こんな北朝鮮に注目! 金政権と資本主義の共存!?
チャンマダンで富を蓄えた北朝鮮の新興資本家は「金主(トンジュ)」と呼ばれる。その背後には、お金と商品の流通を操る華僑商人がいる。北朝鮮経済の実状を金正恩氏よりも、よく知っているのが華僑商人といわれている。華僑商人は中国から原料を持ち込んで北朝鮮の工場で自分たちが必要な物を生産するケースもある。
金主の種類をいくつかにまとめた。
1.国営レストランの名義を借りて運営する金主
2.交通手段が劣悪な北朝鮮で、物流や人を輸送するバスやトラックであるサービス車業をする金主
3.浴場を建設し運営する金主
4.鉱山などの国営貿易会社を運営する金主
1つずつ見ていくと
国営レストラン
国営のレストランの名義を借りる金主の場合、形式だけ国営であるだけで、実質的な運営は金主がする。名義は、国の企業所や商業管理所だが、個人が資金を投資して運営する合議制のレストランだ。
こうしたサービス業は成長して、合議制レストランが2007年には平壌全体で300軒程度。また、非公式に運営する個人食堂に至っては平壌で2300軒ぐらいあった。
交通手段(サービス車)
サービス車業をする金主もいる。交通手段が劣悪な北朝鮮では、サービスと車を合わせた、サービス車という形が人気だが、物流や人を輸送するバスやトラックが代表的である。小型トラックをバスの代わりに運行する場合もある。金主が中古車を購入し、この事業をしている。2010年時点では、サービス車が、北朝鮮の人的・物的移動の半分以上を占めていた。過去、北朝鮮は国家輸送網のほとんどを鉄道に依存したが、経済難と電力難が重なった1996年〜98年までは鉄道の稼働率が40%未満にまで下がる状況に追い込まれた。サービス車はこの時から、鉄道の代替として普及し始め、2004年に常設市場が出来ると、住民の移動と物流需要が爆発的に増加する時代の流れに乗って、北朝鮮の輸送手段の中心となった。
鉱山
鉱山などの国営貿易会社を経営する金主もいる。彼らは必要な設備を整え、鉱夫を雇って、石炭の採掘までを直接行っており、国営企業の名義を借りただけで、民間経営に等しい。国に定額を支払えば、残りの利益はすべて金主の取り分である。
北朝鮮経済は変化しており、こうした流れを生み出した重要な存在がまさに金主だ。ひとことで言うと、北朝鮮経済は個人事業家に支えられており、金主によって動くといっても過言ではない。
外国との取引
また、金主の活動領域は国内だけでなく、外国を行き来しながら商売をする。時計、コーヒー、ラーメンなどの商品を購入して、小規模な商売から貿易まで、分野は幅広く多様である。中国の国境の町、丹東にいる北朝鮮の金主の中には、北朝鮮の国営会社や中国の貿易会社の名義を借りて、個人のビジネスを展開する者もかなりいるという。彼らは1日の宿泊料金が7万円を超える高級ホテルに宿泊したり、丹東の高級マンションで生活している。
アメリカの高校卒業証書が授与される国際学校
彼らはアメリカ人とも抵抗感なく交流しながら、子供たちをアメリカ式で教える国際学校に送ることもある。2013年には、アメリカの高校の卒業証書が授与され、外国の大学を志望できる資格が与えられる国際学校が丹東に開校した。その学校の15%は北朝鮮の生徒だ。
国際学校の校長は、学校を設立した最大の理由を「北朝鮮の開放だ」としている。最高級の施設を備え、すべての授業が英語で行われ、1年の学費は約130万円。この地域の北朝鮮の人々の経済力を想像することができる。北朝鮮の生徒の評価は非常に良い。優秀な成績で開放的で、進歩的だそうだ。
市場の手に委ねられる不動産
北朝鮮の金主の最高投資先は他でもない不動産である。食糧も住宅も配給制だった北朝鮮に、いつから不動産市場が出来たのか?
