衛星紹介シリーズ3:SAR衛星(合成開口レーダ)
※表紙の写真はXバンドSAR衛星 ©︎iQPS
こんにちは、ペンギンラボです。衛星紹介シリーズ第3弾はこれまで紹介してきた光学衛星とは違って、SAR衛星(合成開口レーダ)についてその技術的背景を交えて書いていきたいと思います。
SAR衛星の基本
合成開口レーダー(Synthetic Aperture Radar, SAR)を搭載した衛星は、地球表面を高解像度で観測するための強力なツールです。これらの衛星は、レーダー波を使って地球の任意の地点を昼夜問わず、また天候の影響を受けることなく詳細に観測することが可能です。SAR技術の特異性は、雲や雨が覆う下でも地表を透過する能力にあります。
技術的要素と進歩
SAR衛星の主要な技術的要素には、以下のようなものがあります:
レーダーシステム:SARは、特定の波長のレーダー波を利用して地球表面からの反射波を受信します。このシステムにより、植生の密度、地形の変化、その他多くの地表の特徴を詳細に捉えることができます。
開口合成:衛星が地球を周回する際、受信したデータから広範囲にわたる仮想的な「アンテナ」を作成し、これにより解像度を大幅に向上させます。このプロセスは、観測地点に対する衛星の相対速度と位置に基づいています。この技術の詳細は後述します。
画像処理技術:収集されたデータは複雑なアルゴリズムを通じて処理され、地表の精密な3Dマップへと変換されます。この処理により、地形の微細な変動までもが捉えられるため、科学研究や商用利用に極めて有用です。
SARの開口合成の原理
SARでは、物理的には小さいアンテナを使用しますが、衛星または航空機が移動するにつれて、異なる位置から同じ地点に対してデータを収集します。これにより、アンテナが実際には数百メートルから数キロメートルもの大きさを持つかのようにデータを合成することができます。これが「開口合成」と呼ばれるプロセスです。
解像度の向上メカニズム
移動によるデータ収集:SAR搭載のプラットフォーム(衛星や航空機)は、対象地点を横切りながら連続的にレーダー波を送受信します。この動きにより、異なる角度からのデータが集まり、対象地点に対する詳細な情報が得られます。
長い有効開口長:合成される開口の長さは、移動距離によって決まります。実際のアンテナのサイズよりもはるかに長い開口を合成することで、はるかに高い解像度を達成できます。この効果は、望遠鏡が大きなミラーを使って遠くの星の詳細を捉えるのに似ています。
位相情報の利用:SARは受信したレーダー波の位相情報も利用します。これにより、同一地点に対するさまざまな時点での詳細な距離情報を得ることができ、更に精度の高い画像を生成することが可能になります。
SARの解像度計算式
SARの解像度 R は、合成開口の長さ L とレーダー波の波長 λ に依存します。基本的な計算式は次の通りです:
$$
R = (λ⋅R_0) / (2L)
$$
ここで、
波長 λ(レーダー波の波長):
使用されるレーダー波の波長は、観測対象によって異なりますが、通常は数センチメートルから数十センチメートルです。波長が短いほど、理論的にはより高い解像度が得られます。対象距離 R0(レーダーから対象までの距離):
この距離は、レーダーから目標物までの直線距離です。衛星SARでは数百キロメートルに及ぶことがあります。合成開口長 L(合成開口の長さ):
これは、レーダーがデータを収集する際に移動する距離に相当します。実際のアンテナのサイズよりもはるかに大きく、数キロメートルに及ぶことがあります。
この式から、合成開口長 L が大きくなるほど、分母が大きくなり、解像度 R が向上する(数値が小さくなる)ことがわかります。つまり、より長い距離を移動してデータを収集することで、より高い解像度の画像が得られるということです。この原理により、SARは地球観測や他の応用で非常に有効な技術とされています。
最新のユースケース
SAR衛星の応用範囲は広く、以下のような最新の利用例があります:
災害管理:地滑りや洪水、地震といった自然災害の前兆を検出し、影響を受けた地域のマッピングを通じて迅速な対応を支援します。
農業監視:畑の湿度や作物の成長状態を監視することで、農業生産性の最適化に寄与しています。
都市開発と計画:都市の拡がりやインフラの整備状況を定期的に監視し、より効率的な都市計画の策定を可能にします。
気候変動研究:氷河の後退や砂漠化の進行など、気候変動の影響を詳細に追跡し、環境保護政策の立案に貢献します。
参照URL
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