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不意に振り返り、そして見上げる

およそ1年半。長く住んでいる人からすると“たった”1年半だろう。しかし、私は“もう”1年半経ったのか、と感じている。

両親も、祖父母もずっと同じ県、同じ市で暮らしてきたタイプの人間だった。3つ離れた姉は私よりも2年早く家を出て、東京ではなく千葉に住んでいた。だから、私が親族の中で初めて東京に住み始めた人である。
きっかけは、就職だった。とはいえ、目的は気軽に映画やライブや観劇に行くためである。私の地元は関西にある県でしかも県庁所在地なので、それなりに映画館にも行けるし、ライブもあるし観劇もできる環境ではあった。だが、映画館はともかくライブや観劇に行くには基本的に2時間弱かけて大阪へ行かなければならなかった。しかし今や、全て1時間もかからない。電車代も安い。高い家賃と引き替えに、最高の趣味環境を手に入れたのである。

この1年半でたくさんの作品に触れた。休日でも資格取得の圧のおかげで折れそうになった心を助けてもらった。もちろん配信も見るが、やはり生の音、生の芝居、専用の設備、これらから生み出されるエネルギーを直で受け取れる時間は最高の癒しだ。
それと、たまたま近所で行われていた撮影にも遭遇した。(地元でも何本も撮影されていたが、意外と遭遇したことはない。)きっと、頻度の差なのだろう。ただ、私と同じく働く誰かの仕事現場に遭遇した、ただそれだけなのにすごく、東京、を感じた。
そんな些細な瞬間に東京を感じていただけで、あっという間に1年半が経ってしまったのである。早すぎる。

最初は東京の地理すらも分からず、会社に紹介された不動産会社に頼り、会社の人が多く住むらしいという沿線に決め、何となく始まった東京一人暮らし生活。ある時は誕生日にコロナにかかり点滴を打ったり、ある時は謎の胃痛でしばらくちゃんとした食事がとれなかったり、散々なこともあった。地元の山と海が懐かしくなることもあった。(これは未だにある。東京は自然が少なすぎる。綺麗な海が見える場所もない。)だけどなんだかんだこの1年半、学生ほど時間は無いけれど自由に、仕事は程々にして趣味を詰め、充実した生活を送れていたと思う。これからもそんな生活を送っていきたい。

ふと街灯の少ない住宅街で見上げた夜空に少しでも星が見えるとテンションが上がる。東京の空は星が見えないと思っていたから。これはある意味お得かもしれない。

#上京のはなし

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