小説 フィリピン“日本兵探し” (8)
サマール島の都市、カルバヨグ。滝や洞窟が点在していることで知られる。タカシやマサたちを乗せたジプニーは、街に入って行った。
ハルミがマサに、「すぐにジュンさんのレストランに行きますか?先にスーパー寄って何か買って行きますか?」と聞いた。「スーパーは行かんでもよかでしょうが。早くジュンのところに行きましょうよ。彼のレストランで会うんでしたっけ?」、マサは、買い物の釣りを小遣いにしているハルミの提案を煩わしそうに断り、早く先へ進むよう促した。
ジプニーは、街中のレストランの前に止まる。マサ一行、サミエルら自警団3人、ハルミとアキラがぞろぞろと車から降りた。自警団3人の腰には自動式のピストルがあり、威圧感を漂わせていた。
ハルミが先頭でレストランに入り、マサたち日本人を連れて来たことをタガログ語でジュンの子分らしき男に告げると、その男が店の奥にいるジュンを呼びに行った。
タカシたちは、客のいないレストランの椅子にバラバラで座り、ジュンを待った。
数分たって、中肉中背の筋肉質な体をした男が、小柄な若者を連れて奥から現れた。筋肉質な男は、白の短パンに赤いポロシャツという出で立ちで、右の腰に大きなメタリックシルバーの回転式の銃をぶら下げていた。若者は殴られたような傷が顔にあり、ヨレヨレの薄いブルーのシャツを羽織って、下は黒っぽい短パンという格好だった。
「この方がジュンさんです」、ハルミは筋肉質な男とタガログ語で話した後、彼がジュンだとマサたちに紹介した。「どうも。でも誰なの?横の人は?けがしとるやない」とマサが聞いた。ハルミが「アウアウさんですよ」と答える。「本当ね?写真の人と違うやない」、マサが、いい加減なハルミの話を聞いて、怒り気味に尋ねた。「Who is he?」、タカシがそこに英語で割って入った。ジュンは、「こいつはアウアウの兄だ」と英語で答えた。確かに写真の若者と似た雰囲気を持っている。日本兵を知っているというアウアウではなく、その兄を連れて来て、どういうつもりなのか。「兄ではなくアウアウ本人は、きょういないのか?」とタカシが聞くと、「きょうアウアウには会わせられないので、兄のジェイジェイの話を聞いてくれ」と、ジュンは、これで十分だろといわんばかりに、小柄なジェイジェイを前に引っ張り出し、コンクリートの床に正座させた。ジェイジェイはタガログ語で、「アウアウは、洞窟のおじいさんに食べ物を持って行っている。自分しか信用していないから、他の人とは会わないと言っていた」と語った。「ジェイジェイさんは洞窟の場所は知ってるの?」マサが日本語で聞き、ハルミがタガログ語で伝えた。「ジャングルに入って1、2キロ行くと、巨大なマングローブの木が3本立っている場所があるんだよ。そのすぐ近くに小さな川が流れていて、上流に行くと滝がある。その滝の近くの洞窟だとアウアウは言っていた」とジェイジェイは答えた。
共産ゲリラのジュンは、話はここまでという仕草をして、「アウアウの話を聞きたいなら金を払え」とついに本性を現した。ジェイジェイの話は「予告編」というわけだ。そして、アウアウに会いたいのであれば、100万ペソ(約250万円)を出すよう要求してきた。左手でコインのマークを作って、腰のピストルに右手を掛けながら。