No. 24 英語教育とtranslingual ③【translanguaging再考】
はじめに
前回の投稿では、trans-という接頭語の意味と現代的な意義について詳しく述べました。trans-が「越える、超越する」といった意味を持つということ、そして現代ではtransgender(=男/女の垣根を越えた、性別を超越した)という言葉をよく耳にするように、日常にもtransは受け入れられ、色々な場面に入ってきているということを確認しました。
今回の投稿では、trans-という接頭語に続くlanguagingという言葉について簡単に書きます。SLAを勉強されている方ならピンとくるかもしれませんが、translanguaging自体が知られ始めたばかりですし、意外と知られていないかもしれません。
このlanguagingという言葉を知っておくとより深くtranslanguagingを理解できるはずですので、ぜひ最後までお読みください。
languaging
これは「アウトプット仮説」で有名なSwainの概念です。以下の引用 (Swain, 2013) をご覧ください。
languagingは思考(のプロセス)を仲介するものだ。それは心理的な道具で、それによって私たちは新しい考えを内在化させたり、以前理解できなかったことを私たち自身に理解させたりする。だから、どの年齢の生徒でも、協働的対話や個人内の対話の機会を与えることが重要である。
単に脳内の情報を「外に出す」outputとは異なり、ことばを使う行為自体に焦点を当て、その行為がただの意味伝達だけでなく思考を司っていると考えるのがlanguagingということです。
これを踏まえて、translanguagingを再考してみましょう。
translguaging
「越える、超越する」というtrans-と、ことばを使って思考するlanguaging。これらを合わせると、以下のような定義になります。
言語的・意味的資源の統合されたレパートリーを駆使して特定の聞き手(相手)に対して意図した意味を伝える営み
いかがでしょうか?
こう考えると、translanguagingはただ単に複数の言語を使う(例 code-switching)現象ではない、というのがわかるはずです。
英語教育に関する素晴らしい文献にも、最近ではtranslanguagingについて書かれたりしています。おそらくトレンドを反映した結果なのでしょう。
しかし、残念ながら、「英語の授業で日本語を使ってもいいよね、その方が効率がいいなら」というような意味合いでtranslanguagingについて書かれていることも散見されます。あえて読者向けに簡単にしているのかもしれませんが、これは危惧すべきことです。なぜならば、translanguagingをただ「複数の言語を効率よく使うこと」として理解されてしまうと、それはまた「オールイングリッシュ」と二項対立的にみられてしまい、いずれ現場からtranslanguagingは不必要(inputの方が大事)と思われて排除されてしまうと思うからです。
translanguagingは、「オールイングリッシュ」と相対する考え方ではありません。この投稿を読んでくださった方ならもうおわかりだと思いますが、あえてもう一度言わせていただきました。
translanguagingは、「言語の垣根を越えて、言語を含む様々な意味資源から新しい、意図された意味を創出する営み」なのです。
おわりに
今回の投稿では、translanguagingの定義についてまとめました。
最近translanguagingが注目されてきているのは嬉しいことなのですが、限定的な意味で知れ渡ってしまうこと、そしてそれにより現場から排除されていってしまうことにならないように注意していかなければなりません。今回の投稿がその一助になれば幸いです。
translanguagingを駆使すると、言語学習に彩りが出てくると思います。言い換えると、新しい、自分好みのidentitiesを創出することができるのです。より楽しくなりそうですね!
この可能性を私は信じていますし、これが実現するよう地道にSNS投稿を続けていきたいと思います。
参考文献
Swain, M. (2013). The inseparability of cognition and emotion in second language
learning. Language Teaching, 46(2), 195-207. doi:10.1017/S0261444811000486
Turnbull, B. (2020). Beyond bilingualism in Japan: Examining the translingual trends
of a “monolingual” nation. International Journal of Bilingualism, 24(4), 634-650.
https://doi.org/10.1177/1367006919873428
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