」
「まあまあまあ……」
イラついて襲い掛かろうとするマークを、シノエルはどうにか宥める。
「とりあえず、安全な場所に移動しましょう」
「お互い、そこは求めているでしょ?」
周囲には虚ろな目をした地球人がたくさんいる。ゆっくりとしたペースでマークたちに向かって歩いてきていた。
○コンビニの中
棚が倒れていたり、商品が腐っていたり、散々な様子のコンビニ店内の奥にマークたちは避難していた。入口に棚を移動させてバリケードを作っている。
「えーっと……小湊さん、だったよね」
「……はい」
シノエルが恐る恐る聞くと、静かに女性――小湊が頷く。
「あんなとこで、なにしていたのかな?」
「もしかして、まだ生き残っている人間がいたりするの?」
「…………」
なるべく優しそうな顔を作って質問するシノエル。だが、小湊は黙っていて何も話そうとしない。ただ、俯いているだけだった。
「なにか話してくれると嬉しいんだけどなぁ」
「…………」
会話が成立しない。
そんな中で小湊を観察していたマークは、ぶっきらぼうに言う。
「襲われたんだろ」
「……正常な人間に」
「え?」
顔を背けて、静かに告げるマーク。
彼の発言にシノエルは呆気に取られ、小湊は身体を震わせた。
「なんで、そんなこと分かるのよ」
小湊は自分の身体を抱きながら、問いかける。
「ボロボロの服や表情、怯え方をみてりゃ分かる。俺らを見て、安堵するどころか怖がってたからな」
「……」
「それに、こんな事件に巻き込まれる前のことだが……俺も同じような経験をしていてな」
マークの言葉を聞いて、ハッして顔を上げる小湊。
「まあ…詳細は省くが、散々ひどい目にあってさ。今でも奴隷のように働かされてるってわけだ」
「今は働いてないでしょ。こんな世界だし……」
そっぽを向いてはいるものの、小湊は会話に参加し始める。
「何があったか、話してみろよ。時間が解決しない場合もある。そういう場合は、むしろ時を追うごとに辛くなっていくんだ」
「一生抱え込んだままじゃ手遅れになるぞ。俺みたいにな」
彼の表情は、厳しさと切なさが同居していた。
小湊が口を開き始める。
「アタシは数人でショッピングモールで立てこもってた」
「けど、知り合いだったわけじゃない連中との生活は大変でね」
「ただでさえ、ストレスのある状態に加えて……食料や生活のことで揉めて、人間関係が悪化して……」
「そして、ある日。男の人が、突然……」
小湊は膝を抱えて、唇を噛んだ。血が薄っすらと流れる。
「なんとか逃げてこれたけど、もう誰も信用できない」
「私が信用できたのは、人間じゃなくて秩序を形成する法律だって思い知った」
「だから、アタシは――――」
と、そのとき。
「パリン」というガラスの割れる音で会話が強制的に終了した。
「ああ? 小湊じゃねーか」
「――――え?」
ガラスを破壊して店内に入ってきたのは、大柄な男性だった。
そんな男を絶望的な表情で見つめる、小湊。
「しかも、もう一人べっぴんさんもいやがる」
「なんですか、貴方たち」
下品な目を向けられて、露骨に嫌な顔をするシノエル。
「飯だけじゃなく、女もいるとはな……」
「やめてッ!」
男が一歩近づくと、小湊が恐怖で叫ぶ。
「お願い、近寄らないでっ!」
「なに言ってんだ、こんな状況で一緒に生活した仲じゃんね-か」
「ふざけないで!」
小湊の言葉で男は止まらない。一歩ずつ下品な目で近寄る。
「へへっ、また一緒に遊ぼベゲボッ!?」
そんな品性下劣な男は、頭部に強い衝撃を喰らい血を噴き出して倒れる。
マークが落ちていた電子レンジを、男に叩きつけたのだ。
「ひゃあっ!」
びっくりして頭を抑える小湊。
そんな彼女に小湊は堂々とした態度で言った。
「知ってるか? 秩序がないなら、それなりのやり方があるんだぜ」
「社会が崩壊してるんだろ? だったら全ての判断をするのは、法律じゃなくお前自身だぜ」
マークが電子レンジを置いて、小湊に歩み寄る。
彼女はマークが近づいても、震えなかった。ただただ、啞然と彼を見ている。
「俺たちが、どういうヤツなのかも含めてな」
着ていた洋服を小湊にかけてあげるマーク。
「……はい」
小湊は安堵して、涙を流した。
○とある飲食店
マークたちは別の建物に移動して腰を下ろしていた。
「本当に何も知らないんですか?」
不審そうな顔で問いかける小湊。
「田舎だと情報が入ってこなくてな」
「だから教えて欲しいんだ。どうして、こうなったのか」
マークの真剣な眼差しを受けて、小湊は語り始めた。
「それは、一か月前のこと……」