北朝鮮が慢性的な住宅不足になったのは、かなり昔のことである。1980年前後、北朝鮮のベビーブーム世代が結婚適齢期に達し、住宅不足が頂点に達した。1990年代半ば、飢饉と経済的苦難を乗り越えるための「苦難の行軍」があり、住宅配給制が事実上崩壊した。そして2000年、経済活動によりお金を稼いだ人々の影響で住宅販売が活発になった。今ではお金を持っている個人が国の機関の名義を借りて、マンションを建てて販売しながら北朝鮮の不動産市場を形成している。
もちろん、社会主義国家である北朝鮮で個人が住宅を所有することはできない。北朝鮮では、住宅を所有する権利は国にしかなく、個人には「ライセンス」のみが保証される。個人は「住宅利用許可証」を国からもらう。そして、この許可証が「登記」のように取引されているのだ。住宅が配給されていたころは、許可証をもらうためにお金を出す必要がなかったが、今では、資本主義社会のようにお金が必要で、お金があってこそ家を手に入れることができる。脱北者のアンケートでも、北朝鮮では、お金で住宅を購入した(66.9%)が、国から家を割り当てられた(14.5%)より多かった。
不動産業者
住宅利用許可証の取引は原則的には違法であるため、初期には、賄賂を渡して売り買いが行われた。しかし、住宅の取引が活発になった2000年以降は、マンション建設と分譲に関与して許可証を専門的に取り扱う住宅ブローカーが登場した。つまり、不動産業者である。通常、取引の10%程度を手数料として受け取るようだ。
建設ブーム
金主のお金が不動産に集中し、平壌だけでなく北朝鮮の全域で、マンション建設ブームが起きている。マンションを建てる経済力がない北朝鮮政府は土地を貸し、金主の投資を受けてマンションを建設している。1990年代では、マンションを建てるのに5年〜10年がかかったが、2010年以降は、金主の投資のおかげで、1年〜1年半でマンションが建つ。建設期間は10倍も短縮されたのだ。北朝鮮全体で不動産市場は拡大し、マンションの建設が土地に莫大な付加価値を創出して経済全般にいい影響を及ぼしている。
ウォーターパークがオープン
金正恩氏の成果とされるウォーターパーク事業も金主が投資して建設された代表的な例である。2013年に平壌にオープンした、北朝鮮の最大の「紋繍(ムンス)ウォーターパーク」は、屋内・屋外プールや波のプール、大型滑り台、フィットネスセンター、屋内クライミング場、高級バイキングレストランを備えており、内部がすべて大理石の床になっている豪華さだ。その建設事業には、金主が重要な役割を果たした。
金主は、北朝鮮の社会主義体制の下で法的な保護は受けられない。しかし、北朝鮮社会で市場経済の論理を拡散させていることは明らかだ。同時に、金主の利権を庇護する権力層との癒着も指摘される。また、金正恩政権も金主の資金力を、建設工事や土木工事に活用しているようだ。
金正恩氏は、可能ならば、国の財政出動は抑え民間資金をうまく引き込んで、経済を活性化。国の計画目標を達成するために、金主を活用しているという。金主と金正恩政権の足並みは揃っているのだろう。
金融
一方、金主は個人のお金で投資し、北朝鮮の金融市場を活性化させている。北朝鮮の国営銀行である朝鮮中央銀行や貯金所は預金をしても、その預金を下ろすのが難しく、利子もまともに付かないため、国民の信用を失った。金主は、両替、貸し出し、送金などの金融サービスを銀行に代わって引き受け、利子や手数料で利益を得ている。違法金融だが、銀行より安定しており、国民の支持を得ているという。
金主と浴場
浴場も金主が投資する案件の一つだ。いいマンションでも、一般家庭には、風呂の設備がないので、浴場がかなり収益の良いビジネスなのだ。
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